【西条美緒視点】本の虫の楽しみ
小学生にもなると私は本の虫と言ってもいい状態になった。
お父さんがシナリオライター(未だ見習いだが)のおかげか、我が家には小説が結構多く、本には困らなかった。
その頃にはもう現在のように、髪が長く、前髪も顎ぐらいまで伸びており、最初はクラスの子から怖がられた。
私はそんな状況を改善しようともせず、より本に没頭していった。
すると皆、私に害がないとわかったようで、怖がりから次第に陰口や笑いの話題になっていった。
もちろん私も聞こえてはいたが、私には本があるのでどうでもよかった。
そうしてそのまま、小学→中学→高校と生活してきた。
本はいい。
色んな種類の本があるが、私は冒険物が好きだ。
自分がその世界に行ったかのような感覚になる冒険物は非常に楽しい。
対して読みはするが現実物は苦手だ。
どうしても出てくる描写に現実感があることで、自分を想像してしまって物語が頭に入ってきにくい。
読みはするのだけれど…。
近所でも、ヒソヒソと幽霊娘さんだわ…。なんていわれているのが聞こえてきたこともあるが、もう無視。
私は本と生き、本と死ぬ。
お母さんからは、「お母さんのせいで本当にごめんね…」とこの前泣きながら謝られたが、もうどうにもならない。
両親も、もちろんそう言われている事を知っているのだろうが、お母さんの髪を切る失敗が問題の発端でもあるので何も言えないでいる。
そうして、小さい頃から両親に「とりあえず大学には入りなさいと」言われ続けてきたので大学には入ったが、大学でも同じ。
最初はギョッと驚かれるが、すぐにヒソヒソと噂される。
大学ともなるとイジメのようなことはないが、少し遠いところで何かを言われているのは変わらない。
もちろん私はサークルにも入らず、授業が終わったらすぐ帰ってくる。
しかしそんな私にも、高校2年の時に見つけた、楽しみにしていることがある。
家から少しだけ距離があるが、住宅街の少し外れにある小さな公園のベンチで本を読む。
これが何とも言えず気持ちいい。
小さな子供が周りから減った上に近くに大きな公園があるので、殆ど誰も来ない。
寂れた公園だが、国道から離れていることもあり車の走る音もあまりしない。
風が木々を揺らす音や、虫の鳴き声、なんだか自分だけ違う世界にいるように感じて、ここで冒険物の本なんて読んだら、完璧に私は異世界だ。
そうして私は、この場所を見つけて以降、流石に寒すぎる日や暑すぎる日は無理なのだが、極力晴れた夕方はこの公園に来るようになった。
今日は日曜日で天気もいい。
夕方になったらあの公園に行こうかな。
そんなことを思いながら大学の課題に取り組む。
あれ。
ボールペンが出なくなってきた。
はぁ、最悪…。
極力外なんて出たくないのに…。
金曜日の学校帰りに買ってくればよかった…。
でも、この課題は明日までだからしょうがない…買いに行こうかな…。
そうして私は、近くのコンビニに向かった。
スススッと極力空気な感じで存在感を薄めながら、コンビニでボールペンを購入し出口を向かう。
中に入ってこようとしていた男の子が脇に避けてくれたので、私はスーッと外に出て家の方向に向かうと、
「あ、あの!!!!! ま、待ってください!!」
私はピタッと止まって、少しだけ後ろ向いてその男の子の方を見た。
別にお洒落とかそんなんじゃないし、華奢な感じでもなく、どちらかというと体つきはしっかりしている。
ただ、顔立ちがすっごいイケメンだ。
今まで会ったこともなければ、見たこともない。
そんなことを思いつつ、
「…私ですか…?」
と聞くと、
「はい! あ、あの! えっと……す、す、好きです! 付き合ってください!!!!」
と、大きな声でいった。
はい?
え?
待って、この人誰?
私に告白?
なんの罰ゲームだ?
関わらないに限りそう。
私は、家の方を向き直り、さっきより大分早めに振り返りもせず逃げるように帰った。
家に入るときに、後でもつけられてるんじゃないかと振り返ったが誰もいない。
よかった……。
今時、罰ゲームで告白するなんて…これだから嫌だ。
どうせ私のことを知っている同級生とかと、なんかゲームでもして、負けた罰ゲームとかなんかそんなのだろう。
もはや高校生でもない私と同じような年齢なら、れっきとした迷惑行為だろう。
私ももう子どもじゃないんだから、次あんなことがあったら、警察に電話しよう。
そうして私は気分を変えるために、途中だった課題は後回しにして、読み途中だった恋愛小説を読み始めた。
私は恋愛なんてしたこともないし、今後もすることはないだろう。
しかし、それでもやっぱり小説で読んでいると面白いし、幸せそうだなーとかざまーみろだわ、なんて思ったりもする。
はぁ、やっぱり本に限る。
そうして私は、この日は公園のベンチに行かず、部屋で本を読んでいた。