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幸せな気持ち

しばらく俺が抱きしめた状態で二人で泣いた。


そして俺は美緒の隣に座った。




「美緒、ごめんね。もう自分の気持ちに嘘はつけない。俺は美緒が好きなんだ」


「わ…私も律君が好き」




美緒は手のひらで涙を拭ってる。




「もう絶対離さないから…」


「うん…」


「約束する」


「うん」


「もしかしたら苦労かけることもあるかもしれない」


「一緒に頑張る」


「俺が幸せにするから一緒にいよう」




俺がそういうと美緒は、まだ目に涙をためながらではあるが、こっち向いてニコッと笑って、






「お願いします」






と言った。





「でもさ、よく俺のこと探そうと思ったね」


「あ、こ、これを返そうと…」




そう言うと美緒は鞄から、何も入っていない空のタッパーを出した。


あー! チャーシューおすそ分けした時のやつ!!




「チャーシューの時のやつ! ただのタッパーなのに…」


「だ、だって、返すだけなら律君に会ってもいいかと思って…。本当に会いたくて…。でもメッセージ送っても既読にもならないし…」


「あぁ、仕事では仕事の携帯渡されてたから、個人の携帯存在すら忘れてて、充電してない…。で、でもそっか。ありがとう…でも、俺もずっと美緒のこと想ってたよ」


「私も…」


「同じだね」


「そうだね」


「しかしこいつのおかげかぁ」




と俺はタッパーを持った。




「それがなかったら私も探すきっかけができなかったかも」


「家宝にしないとだね(笑)」


「そうだね(笑)」




俺と美緒は二人でお互いを見ながら笑った。










「美緒、愛してるよ」










俺はそう言って、美緒の肩を持ってキスをした。


初めてのキス。







初めてのキスは幸せな気持ちでいっぱいだった。








暫くそのまま2人で話して、MTGルームを出た。


するとマスターと会長さんがニヤニヤとしながらこっちを見た。




「あーなんだ、律。言い忘れてたが、その会議室上開いてるんだわ(笑)」




と会長さんが言うので、俺と美緒はパッと今出てきたMTGルームの上部を見た。


本当だ、上が少し開いている…。




俺と美緒はそれがどういうことか直ぐに理解して、2人で下を向いた。





「今時こんな純情なやつらいるんだなぁ」


「本当じゃのぉ。今日はいい日じゃ」


「マスターいいワイン開けましょう! つまみお願いしますよ!」


「そうじゃの! そんじゃ最高のつまみでも作るかの!」




と2人ははしゃぎだした。


俺と美緒はそれを見ながら、なんだか微笑ましくなり、2人でニコッと笑った。




俺がマスターの調理を手伝ってつまみを作っていると、ワインを持ってきた会長さんが、




「律よ、仕事はどうすんだ?」


「そうですね…どうしましょうか…折角皆さんにも覚えてもらえてきたところなので…」




と俺が言うと、美緒が、




「あのお店で律君が働き続けるなら、私もあのお店で働きます!」


「おお! そりゃめちゃくちゃいい話だな! こんなに美人な子探したっていねーぞ!」


「いやいや、待ってそれはだめ! 美緒が他の男の人と一緒にいるなんて許せない!」


「なんだお前、さっきまではすげー広い心持ってたくせに、急に狭量になったな」


「俺はもう自分の気持ちに嘘はつかないって決めたんす!」


「で、でも、律君あのお店で働き続けたら、もしかしたら好きになっちゃうかもしれない…。だってあんなにスタイルよくて綺麗な人と仲良さそうに…」




あぁ、ゆうさんか。


ゆうさん確かにスタイルいいんだよね。美緒には到底及ばないけど。


しかも性格も悪くない。美緒には到底及ばないけど。


ま、美緒と一緒にいると決めた今、美緒に並び立つ人なんてこの世に存在しないんだけど!



でも、俺が好きな人ができたとか言ったから敏感になってしまっているのかもしれない…。


それは俺のせいだ…。




「まぁ確かにちと強引ではあったが、律は才能あんだよなぁ。女の子から担当変えてくれなんてそうねーぞ」


「あれなんすよ。どの人もキャストさんを商品だと思いすぎなんすよ。後、変にすれてます。後、なんか緩いっす。お客さんも、お金を使えば何してもいいなんてことないすから」


「まぁそうなんだがなぁ。お前のそういうところが今の結果なんだろうなぁ」


「美緒は働かないけど、俺は続けるって選択肢はある?」




俺は美緒に聞いた。




「ない。絶対にない! 絶対に絶対にいや!!」




美緒がこんなに強く自分の意思を言うのも初めてだ。


きっと俺と同じで、自分の気持ちに嘘をついて大変だったから、もう気持ちに嘘をつくのはやめようって思ってるんだろう。




「会長さん、すいません。そういうことなんで、続けられそうにないです…。よくしていただいたのに、本当に申し訳ありません」




と、俺が調理の手伝いの手を止めて頭を下げると、




「ああ、いいぞ。んじゃちと電話してくるわ」




俺が「え?」と思っていると、会長さんは電話しにいき、しばらくして戻ってきた。




「はい、今日で終わり。あ、ただ流石に今月の給料はねーからな?」


「あ、いえ、それはいいっす。でも大丈夫なんすか?」


「この業界じゃボーイが飛ぶなんてよくあることだ」


「担当とかは?」


「あーそりゃ店長のやつがなんとかするだろうよ」


「そうですか…本当すいません」


「まぁマスターのつまみで勘弁してやるよ!」


「わしのつまみはうまいぞぉ」





そう言うとマスターは、チーズフリットをテーブルに出した。




「いやぁ最高だね!」


「いや、それじゃ俺が納得できないっす」


「ったく、本当お前今時のやつか? 実は既に50歳ぐらいなんじゃねーのか?」


「20歳っす! 俺、これから料理修業します。そんでいつかマスターが認めてくれたら、会長さんの会社の人全員に俺の料理ご馳走します! 出世払いみたいで申し訳ないですが…」




