【西条美緒視点】私も前に進む
そうと決まると、もう1つ私にはクリアしなければならない問題がある。
お金だ。
もういい加減自分でなんとかしないと、今後律君と、りょ、旅行なんか行きたいってなっても、全て親に言わなきゃならなくなっちゃう。
折角髪を切るし、何か考えよう。
ただ、今回は間に合わないのでお願いするしかない。
私は再び意を決してリビングに行く。
リビングに入ると、お父さんがソファーに座ってテレビを見ていて、お母さんはキッチンで洗い物をしていた。
お父さんにはまだ言いたくない…。
私はキッチンにお茶を取りに行くような感じでお母さんにコソコソっと、
「お、お母さん…後で相談があるんだけど……」
と私が言うと、
「わかったわ…後で部屋に行くね…」
「うん…」
私はそう言うと、お茶をコップに注いで、部屋に戻った。
部屋に戻り、しばらく小説を読んでるとお母さんが部屋のドアをノックしたので、「はい」と返事した。
するとお母さんが後ろを振り返って部屋に入ってきてドアを閉めた。
「お父さんは大丈夫よ!」
「あ、うん、ありがと」
「それで今度はどうしたの?」
と言いながら、お母さんはベットに腰かけた。
「あの、大きな声出さないでね?」
と私が言うと、お母さんは息を飲んで、
「え、あ、うん…わ、わかったわ……」
「あのね、私、髪切ろうと思うの」
というと、お母さんは「え?」みたいな顔から驚愕した表情に見る見る変わり、
「えー!!(!!!!!!!!!!!!!)」
と、大きな声を出したお母さんは、直ぐ私の枕を手に取って必死に口を押えた。
「お、お母さん!」
そういうとお母さんは、枕を持ったまま深呼吸して、一度ドアの外を見にいった。
「だ、大丈夫…。お父さんには気が付かれてないみたい…」
そう言いながらドアを閉めて戻ってきた。
「お、大きな声出さないでって言ったのに……」
「だ、だって、そんな大きな声出さないでって言われるぐらいのことだと思ったら、こ、子どもができたとかかと…」
とお母さんが言った。
私はそれを聞き、その過程を想像し、ボンっと顔が暑くなった。
「ま、まだ、そういうことは…してないから…」
「そ、そう…そうね、お母さんが言ったんだものね…美緒ごめんね……」
「う、うん」
「そ、それで、美緒、髪を切るって聞こえたんだけど…」
「うん、髪の毛、切ろうと思ってるの」
と、私は前を向き直って言った。
「ほ、本当なの?」
「うん」
「前髪も?」
「前髪も全部」
「本気なの?」
「うん、洋服も…変える……お洒落に詳しい人を律君が見つけてきてくれて、その人が美容室も予約してくれてコーディネートもしてくるって」
「ほ、本当にやるの?」
「うん、私も、前に進むの」
そう私が言うとお母さんは、目からボロボロと涙を流しだした。
「本当に本当に…ズッ?」
「うん」
「美緒ぉぉぉ!」
そう言ってお母さんは抱き着いてきた。
「美緒、本当にごめんね……ズッ…今まで本当に…何も……できなくて…ズッ」
「うんん。私も迷惑かけてごめんなさい」
「お母さんがっ…ズッ…お母さんが……美緒ぉぉぉ」
「髪も切って服装も変えて、私は前に進むね」
「うんうん…」
そのままお母さんは私に抱き着いたまま泣いていた。
そしてしばらくして、お母さんは私から離れると、
「そうとなったら、軍資金が必要よね!」
と、泣いた目をこすりながらお母さんが言った。
「うん、いつもごめんね…」
「いいのいいの! これまで旅行も何も行かなかったんだから! どんとこい!」
「あ、ありがとう…」
「いくらぐらいあればいいの?」
「3万円ぐらいかな?」
「それで足りるの? 洋服買うんでしょ?」
「うん…そうなると思う」
「お洒落に詳しい人ってどんな人なの?」
「wiwiの編集長さんだって…」
と私が言うと、お母さんは驚愕した顔で、
「お、お母さんでも知ってるわよwiwi?」
「だろうね」
「な、なんで、そんな人が知り合いにいるの、その律君…」
「えっと長くなるから簡単に説明すると、その編集長さんがひいきにしているレストランの主人と律君が凄く仲良くて」
「な、なるほどね…」
「だから、絶対大丈夫だとは思うんだけど…」
「大丈夫もなにも、その人以上に、お洒落とか美容とかを知ってる人探す方が難しいぐらいでしょ…」
「そ、そうだね…」
「そ、そうとわかったら3万円じゃ足りない! ついでに何着か見繕ってもらいなさい!」
「あ、え、うん、いいの?」
「いいわよ! その人以上に見る目のある人なんていないでしょ! そんなにいっぱいはあげれないけど……10万円あげるわ!」
「ええ! そんなに?」
「洋服ってちゃんと選ぶと結構するのよ?」
「いつも1,500円とかだったから…」
「まぁ…そうね…。でもそういうことだから! 全部使わなくてもいいから、その方に出来る限り色んな事聞いてきなさい!」
「あ、うん…わかった」
「嬉しいわ! いつ行くの??」
「3月2週目の土曜日」
「楽しみーーーー!!! お父さんには内緒にしておいて驚かせましょう!」
「あ、うん、わかった」
そうしてお母さんは、それはそれは喜んでしばらく私の部屋で、色んな事を聞かれつつ泣いたり笑ったりを繰り返していた。
そしてついにその日になった。




