【西条美緒視点】私のことは私が決める
私は店を飛び出そうとすると、
「え、あ、と、とりあえず、この店いつも開いてるわけじゃないから、これ! 名刺にわしの連絡先載っておるから、いつでも電話して!!」
「はい、ありがとうございます!!!」
私は名刺を受け取り、家に走って帰った。
勢いよく玄関を開けて、そのままリビングに行く。
「お母さん!!!」
「な、なに美緒、って、え? どうしたの? 泣いてるの?」
「うるさい! 今すぐお父さん呼んで!」
「え、まだお昼だし、仕事行ってるよ?」
「そんなのいいから今すぐ! じゃないと私、いますぐこの家のお父さんのもの全てこの場で燃やしてしまうかもしれない!!!!」
「ええ?! 一体…」
「はやく!!!」
自分でもこんなに大きな声が出るとは思わなかった。
お母さんは私に気圧されて、スマホでお父さんに電話した。
「そ、早退するから、30分で帰るって…」
「1分でも遅刻したら燃やすから!」
と私は大きな声で言って自分の部屋に行った。
許せない。
絶対お父さんが何か言ったに決まってる。
よく考えればあまりに唐突だった。
理由だって、律君の生活はほとんど私には見えていたから、そんな機会すらなかっただろう。
私はそんな怒りに支配されながら部屋で待った。
そして30分後ぐらいに、家のドアがガチャっと開いた音が聞こえたので、私は怒り心頭のまま向かった。
玄関に私がつくと、お母さんが出迎えて靴を脱いでいるお父さんがいた。
お父さんは私をみると、
「み、美緒いったい…」
「いいから、早くリビングに来て」
私は冷たく言った。
私は先にリビングに入ってダイニングテーブルに座ると、お父さんはスーツのままリビングに入ってきてソファーに座った。
お母さんは、ダイニングテーブルの私の向かいに座った。
「お父さん、律君になに言ったの」
と私が言うとお父さんは沈黙した。
「何言ったか聞いてるの!! 早く答えて!!!!」
お父さんはしばらくすると、
「いや、す、少し、み、美緒と距離を置いて欲しいと…」
とばつが悪そうな感じで言った。
そしてお母さんは知らなかったのか「はぁ?!」みたいな顔になっている。
「何言ったか全部言って!! 今すぐ! じゃないとこの家のお父さんのものこの場で今から全部燃やすから!」
と私が怒りに任せて言うと、お母さんが、
「あ、あなた、それは流石に……早く言ってあげて…」
と言った。
お父さんは少しだけ間を置くと、律君と話した内容を話した。
私は途中から怒りでどうにかなりそうになりながらも、一通り最後まで聞き、
「そんなの中卒だからって! 未来がないからって! 勝手に決めつけて! 別れろって言ってるようなもんじゃない!!!!!!!!」
私の目からは涙があふれてきた。
「私がどれだけ辛かったと思ってるのよ! どれだけ彼に助けられたと思ってるのよ! 今まで何もしてこなかったくせに!! 信じられない!」
と私が言うと、
「お、お父さんだって、父親として美緒の今後を考えてだな!」
と言うので私は途中で遮って、
「私の今後?! 私の今後をどうしてお父さんが決めるのよ! 私のことは私が決めるから!!! 父親として?! 何偉そうに! 私が嫌だって言ってるのに庄司君の家に何も言えずにいるくせに! 父親なら娘が嫌だって言ってることぐらいなんとかしなさいよ!」
そういうとお父さんは黙った。
「そんな簡単なこともできないくせに、偉そうに父親ぶらないで! そのくせ余計なところだけ口出しして!! 私一生許さないから!!!!!!!」
私はそれだけ言うとリビングを飛び出て、部屋に向かい、シャツをはおって、鞄にタッパーを入れて、それとスマホを持って玄関に向かった。
リビングから慌てて出てきたお母さんが、
「み、美緒? どこに…?」
私はキッとお母さんを睨んで何も言わずに家を飛び出た。
そしてすぐにマスターに電話した。
幸いマスターはまだ店にいると言っていた。
律君は好きな人ができたとかじゃない。
お父さんが余計なことを言って、身を引いてくれたんだ…。
律君はもう私のことなんて忘れてるかもしれないけど、好きな人がいるとかじゃないのなら、もう一度私を見てくれるかもしれない。
真相を知ってしまった私の心は、この3ヵ月、律君を想い続けることだけで保っていたたがが外れて、あふれてくる本当の気持ちを抑えきれなくなった。
私は律君と一緒にいたい。
律君がいないのはやっぱり嫌だ。
律君!!!!!
私はあふれてくる涙を拭いもせず走った。
そして勢いよくキッチン三枝のドアを開けた。
「みおちゃん」
「ハァハァ…マスターさん…ハァハァ、律君、どこにいるか、知ってますか?」
私は息を切らしながらマスターに聞いた。
マスターはカウンターの裏から水をついでくれたコップを出してくれた。
「まぁまぁ落ち着きなさい、少し水でも飲んで」
「は、はい…」
私はそういうとカウンターに座り、水を一気に飲み干した。
ふーと私が息を落ち着けるとマスターが話しかけてきた。
「みおちゃん」
「はい」
「律坊に会いたいかい?」
「…はい。会いたいです。会って謝りたい。そしてもし律君がまだ私のことを覚えていてくれてるなら、もう一度私を見てもらえるように頑張りたいです」
「そうか……それじゃあ行こうか」
そう言うとマスターはエプロンを外した。
「律坊は今、新宿におるよ」




