【西条美緒視点】イライラする
律君を両親に紹介した。
もう緊張で料理の味なんて全くわからなかったけど、とりあえず何事もなく終了してよかった。
最後にお母さんが「これからもよろしくね」って言っていたから大丈夫ってことだろう。
良かった。
小さい頃から大学には行くように言われてきた私は、何度かお母さんには律君が中卒だって言おうかと悩んだのだが、本人に会いもせずに否定されたら嫌だと思って言わずにいた。
これで今後、律君とお、お泊りとかもできるようになるかもしれない!
私は心の中でキャーと叫び枕に顔をうずめた。
しかしのどが渇いたな…。
緊張してたってことだろう。
そう思って私は、リビングに飲み物を取りに行った。
リビングに行くと、お父さんがソファーでスマホを見ており、お母さんがダイニングテーブルに座っていた。
「美緒ー?」
そうお母さんがわたしを呼んだ。
「なにー?」
私はコップにお茶をついでダイニングテーブルに行くと、
「なんだか、今時の子の割には随分と気持ちい感じの子だね律君」
「うん、そうなの」
「それにめちゃくちゃイケメンだね!」
と、コノコノみたいな感じで指を指しながら言った。
「う、うん」
私が照れたように返事をすると、お父さんがソファーから、
「美緒そう言えば、庄司さん家の涼介くんは、慶都大に通ってるらしいぞ」
と言った。
聞きたくもない名前だ。
「そうなんだ」
「美緒も綺麗になったことだし、結構イケメンだって聞くし、今度会ってみたらどうだ?」
「用事ないし」
「まぁ小さい頃から会ってないもんなぁ」
どういうこと?
なぜ今そいつの話が出てくるの?
と私が疑問に思っていると、
「まぁまぁ、あなた! とりあえず、美緒も節度を持った付き合いをお願いね」
「うん…」
私はそういうと、お茶の入ったコップを持って、なんだか釈然としない気持ちで部屋に戻った。
それからは普通の毎日だった。
大学に行くと、昔とは違って別に変な目で見られたりもせず、顔見知りになった女の子達と少し話したりもする。
でも、最近の若い女子の話題についていけるなんてことはないので、基本的にそうなんだねーとか相槌をうってる感じだ。
そして移動時間や、家にいて課題がないタイミングは、基本的に本を読んでいる。
本の話なら、最新の話題までついていけるんだけどな…。
律君とも変わらずメッセージのやり取りをして、タイミングを見て会っている。
そんな平和な日々も2週間ぐらい経ったころ、大学から帰りに最寄り駅に着くと、改札外になんとなく見覚えのある顔があった。
庄司涼介くんだ。
一応昔幼馴染だった人。
もう違う。
私は特に用事もないので、ペコっと会釈だけして通り過ぎようとすると、
「みおちゃん!」
と声をかけられた。
最悪だ…。
面倒くさい……。
折角冒険物の小説を呼んでいい気分だったのに、いきなり泥沼に足を突っ込んでしまった感じだ。
「はい」
そう思いつつも私は振り返り、庄司くんを見た。
「久しぶりだね!」
「お久しぶりです」
「なんだか随分前見かけた時と雰囲気が違うね!」
「そうですか」
「なんか近所でも噂になってたよ!」
「そうですか」
「でも、やっぱりみおちゃんはこうやって顔が見えてた方が可愛いね!」
「そうですか…一体何ですか?」
「あれ? お父さんから聞いてない? 今度慶都大で俺が入ってるサークルでイベントがあってさ! 折角みおちゃんが昔みたいに明るくなったから、そのイベントに招待させてもらって、昔みたいに仲良くできたらなーと思ってね!」
はぁ?
そんな話1ミリも聞いてない。
まぁ聞いてても100%断ってるけど。
てか、昔みたいに明るくなったとかどの口が言ってんだよ…。
と思いつつも、
「そうですか、聞いてませんでしたが、私も大学がありますので」
「イベントは休みの日だから大丈夫だよ!」
「予定があるのでお断りします」
「え? いつか知ってるの?」
「知りませんけど、その庄司君のイベントの日は予定があるんです」
「なーんでそんなツンケンしてるのさー! 昔みたいにりょうくんでいいよ」
「いえ、もうそういう年齢でもないので」
「えー、まぁとりあえず、はいこれイベントのビラね! 空けといてね!」
「行きませんから」
「あ、そうだ連絡先教えてよ!」
とスマホをだす庄司君。
「スマホもってません」
「今の時代そんなわけないでしょー」
「もう帰りますので」
「まぁいいか! まぁまぁ、結構楽しめると思うから来てみてよ!」
と言うと手を振りながら走っていった。
私の手には、持っているだけイライラする、庄司君が所属しているらしい慶都大のダンスサークルのビラ。
イライラする。
まず強引だし、あのなんか少し見下してる感じが嫌いだ。
しかも、なんかこう誘ってやってるんだぞ感がさらに腹立たしい。
しかもしかも、お父さんから聞いてない? ってなに!
こんな歳にもなって、なに親に話してんの! 子どもか!
私はイライラしたまま家に帰り、荷物を部屋に置くとリビングに向かった。
「お母さん」
「なーに?」
夕飯の準備をしているお母さんに話しかけた。
お父さんはまだ帰ってきていないみたいだ。
「今日駅で庄司君に話しかけられた」
「あ、あら」
「お父さんから聞いてない? って言われたんだけどどういうこと」
「あ、えーっと…なんかりょう君のお父さんから、息子のサークルのイベントに美緒ちゃんを誘いたいって息子が言っているって言われたみたいなのよねー」
「行かないから」
「あ、えーっと、そう…でも…」
「何が起こっても行かないし連絡先も教えない! 絶対に嫌」
「そ、そう。でも、なんか随分とこの近所でも美緒が美人になったって噂になってるみたいで…」
「それがなんなの」
「なんかそれでりょう君もその噂を聞いて、駅前を歩いてるあなたを見かけたらしく、前みたいに仲良くなりたいって思ってくれてるみたいで…」
「だから? お父さんとお母さんは私をまた元に戻したいの?」
「そ、そんなことないわ!」
「じゃあ、なんでああなったのか忘れたの?」
「覚えてるわよ……」
「じゃあ一体どういう神経してるのかわからない! あんな性格の悪そうな人、同じ空気を吸うことすら嫌だから!」
と私は言って、リビングを出て部屋に戻った。
イライラする。
こんなにイライラしたの間違いなく人生で初めてだ。
私があんな声を出せたことにも驚いた。
そしてその日は、お母さんが「ご飯だよ」と呼んでも、お父さんが「話したいんだけど」と呼んでも、全部無視して部屋に閉じこもった。




