閑話【樫木京子視点】私の魅力
「ほら、200万持ってきたよ! カケルくん!」
私はそう言って、部屋にいる男にすり寄る。
「ねーねー、これでなんとかなりそう?」
「うん、大丈夫。ったく今月は使いすぎだよ。危なく掛をマイナスされるところだったじゃん」
まだ20代のこの子はカケルくん。彼氏だ。
私は樫木京子、39歳。
歳の割には随分若く見えると思う。
子どもを一人産んだとは思えないとよく言われる。
カケルくんは、新宿でホストをやっている。
ホストが私の彼氏になるなんて、やっぱり私の魅力はまだ衰えていないんだわ。
「ごめんね。でもほらちゃんとあるし!」
「うん、そうだね。じゃあ今日は終わったらアフターとかしないで帰るよ」
「ふふふ、私も早めに仕事終わらせるね!」
「そうだね、今日の夜は頑張っちゃおうかな」
「期待してるわ♪」
そう言うとカケルくんは、お金を持って出ていった。
私は今新宿のバーで働いてる。
子どもが1人いたが、中学を卒業するだろうってぐらいの時に、もういいだろうと思って家を出た。
そしてその頃働いていた居酒屋のお客さんの家に転がり込んだ。
暫くしてその人とは別れちゃったけど、その時に弱みでゆすって100万もらったから、折角だしと思って新宿に遊びに行った。
私も昔はこの街で働いていた。
16歳から地元のキャバクラで働き始めて、キラキラした夜の世界を夢見て18歳でこの街に来た。
地元じゃ結構お客さんはいたが、ここはそんなに甘い場所じゃなかった。
最初の頃は地元のお客さんも少し来てくれたが、遠いからすぐ来なくなった。
新しいお客さんを捕まえなきゃと思いつつも、フリーで入ってくるお客さんの中からお金を使える人を見つけるのはなかなか大変だった。
そんな時に、30代のお客さんの席に着いた。
どうも話を聞いていると、私が付いている人は若いけど会社の社長で、一緒にいる二人は部下みたいだ。
チャンス。
私はそう思って、膝をくっつけたり、じゃれるふりをしながら胸を当ててみたりした。
すると、そのまま場内指名してくれた。
よし!
そしてそのままスキンシップを続けて、小さく猫なで声で「本指名に切り替えて欲しい」とお願いした。
すると、「今日ホテル行けるならいいよ」と言われた。
私が少し悩んでいると「今日売上もつけるよ」と言われたので、私は了承した。
そしてその日のその卓のお会計は20万を超えて、全てが私の売上になった。
お金ありそうだし、しょうがないと思って、アフターでご飯を食べに行きその後他の人達と別れてホテルへ行った。
地元ではこんな枕営業はしなかったが、この街ではそれもしょうがないのだろう。
それからはその人がちょくちょく指名できてくれるようになり、私の売上は安定した。
ただ、来ると毎回最終的にホテルなのが大変だ。
それにちゃんと生理のタイミングを聞いてきて、生理の時には来ない。
しかしその人のおかげで、少し余裕ができて好循環になりつつあることは否めないので、私はそのままの関係を続けてきた。
そしてそんな生活も半年以上たったころ、生理が来なくなった。
元々生理不順だったから気にしてなかったが、流石に2カ月来てないのはおかしすぎる。
私はそう思ってドラッグストアで妊娠検査薬を買って検査したら陽性。
こっちにきてからは、その人と後ボーイ1人ぐらいしかやってない。
ボーイは流石にゴムをつけていたが、お客さんは避妊してなかった。
私もまぁ大丈夫だろうと思って、そのままだった。
急いでお客さんに電話して事実を伝えると、少しだけお客さんは悩んで、降ろす費用を出すと言われた。
もちろん私もそれに賛成だ!
