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monnaie beau

「美緒おはよー!」


「お、おはよ」


「みおちゃんおはよう」


「おはようございます。きょ、今日はありがとうございます」


「いやいや、律坊の大事な人の大事な時に協力できてうれしいよー」




今日は、いよいよ谷川さんに美緒の髪型や服装をコーディネートしてもらう日だ。


美容室で結構待ち時間が出るので、その間に、目利きの方法を教えてくれるということで、マスターも一緒に来てくれている。


美緒の家の最寄り駅で待ち合わせて、今から電車で都心に向かう。




「んじゃ、遅れてもあれだから、そろそろ行くかー」




そう言ってマスターが改札をくぐっていく。


そして俺達は途中で電車を乗り換えて、テレビでしか見たことのない街に来た。


テレビでしか見たことないって言っても、電車で1時間以内なんだけど…。




「り、律君…。私、銀座なんて初めて来たよ…」


「そりゃ俺もだよ…」


「なんか全てが高そうだね…」


「わかる…」




そんなことを話しながら、谷川さんと待ち合わせしている美容室に向かった。


スマホで地図を見ながら着いたところは「monnaie beau」と木のロゴマークが飾られている。


なんて読むのかすらわからない。


中は見えないけど、壁がコンクリート造りで既にお洒落だ…。


マスターが入口を開け中に入ったので、俺と美緒もあとに着いて入っていった。




中に入ると、木と観葉植物を基調とした感じのおしゃれ空間が広がっており、髪を切る席が、非常に幅広スペースで3席ある。




するとマスターが、入ってすぐわきのウェイティングスペースに座って雑誌を見ていた谷川さんに声をかけた。




「谷川さん、今日はどうもね~」


「いいえー、だって…」


「ほれ、これ。冷凍してあるから、冷蔵庫でゆっくりと6時間以上解凍して食べとくれ」


「うわー、やったー! 中見ていいですか?」


「ええよー」




というと、谷川さんはマスターが持っていたクーラーバックを開けて中を出し始めた。


昨日の夜、マスターのお店で手伝ったローストビーフだ。


正直、作ってるときからめちゃくちゃ美味しそうだった。


しかもあんな肉見たことない…。




「うっわー、やばそう!」


「律坊にも手伝ってもらって、正直自信作じゃ」


「楽しみー!」




そう言っていると、奥から、




「えー? なになにー?」




と一応男の人の声だけど、なんだか中性的で、女の人みたいな喋り方の30代ぐらいのカッコいい人が話しかけてきた。




「みてみてこれ! めっちゃ美味しそうじゃない?!」


「えー、どれどれ…。えー! やっばー! ちょっと分けてよ杏ちゃん~」




という男の人。


え?


疑問に思ってるの俺だけ?


ええ?



そう思って横の美緒を見てみると、ポカーンと言う感じで沈黙している。



よかった俺だけじゃないらしい…。




「あ、ごめんね、この人、ここのトップスタイリストの時任さん。まぁ見た感じはイケメンだけど、聞いての通りおかまね」




と、別に普通のことのように谷川さんが紹介してくれた。




「どうもはじめましてー。時任よー。今日はこちらの女の子ねー?」


「そうそう、私も今日初めて会ったんだけど、大丈夫でしょ?」


「もちろーん」




と谷川さんと時任さんが話していると、美緒が、




「さ、西条美緒です、きょ、今日はよろしくお願いします。た、谷川さんも大変ありがとうございます」




と、いつもよりは少しだけ大きな声でペコっと頭を下げた。




「はーい! どれどれー、ちょっとお顔見るわねー。てか、綺麗な黒髪ね~、もったいないぐらい!」


「確かにねー。今時、この年齢でこういう髪質維持できてる子なんてあんまりいないもんね~」


「アイロンだのドラッグストアのブリーチだのみんな色々やり過ぎなのよ!」




と、美緒の前でぷんぷんって感じで両手を組んでる時任さん。


本当に、何の違和感もなく、女の人な感じなんだ…。


初めて会った…。




「さて、ちょーっとだけここに座ってくれるー?」




そういうと時任さんは、髪を切るスペースにある椅子をくるっとまわした。


美緒は言われるがまま、そこに向かい椅子に座ると、時任さんが前髪を分けて、髪の毛の長さをどうするか見積りだした。




「ちょっと驚きねー。ねぇ赤井さーん! ちょっときてー!」




というと、奥から年齢不詳のイケメンおじさんが出てきた。




「ねぇねぇ、ちょっとこの子見てみて? ここら辺にオレンジのシャドーとか入れて…」


「んー?? どれどれ、おーこりゃ…確かにオレンジのシャドーあうかもな。チークのりがめちゃくちゃ良さそうだな」


「確かに確かにー! ねーねー杏ちゃんちょっと来て!」




と時任さんが言うと、谷川さんが立って美緒の近くに向かった。


谷川杏奈だから杏ちゃんか…。




「ちょっと、この子多分大化けするわよ? びびるほど」


「ええ?」


「ほら、髪の毛これぐらいにして、色を少し落ちついたアッシュ系で、軽くカールさせて、赤井さんがやってるみたいな感じで化粧して…」




と時任さんが言った。


美緒は既に、赤井さんと言う方が、ポーチから出した化粧道具でなんか軽く化粧され始めてる。




「え、待って、待って待って!! もしかして掘り出しもの?」


「掘り出しものどころか埋蔵金かもよ?」


「谷川さん、ちょっと化粧しただけでこれだぞ? 多分これ本気でやったら、大化けする。間違いない」




と赤井さんが言うと、谷川さんが、




「時任さん、赤井さんストップ! 予定変更! 先に洋服買ってくるわ!」


「えーー!! 私他のお客さんも来るんだけどー?」


「時任さん、完成形みたくない?」


「…見たい。杏ちゃん、今の状態で合う服いける?」


「誰に言ってんの? 余裕よ! もうすでに店も決めたわ!」


「じゃあ、お客さんはうまくやりくりするから、それでいいわよー」


「よし、そうと決まったら先に服見に行きましょう西条さん!!」




後ろ姿しか見えないのでわからないが、恐らく美緒はポカーンだろうな…。


そんなことを思っていると、谷川さんに連れられて美緒がこちらに来た。




「ということで、予定変更で先に服買ってくるから!」


「谷川さんよ、みおちゃん大丈夫なんか?」


「大丈夫もなにも、びっくりするから、楽しみに待ってて」


「んあー、まぁ谷川さんがそういうなら大丈夫かねぇ」


「間違いない!」


「では行きましょう! 時任さん、2時間ぐらいで戻ってくる!」


「わかったわー」




と言って、谷川さんは美緒の手を持ち店を出ていき、俺とマスターもその後ろからついていった。

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