【西条美緒視点】律君を探して
次の日は授業の日だったが、それどころじゃない、律君に何かあったのかもしれないと思って自主休講した。
そして意を決して、律君の職場に向かった。
倉庫の事務所らしきところで、外に出てきたおばさんに話しかけた。
「あ、あの…」
「あら? どうされました?」
「わ、私西条美緒と申しますが、樫木律君はいらっしゃいますか?」
するとそのおばさんは「え?」みたいな顔をした。
「律君なら、8月末ぐらいで辞めちゃったよ?」
と言われ、今度は私が「え?」となってしまった。
「ま、まぁ、ここじゃなんだからこっち来て」
そう言っておばさんは事務所の中に入っていくので、その後をついていくと、応接スペースのようなところに通された。
「ちょっと待っててね」
そう言って、おばさんは持ってきてくれたお茶を置いて、事務所の外に出ていった。
暫くすると、そのおばさんと少しがたいのいいおじさんが入ってきて座った。
「こんにちは横山と言います」
「私は御園よー」
「は、はい、西条美緒です」
「あれかな、律の彼女かな?」
「そうでした…」
「ああ、そういうこと…」
そう言うと横山さんは少し「むーん」として、話し出した。
「本当は話しちゃいけないんだろうけど…えっと律は8月末で辞めたよ」
「なんででしょう…」
「なんだかね、お母さんのことで色々あったみたいで、住んでる家にいれない状況になったって」
「そ、そうなんですね…」
律君のお母さん。
確かに存在はしているはずだ。
律君が中3の時に出ていったっきりで、私も何度もお邪魔していたが痕跡すらなかった。
「そう。だから急だけど倉庫の仕事が続けられないって」
「そうですか…どこに行ったかは聞いていますか?」
「いや、そこまでは聞いてないね。一応大丈夫だから心配しないでくれとは言ってたけど。なんか鬼気迫る感じで俺も詳しく突っ込めなかったんだよ」
「そうですか…」
「力になれなくてごめんなぁ」
「あ、いえ…」
「まぁそういうとなんで、俺は行くね。御園さん後はよろしく」
「はーい」
そう言うと横山さんは出ていった。
「律君、探してるの?」
「は、はい…返したいものがあって…」
「そっかぁ…でも私達もわからないのよぉ…」
「そうですよね…ありがとうございます」
「いえいえ、なんかこっちに連絡あったら伝えるから、一応連絡先だけ教えてもらえる?」
「あ、はい」
そう言って御園さんはメモ用紙を出してきたので、私は名前と電話番号を書いた。
「それじゃ、何かあったら連絡するね」
「はい、急にありがとうございました」
「いえいえ! それじゃあね!」
「はい」
私はそう言うと、御園さんに頭を下げて事務所を出た。
どうしよう…。
唯一にして最有力の場所に律君がいない。
一気に手詰まりだ。
私はどうしようと思いながら、いつもの公園に向かった。
あれ以来、初めてここに来た。
何にも変わらない。
もちろん律君もいない。
そういえば律君と出会ったのもこれぐらいの時期だったっけ…。
私はそう思いながら、律君の家の近くのコンビニやスーパー、今まで一緒に行ったことがあるところを巡ったが、もちろん見つからない。
そして最後に私は、キッチン三枝に向かった。
いつ開いているかわからないって言ってたし、開いてないかもしれないけど、後はここだけ。
そう思うと、私と律君の行動範囲って本当に公園が中心だったんだなと思うぐらい少ない…。
そんなことを思いつつ2階のドアの前に行くと、キッチン三枝と書かれた看板が裏を向いてる。
休みか…。
そう思いつつも、ものは試しだと私はドアを開けようとしてみると………開いた。
恐る恐るドアをそのまま開けて、中を覗くと、カウンターで何か作業をしているマスターが、話しかけてきた。
「今日は休みだよー」
「あ、あの…」
と私が言うと、マスターは顔をあげて、
「ん? あ! みおちゃんじゃねーか! どうしたよ!」
「あの、えっと…」
「ああ、大丈夫だから、ドア閉めてこっちきな!」
私はドアを閉めて、マスターの前のカウンターに座った。
「あの…」
「律坊のことか?」
「はい…。どこにいるか知りませんか? 返したいものがあって…」
「ああなんだ、詳しいことはわしも知らんのだが、ちょっと待ってな」
そう言って、マスターはカウンターの後ろからコップを取って、オレンジジュースをついでくれた。
私は出されたオレンジジュースを一口飲むと、
「みおちゃんとは別れたとわしは律坊から聞いておる」
「は、はい…」
「理由は何だと聞いておる?」
「好きな人ができたと……」
「やはりのぉ。みおちゃんは律坊のことを今はどう思っておる?」
とマスターさんが言うので、
「好きです…。律君はいなくなっちゃったけど、私の中には律君しかいません。こ、このまま一生想い続けてられればいいと…」
そういうとなんだか急に涙が出てきた。
「そうかそうかぁ」
「が、がんばってきました…。でもやっぱり律君がいて欲しいです私は。一緒にいたいです」
あれ以来、初めて自分の本当の気持ちを表に出した。
もう涙が止まらない。
だって本当は一緒にいたいんだもん…。
暫く私が泣いていると、
「なるほどのぉ…わしが言っていいことなんかどうかはわからんが、律坊に好きな人ができたってのは嘘じゃ」
私は泣きながらマスターを「え?」と凝視してしまった。
「みおちゃん、それは嘘じゃ。律坊なりに気を遣ったんじゃろて」
「ど、どういう…」
「詳しいことはわしも知らんが、なんでも職場でみおちゃんのお父さんと話したと言っておったぞ」
「え? お父さん?」
「うむ。それでやっぱり中卒には難しかったんだって言っておったな」
お父さん。
なに言ったの。
私にも言わずに律くんに直接。
意味わかんない。
「それでその後な…」
というマスターさんの話をさえぎって、私は、
「ありがとうございました! また来ます!!」
と言って席を立った。
涙は止まった。
今は頭も心も怒りでいっぱいだ。