そのうち病院に行けば大丈夫だろうと思いつつ、仕事に行っていたが、すぐにつわりで動けなくなった。
どうしようもないので家で耐えていた。
そしてつわり期間をぬけると、そのお客さんがいい加減に病院に行って降ろしてくれないとやばいと言ってきたので私はしぶしぶ病院に行った。
結果は妊娠14週。
すぐに降ろしてくれと言ったが、なんかその病院ではできないと。
大きな病院を紹介するからそっちに行って欲しいと言われた。
面倒くさいなぁと思いつつ、私はそれをお客さんに伝えて、仕事に行った。
そして、私が大きな病院に足を運んだ時には22週を超えてしまっており、法律上できないと言われた。
お客さんにも産むしかなくなってしまったと伝えた。
すごい色々文句も言われたが、お客さんの会社名も本名も全て知っているので、色々脅しっぽく言って、出産費用と養育費として1,000万円もらった。
弁護士の正式な書類だから、これ以上はとれないのが残念だが、まぁ1,000万円もらえるしいっか。
私はそう思って、キャバクラを辞めて実家に帰った。
実家に帰ってもあまりいい顔はされなかったが、最終的にお腹に子供がいるってことで、置いてくれた。
そしていざ出産した子どもを見てみると、可愛いと思えてしまった。
なんだろう、気の迷いか何かかな。
可愛いと思えてしまった子どもにつけた名前が律。
私なんかとは違って正しく誠実に生きて欲しい。
やれ子どものこととなると、親があーだこーだうるさいので、律が2歳の時に私は律と一緒に実家を出た。
それからは居酒屋なんかで働きながら、律を育てた。
律も中学になるころにはほとんど何でも自分で出来るようになって、私とは特に話もしなくなった。
あれ? これ私いらなくない?
そう思いだすと急に頑張っている今がアホらしくなって、律が中学を卒業するタイミングで家を出た。
「カケルくん今日はよかったわ…」
「おれも」
私は部屋のベットでカケルくんに言った。
「きょうちゃん、今月も結構使えるの?」
「うん、大丈夫だよ!」
「そしたら明日頭っから頼むよ」
「わかった! ねぇもう一回しよう?」
「しょうがないなぁ…」
そして私は翌日、カケルくんのホストクラブに行った。
そして9月の半ば頃に律にお金をもらわなきゃと思い、家に向かった。
あんな口約束で縁が切れると思ってるなんて、まだまだ子どもだわ。
律を育てるのに結構お金かかったんだから、もらえるだけもらってやる。
そう思い家に着くが、電気はついていない。
家で待ってるかと思って玄関に回ると、郵便受けから手紙があふれていてもう郵便受けの上にまで載せられている。
それにドアに手紙のようなものが何通か挟まってる。
あきらかにおかしい。
急いで鍵を開けてドアを開けると、特に変わった様子がないが、人が住んでいる感じがしない。
律…逃げたな!!!!
こうなるともうどこにいるかなんて見当もつかない。
律の友達なんて私は一人も知らない。
私は急いで新宿に戻り、カケルくんの部屋に行った。
「か、カケルくん、今度の支払い少し遅くなってもいいかな?」
「え? まじで?」
「うん…」
「いや、それは無理」
「ちょっと予定が狂っちゃって無理そうなの…」
「そういうこと…わかった…」
カケルくんはそう言うと部屋を出ていった。
そしてその日の夜、バーの仕事の終わり深夜の時間に、カケルくんが店の外に来た。
「きょうちゃん、うちの統括に相談してさ、統括の知り合いのこのIT企業の社長さんが熟女好きらしいからさ、とりあえずお金たまるまで、その人の愛人になって」
「え?」
「本当は40歳以上がいいらしいんだけど、39歳だからギリオッケーだって」
「え、いや、私にはカケルくんが」
「は? 金払えねーくせに、なんでババアと寝なきゃなんねーんだよ」
「なによそれ!!」
金だけってこと!
そう思うとびっくりするぐらい大きな声が出て、店の外だったので、周囲の人がこっちを見る。
そういうとかけるくんの横に立つ30代ぐらいの太った人が、
「さぁ今日から私が飼い主だよ! こっちにおいで!」
なに!
気持ち悪い!!
「きょーちゃん、とりあえず月100万、この人払ってくれるから。」
100万…。
そしたら結構遊べる…。
「わ、わかった…」
「いい人だね、じゃあ行こうか」
私は超高層マンションに連れていかれた。
「この家好きに使っていいからね!」
「は、はい」
「あ、でも逃げだしたら、カケルくんやバーなんかも大変なことになるから逃げない方がいいよ」
「わ、わかりました」
「じゃあ服脱いで!」
「はい…」
「そしたらベットに座って? そんで僕をだっこちて?」
赤ちゃんプレイ……。
あぁ、私このままどうなっちゃうんだろう…。
なんでこんなことに。
律…。
あんたどこにいったのよ…。
私はそう思いながら、裸でデブの赤ちゃんを抱っこした。




