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全然違う街

「ゆうさんほら飲み過ぎですよー」




そう言って俺は、閉店後の店内で横になっているゆうさんに水を渡す。




「りっちゃんー、おぶって帰ってー」


「無理っすよ。お客さん見られたら俺殺されちゃいますよ。とりあえず落ち着いたらちゃんと帰ってくださいねー」




俺は今、新宿のキャバクラ「Club Beretta」でボーイをやっている。



母親に危険を感じた俺はその日のうちに家を出た。


マスターならここじゃない街でもつてがあるのではと思い、マスターに連絡したら、店に来いと言われた。



店に行くとマスターもきてくれていて、ここ最近のいきさつをざっくり話した。


美緒とのことは本当にそれでいいのか聞かれたが、俺は美緒を想い続けるだけでいいと言った。




そして、どうせならお金を稼ぎたいとも伝えた。


将来料理を仕事にしたい。


その為にいっぱい働ける今のうちに、店を出せるぐらいお金を貯めたいと。




マスターは俺の話を頷きながら聞いてくれて、「仕事の内容は選ばないか?」と聞かれたので、違法なこと以外ならなんでもやると答えた。


そして、マスターに知り合いがいて、すぐに働かせてくれそうな職業をいくつか言われた。


俺はその中で、キャバクラのボーイと言う仕事を指定した。


理由は、仕組みをざっくり聞いた感じ、中卒の俺でもできそうだし、稼げる可能性がある。


そしてマスターは電話してくれて、翌日から新宿のキャバクラのボーイの仕事ができるよう話してくれた。


しかもなんとマスターが相談した人はホストのお店も経営していて、ホスト用の寮を貸してくれるらしい。


漫画喫茶生活とかかと思っていたから願ったりかなったりだ。


しかしその日はもう遅い時間だったので、翌日新宿へ行くこととなり、その日はマスターのお店に泊まった。



しかしマスターの人脈の広さは尋常じゃないな…。






そして翌日、午前中のうちに倉庫に行き、横山さんに急だけど仕事を続けられなくなったことを話した。


折角拾ってもらったのに、本当に申し訳なく、俺はその場で横山さんに土下座して謝罪した。


横山さんは了解してくれて、御園さんが呼ばれて手続きを行った。


後日渡さなきゃいかない書類があるということだったので、マスターのお店の住所を伝えた。


大丈夫かと横山さんに聞かれたが、大丈夫だから心配しないで欲しいと伝えた。





そしてその後、マスターと一緒に新宿に行き、マスターが紹介してくれたいかにもって感じの怖そうな会長さんと話して、その場で採用が決まった。


なんならホストにならないか? と聞かれたが、正直美緒以外の女の人に、その人が気分を良くするような言葉を言える気がしないので断った。


そしてそのまま、寮を案内された。


職場から徒歩圏内の4LDKの古いアパートで、ルームシェアするような感じだ。


そしてその会長さんに連れられ、同部屋になる人達に紹介され、その後店に行き、店長さんに紹介された。



そして仕事着のスーツのようなものを渡され、俺は寮に戻り着替えて店に戻った。


まずは見習いと言うことで、先輩ボーイさんに言われた通りに動く。


店がオープンする頃には、キラキラしたドレスに身を包んだ女の人が何人も入ってくる。


「新人です、よろしくお願いします」と挨拶するも、皆会釈だけしてスマホを操作している。




そうして俺はボーイとして働きだした。








「律、サリちゃんがアフター来て欲しいって言ってたぞ」




ゆうさんを介抱して、水を渡して戻ってきた俺に店長が声をかけた。




「サリさん今日のお客さんだと…あー…行ってきますわ…」




俺はそう言うとサリさんに電話した。




「サリさんアフターどこですか?」


「律君! 来てくれる?」


「はい、だって今日の人逃げないとですよね?」


「さっすが! この前のbeyondってところ!」


「了解です。こっちの仕事終わったら向かいますね」


「なるはやねー!」







もうこの街に来て3カ月ぐらいだ。



仕事にはすぐに慣れた。


働き出して2週間ぐらい経った頃、後始末を終えて深夜と言うか早朝ぐらいに帰ろうと歩いていたら、ふらふらしてるゆうさんがお客さんに引っ張られてる姿が見えた。


なんだか結構酔っぱらってる感じだったけど、何となく嫌そうな感じだと思った俺は、さりげなく近づいて道の反対側から、「あれ、ゆうさん!」と大きな声で声をかけた。


お客さんはチッみたいな顔をして、「酔っぱらっちゃってるから介抱しようかと」と言うので、「お客様にそんな汚れ仕事は恐れ多いです!」と強引にゆうさんを引きはがして店に退散した。


