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【西条美緒視点】タッパー

そして長い夏休みも終わり、大学も始まり、もうすぐ11月だ。


相変わらずお父さんとは話もしない。


庄司君のことがあってからは、もう正直お父さんが敵にすら見える。




本当親同士の話を子どもに持ち込まないで欲しい。




そんなことを思いながら、今日は休みの日なので完全装備の私は部屋で本を読んでいる。


この冒険物の小説の主人公が、なんだか律君みたいで楽しい。


律君がファンタジーな世界にいたらきっとこんな感じなんだと思う。


そう思うと、ふふふと楽しくなる。



正直ふとした瞬間に律君を思いだして、涙がポロっと出てきてしまうこともあるが、律君を想い続けると決めているからそこまで引きずらない。


やっぱり律君との想い出を大切にしたいって私の気持ちの方が強いみたいだ。


そんなことを思いながら本を読んでいると、いきなり部屋のドアが開いた。




「み、美緒あなた、モデルになったの?」




と言うお母さんの手にはwiwiが握られている。


そういえば言うの忘れてた。


初めて載ってから、次の号にも私は載っている。




「うん、まぁアルバイトだけどね」


「で、でも、あなたこんな有名な雑誌にこんなに大きく…」


「コーディネートしてくれた編集長さんが気を利かせてくれたんじゃないかな。でもよくwiwiなんて見たね」


「え、あ、いや、私じゃなく…」




とお母さんが途中まで言うと、お母さんの後ろから、




「おっす! なんか見たことあるなぁと思ったらやっぱりみおちゃんだよねこれ」




と庄司君が言った。


何で家に入れてるのよ…。


はぁ、wiwi言っとけばよかった……。




「どちらさまですか」


「えー冷たいなー! ねーねー、みおちゃん、これからもwiwiでるの?」


「あなたには関係ありません」


「ねーねー連絡先教えてよ! お父さんからも機会があったらよろしくって言われてるしさ!」




もう本当面倒くさい。


親の力を借りないと何もできないかこの人は。




「わかりました」




そう言って私はLimeのQRコードを出してお母さんに渡した。




「おおー! ありがとねー!」




庄司君はそう言うと、そのQRコードを自分のスマホで読み取った。


そして私のスマホをお母さんに渡した。




「んじゃ登録しておくね!」




そういうと、私のスマホのLimeでも新しい友達になった。


私はそれをその場でブロックした。




「これで連絡取れるから、今度よかったら遊びに行こうよ!」


「いきません、用事がないなら帰ってください」


「うん、今日はwiwi持ってきただけだから、また今度ねー」




と手をひらひらさせて、部屋の入口の前からいなくなった。


お母さんもそれに続いて歩いていく。


そして暫くすると「美緒いい?」と部屋がノックされたので、返事をするとお母さんが入ってきた。




「連絡先良かったの?」


「いいもなにも家にいれたのお母さんでしょ」


「だって雑誌見せられてびっくりしちゃって…」


「はぁ、まぁ私も言うの忘れてたから何も言えないけど、だからって家にいれないでよ。次家にいれたら通報するから」


「わ、わかったわ…」


「ちなみに連絡先はもうブロックしたから」


「そ、そう…あ、それはそれとして、美緒、律君と何かあったんだとは思うけど…これ、どうする?」




とお母さんは後ろ手に持っていたものを前に出した。


お母さんの手にはタッパーがある。


前に一緒にチャーシューを作って、家に持って帰ってきたときのタッパーだ。


あれ、美味しかったなぁ…。




「ただのタッパーだからいらないのかもしれないけど…」




とお母さんが言う。






待って。


これを返しに行くということなら、別に会ってもいいのではないか?


別に、復縁してほしいとかそんなことを迫るつもりはない。


ただ、一目見るだけで、私は元気になれる。


声が少しだけでも聞ければ、私はもっと頑張れる。


この3カ月ほど、律君へのその想いだけで頑張ってきた。




「い、いる!」




そう言って私はお母さんの手からタッパーを取った。




「そ、そう? まぁ美緒に任せるわ」




そういうとお母さんは部屋から出ていった。




返しに行くだけ。


それだけだ。


何も悪いことじゃない。



律君を振るなんてことはこの世の女性ならあり得ないだろうから、新しい彼女さんと鉢合わせするかもしれないが、返すだけだから大丈夫だろう。





そうして私は、律君の仕事が終わって家にいる確率の高い22時ごろに律君の家に向かった。


律君の仕事はシフト制で時間がバラバラだけど、この時間には家にいることが多かった。





そうして律君の家に行くと、電気が付いていなかった。


自転車もない。


今日は違う時間のタイミングだったのかな…。


ここで待っていても変な人だ。


また明日来よう。




そう思って次の日また22時過ぎに律君の家に行くが、電気がついてないし自転車もない。



そしてその次の日もまた。



流石におかしい。


3日間も連続で22時にいないことなんて、付き合ってる間には1度もなかった。



私はおかしいと思い、家に近づき玄関に行ってみる。


するとポストから郵便物があふれているし、なんだかドアに手紙みたいなものも挟まってる。




これは流石におかしすぎる。


いくらなんでも家に帰ってきて、この状態のままにするってことはないだろう。




そう思いながら私は家の周りをぐるぐるして、窓から中を見てみるが全然わからない。




もしかして律君、この家を出た?


もしそうだとしたら、律君がどこにいるかだなんて全くわからない。


私はスマホを出して、あの日以来初めて律君にメッセージを送った。




『あの、お返ししたいものがあるのですが、家にいらっしゃらないようで…』





メッセージは既読にならない。




私はその日はそのまま家に帰った。

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