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【西条美緒視点】律君と過ごした日々

律君に別れを告げられてどれぐらい経ったのかわからない。


ここ数日、私はほとんど部屋から出ていない。


スマホもいつから充電していないのかわからない。


あんなに大好きだった小説も読む気にならない。




「美緒、入るわよ」




そう言ってお母さんが部屋に入ってきて、ベットにいる私に言った。




「一体どうしちゃったの? 律君と何かあった?」


「…」


「何か言ってくれないとわからないわ」


「関係ない」


「でも、ご飯もほとんど食べてないし…」


「いいから、話しかけないで」


「…とりあえず、ご飯はちゃんと食べるのよ」


「いらない」


「…あとで持ってくるから」




そう言うとお母さんは部屋から出ていった。







私には律君しかいない。


今でもあの笑顔を思い出す。


子犬みたいに、喜んだり笑ったり。




でもきっと、その笑顔は別の人に向けられているのだろう。


正直その人の次でもいい。


律君が近くにいてくれるのなら、2番目でもなんなら5番目でもいい。


でも、律君はいなくなってしまった。




やっぱり髪を切って洋服を変えたって、私が幽霊女だったことは変わらない。


きっと今までが奇跡だったんだ。



その時が来ちゃっただけ。




楽しかったな。


幸せだったな。




そう思うとまた涙が出てきた。




私はそのまましばらく泣いて寝てしまった。







「……緒…美緒?」




私は目を覚ますとお母さんがいた。




「あなたいつまで寝てるの?」




カーテンも閉め切っているので今何時かすらわからない。




「りょう君が、元気づけたいってお見舞いに来てくれたけど」




もう苛立ちすら感じない。




「なんで知ってるの」


「昨日別件があったみたいで来てくれたんだけど、今話せる状況じゃないって伝えて昨日は帰ってもらったのよ」




なんで私のことを勝手に話すのよ。




「そんな人知らない」


「み、美緒?」


「不審者よ、警察に電話して」


「……きょ、今日は帰ってもらうわね」




そういうとお母さんは部屋から出ていった。


そして私は起き上がり、流石に暫くお風呂に入っていなかったから、お風呂に向かった。




お風呂から上がり、飲み物を取りにリビングに向かった。


今はどうも昼のようだ。




「み、美緒、どうしたのかお母さんに教えて?」




とキッチンにいたお母さんが話しかけてきた。


私は何も答えず、コップにお茶を注ぎ部屋に戻った。


部屋に戻り何をするわけでもなくボーっと机に座る。


もう何をする気にもなれない。







私には律君しかいなかったんだと思う。


私一人しかいなかった暗い物語に、突如現れた主人公のような律君。


世界が明るくなっただけじゃなく、私自身まで明るくなった。


相変わらず人と話すことは苦手だけれど、それでも律君と出会ってからのこの1年ぐらいで、大きく変わったと思う。



律君が応援してくれたから、今の私がある。





そう思うと、確かに律君はもういないけど、元に戻ることはできない。


それは、律君と過ごした楽しい想い出すら否定することになる。


それだけは絶対に嫌だ。




私はそう思うと、化粧をしだした。


特にどこかに行くわけじゃない。


でも、律君に応援してもらって2人で楽しく前に向かった時間を大切にしたい。




これから律君に変わる人なんて現れない。


だって私の心にはずっと律君がいる。


律君はいなくなっちゃったけど、律君との想い出と律君への想いを胸に生きて行く。




これまでありがとう。


私は律君への想いを胸にしまって、これからも生きて行くよ。


想うぐらいはいいよね?





私はそうして前を向いた。





そして次の日は、ちゃんと朝に起きて顔を洗い、化粧をして、洋服も着替えて、完全フル装備で部屋で本を読んだ。


ものすごく集中できるわけじゃないけど、律君を想い続けると決めてからは少し楽になったからか、普通に読むことはできた。


しばらくすると、「美緒起きてる?」とドアがノックされた。




「はい」




するとお母さんが部屋に入ってきた。




「あら、どこか行くの?」


「行かない」


「でもお化粧までして」


「別にいいでしょ」


「まぁそうだけど…りょ、りょうくんがお見舞いに来てくれたけど、今なら大丈夫そうね」




本当、意味わからない。


庄司君のお父さんに頭があがらないのかなんなのか知らないけど、正直お父さんもお母さんも庄司君も、どうなったら私が会ってもいいと思うと思ったのかその神経がわからない。




「お母さん」


「なーに? もう来ちゃってるから早くしないと」


「昨日言ったよね? 知らない人だって、警察に電話してって」


「う…ん。でもそれは、昨日はあんなんだったから…」


「お母さんが電話できないなら私が警察に電話する」




そう言って私が机の上にあるスマホを持つと、




「わ、わかったから! 帰ってもらうね! ごめんね!」




と、慌ててお母さんは部屋から出ていった。






それからは別に特段毎日どこかに出かけたりはしないが、家の中でも完全装備。


この完全装備な私が、律君との時間の結果だ。


あの後も、庄司君が何回か家に来たが、もうお母さんも私に聞くことなく断っている。


それもあってか、最近では来ていない。





谷川さんからも連絡が来て、次の撮影がしたいということだったのでそれも受けた。




律君今頃新しい好きな人と幸せかな?



私は頑張ってるよ?




律君と過ごしたあの時間を無駄にはしない。




「はーい、美緒ちゃんそれじゃあ次ここで撮ろうか!」


「はい!」


「半分ぐらい椅子に腰かける感じでー、そうそう!」




律君を大切に想うこの気持ちを胸に、私も頑張るね。

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― 新着の感想 ―
[一言] い、痛い......心が...... 大人たちがあまりにもダメすぎる...... 律くんが、不器用なのにがんばれ過ぎちゃう子なのも辛い...... マスター、律くんと美緒ちゃんを、なん…
[一言] 父親も父親なら母親も母親だな 前作ではまともな両親が出てたけど 今回は一人もまともな大人がいない 本当なら卒業時の担任、校長、教育委員会が 動かないとならない また、職場の上司や社長、あとマ…
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