案の定、微妙に意識はあるが結構酔っぱらってしまっており、店のソファーに寝かせて介抱した。


そしてゆうさんは10時頃に起きると、記憶はちゃんとあるようで、怖かったと泣かれた。



ゆうさんをなだめつつ、落ち着いたらゆうさんをタクシーに乗せて、俺は歩いて家に帰った。



そして次の日店に行くと、なんとゆうさんが俺に担当を変更したと店長に言われた。


そしてそれからは、ゆうさんと仲の良い人が何人か俺の担当へと変更になった。


正直運がよかった。


他のボーイの人にはあまりいい顔されなかったが、店長さんのさらに上の上の会長さんの紹介と言うこともあってか特に表立って何かということはなかった。




そうして俺は、2カ月目にしてそこそこ稼げるようになった。




幸いお酒は好きではないが、そこそこ飲める体質の様で、今のところはなんとかなってる。


ただこれをずっとは続けられないなぁ、舌がバカになっちゃいそうだ…。


お酒の味もそのまま普通よりわかってしまうので、すごい刺激なのだ。


と思いつつも、今は稼げるから頑張る! そう思いながらサリさんのアフター先に向かった。




本当にこの街は、これまで住んでいたところとは全然違う。


明け方まで人がいっぱいいて、叫び声が聞こえたり、喧嘩みたいになってたり、ホストと女の人が中良さそうにホテルに入っていったり、色々なことが起こる。



この前なんて、夜中に店のゴミ出しに外に出たら、ホストみたいな人と太った人に、バーの店員さんらしき女の人が叫んでた。



怖い怖い。


マスターからも会長さんからも聞いていたが、幸い、普通に働いている分には怖いことは起こらない。


そこだけはイメージと違った。




そしてまた数日たち、いつも通り俺が店前で開店前の掃除をしているときに後ろから声をかけられた。




「り、律君…」




え?


俺が聞き間違えるはずがない。


振り向いちゃいけない。


空耳に決まってる。


そう思いつつも、俺は3か月も想い続けてきたからか、振り向きたい衝動を止めることができず、掃除の手を止めて振り返るった。




そこには、もう会えることはないと思っていた美緒がいた。




マスターが後ろに立ってるから、きっとマスターに連れてきてもらったのだろう。




「み、美緒…」


「あの、り、律君…」




と美緒が話そうとすると店の中から、




「りっちゃんー! 今日来る私のお客さんねーって。知り合い?」




とゆうさんが店から出てきた。




「えっと、あの今行きます! み、美緒、今から仕事だから…」




と言って俺が店に入ろうとすると、




「待ってるから!」




と美緒に言われた。


俺は何も言わず店に入った。




「りっちゃん彼女?」




と店の中に入ったらゆうさんに聞かれた。




「いえ、元彼女です」


「へぇ、おっかけてきちゃった系?」


「それはないと思うんですけど…」


「まぁりっちゃん若いし、イケメンだし優しいしねー! それで今日のお客さんなんだけどさ…」




俺はそのままゆうさんと段取りの打ち合わせをして、そのまま仕事に入った。




そして仕事終わりの時間になると、




「律、今日はあがっていいぞ」


「あ、今日はゆうさんのアフター行かなきゃなんですが」


「ああ、そっちは今日は俺が行く」


「え?」


「会長からの指示だ」


「りょ、了解っす」




そして俺は住所が書かれた紙を渡されて、ここで会長の知り合いと会長がいるから行ってくれと言われた。



俺は急いでその指定された住所に向かうと、そこは繁華街のど真ん中からは少し離れたオフィスビルのような感じだった。



ビルの中に入り、指定の5階に向かいエレベーターを降りると、いい匂いがした。


これは、マスターの料理の匂いだ。


そう思って俺はその匂いの方へ向かった。



そこはビルの外観とは似つかわしくないお洒落なオフィスで、その奥のフリースペースでマスターが料理をしていて、その前に会長さんが座ってる。


そして美緒も…。

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