俺がそう言ってガバッと頭を下げると、会長さんは、




「いいねいいね、嫌いじゃねーよそういうの! よしわかった。マスターが認めたら一回会社のやつ全員にご馳走してくれ!」


「うっす!」


「それまでに会社のやつ1万人以上いるようしねーとなぁ」




と会長さんはニヤッとしながら言った。




「男に二言はないっす! 全員です!」


「わはは! 楽しみに待ってるぜ!」




そして暫く4人で話していると、美緒は緊張の緒が切れたのか、少し眠そうにしだしたので、奥のソファー席と毛布を貸してもらって寝かせた。


眠そうに横になった美緒の手を握っていると、美緒はそれはもう嬉しそうに幸せそうに眠った。


俺がマスターと会長さんのところに戻ると、2人は会長さんが持ってきたワイン片手に楽しく話してた。




「律坊、料理修業どこでするんじゃ?」


「まだ考えてないっす。でもどこでもいいです」


「んじゃわしの元いた店紹介してやる」


「そ、それって三ツ星レストランですよね?」


「うむ」


「いや、流石に…」


「いやいや、スーパーテイスターなんてそういねーから、頑張って修行してこい」




俺は少し考えたが、一流の仕事を勉強できることなんてそうない。


そう思って、




「マスターいつもいつも本当すいません。よろしくお願いします!」




と頭を下げた。




「ほぼ住み込みぐらいになるだろうし、最初は皿洗いとかだけじゃよ?」


「望むところっす!」




と、俺がこぶしを握って言うと、会長さんが、




「だはは、しかし、今時こんなに気持ちいい感じのやついるんだなぁ!」


「本当そうじゃ。生い立ち的には腐ってもおかしくないのにのぉ」


「俺、母親がダメな人なんで、ちゃんとしようってことだけは決めてるんです!」


「いいことだ。そのままがんばれよ律」


「うっす!」




そして3人で朝まで話した。


後半は、美緒ちゃんとはどこまで進んだのかとか、俺達の馴れ初めとか、改めて言うとそれはもうこっぱずかしいエピソードを肴に、2人が飲んでただけだけど…。





翌朝、会社の人が来てしまうということで、8時ごろに美緒を起こした。





「美緒、おはよ」




俺が美緒の肩を軽くゆすって美緒を起こすと、美緒はゆっくり目を開けて、その目からは涙があふれてきた。




「え、え? ど、どうしたの?」


「だ、だって…律君がいるのが嬉しくて…」




なんて可愛いんだ…。


こんな子を泣かすなんて俺は本当にダメなやつだ…。


しかし本当会長さんの言う通り、許されるのはうれし泣きだけだな…。


そんなことを想いつつも、




「美緒、そろそろ会社の人来ちゃうから出ないと」


「そ、そっか…」


「だから、行こう」


「うん…」




俺が美緒を起こしたのが見えたマスターが、




「んじゃ、出るかの。わしはホテルとってくれたみたいだから、そこで寝てから帰るとするわ」


「あ、うん、マスター色々ありがとう」


「とりあえず落ち着いたら一回電話せい。今後のこと話そうや」


「わかった」




そうして3人で会社を出て、マスターはホテルに向かい、俺と美緒は俺の寮に向かった。


寮の外で美緒には待っていてもらい、急いで着替えて、持ってきたものをまとめて俺は寮をあとにした。


そして二人でそのまま駅に向かう。


朝、会社に出勤してくる人が多い中、私服でこれから帰る俺と美緒。


なんか変な気分だ…。




通勤とは逆向きで、すごく空いている電車に二人で座った。




「美緒、この後家に送ればいいよね?」


「どうしようかな…」


「え?」


「もう私、家出するつもりで出てきたから…」


「そうだったんだ…」


「うん」


「俺は自分の母親好きじゃないというか嫌いだけど、美緒に家族と仲悪くなって欲しいとは思ってないよ?」


「うん…」


「それにちゃんと話してみないと、俺達みたいになにかすれ違いがあるかもしれない」


「確かに…。律君、全然違うことって言ったのに信じてくれなかった…」


「いや、だって! 美緒はすごい優しいから! でも、ごめん…」


「ふふふ、いいよ。この3ヵ月辛かったけど、こうやってこれからまた一緒にいれるならいい」


「おれも…」


「じゃあ一回帰ろうかな…」


「うん、それがいいよ」


「律君も来て?」


「いいの?」


「うん、そうじゃないと私またお父さんに怒っちゃいそうだから」


「わかったよ」


「でも、寝てないんでしょ律君…」


「あー、なんかアドレナリン出てるのか、全然眠くないから大丈夫!」


「そっか…ありがと」


「うん!」




そうやって二人で手を繋ぎながら座って話しながら帰った。

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