【西条美緒視点】一緒なら
クリスマス以降、律君とはこれまで通り、私の大学と律君のお仕事の都合が合うタイミングで、ちょくちょく会っている。
初詣はちょっと行きたい気もしたけど、律君になんか嫌な思いさせてしまったら嫌だなと思って、行くか聞かれたけど行かなかった。
でも、律君はそんな私を本当に大事にしてくれて、お仕事で疲れているだろうに、いつもいつも私に会いに来てくれる。
私に気を遣ってくれて、会うのはいつもあの公園。
正直冬で寒いんだけど、律君と会うと寒さも和らぐ。
律君はいつも真っすぐで、優しくて、暖かかくて、なんだか太陽みたい。
私はそんな太陽みたいな律君の周りを周回してる、一番地味で小さな惑星の更にその衛星ぐらいだろう…。
今日も律君のお仕事が早く終わる日だからと、公園で会った。
「…それでね、その小説に出てくる小さな居酒屋の主人が、あのお店のマスターみたいなの」
「本当に小説に出てくるんだねマスター(笑)」
「また連れて行って欲しいな」
「もっちろん! マスターに言っとかないと!」
「今度はお肉が何なのか食べてみたいかも…」
「いいねぇ、マスターはなんでもうまいから!」
「楽しみだね」
律君は、料理の本以外は全く本を読まないと言っていたけど、私の最近読んだ小説の話なんかも、ニコニコとしてウンウンと聞いてくれる。
最近では、私から話しかけることも多くなってきたと思う。
自分でも、こんなに人と話すのが好きだったんだと、初めて気づいたぐらいだ。
すると律君が、優しい笑顔で話しかけてきた。
「ねー美緒?」
「なーに?」
「美緒さ、髪切れないって言ってたけどさ、一回切ってみない??」
そう言われ、私はついに来たかと下を向いた。
覚悟はしてたつもりだけど、やっぱり律君は特別すぎて辛い。
でもちゃんと聞くしかない。
「あ、いや!」
「や、やっぱり、こんな髪の毛だと、律君もいや…?」
と、私が言うと、律君はアワアワした感じで、よくわからない身振り手振りを加えながら、
「いやいや! 俺は今のままでも全然大好きだし、めちゃくちゃ可愛いと思ってるし、地球上のすべての何より愛してる!!!」
と言ってくれた。
え?
髪の毛が嫌だって話じゃないの?
ってか、そんな大きな声で地球上のすべての何よりってーーー!
「あ…えっと、ありがとう…。でも恥ずかしいから…もう少し小さな声で言ってくれると…」
「あ、ご、ごめん! 焦ってつい!」
「う、うん、大丈夫」
「お、俺はさ、今のままの美緒で本当に大好きなんだけど、美緒が今後より生活しやすくなったらもっといいんじゃないかなーと思ったんだよね」
あ、私の事を考えてくれてだったんだ…。
なんて私はひねくれた性格なんだろう…。
律君だったら、絶対そうなのに。
そんな自分に悲しくなってくる……。
「そっか…」
「理由も聞いてるし、無理に切って欲しい! とかそういう話じゃなくて、最近よく笑ってくれる雰囲気あるし、下を向く回数とかもすごい減ってるんだよ?」
そう言われて、私は思い返すと、確かに最近律君と一緒にいるときは、なんなら下を向いている時の方が少ないぐらいだ。
確かに、大笑いしたりはしないけど、少し笑うようなこともすごく多くなった。
「……そうかも…」
「だから、どうかなーと思っただけで、本当に! 今のままで大好きだから! なんなら超美人だから、このまま隠しておいてもらいたいとも少し思ってるぐらい!!」
そんなに美人なんてことはないと思うんだけど。
律君、私を見る時だけ、視力どうにかなっちゃってるから…。
「そ、そっか……」
「でも、美緒も色んな所に行ったりしやすくなると楽しいんじゃないかなって」
そう律君は、「ね?」みたいな感じで言った。
どうしよう。
でも、律君がいてくれるなら、切ってもいいかもしれない。
きっと変でも律君は私のことを大切にしてくれる。
だって、今の髪の毛だって、ありのままを受け入れてくれてるんだから。
今より変になるってことの方が難しい気がする。
多分…わからないけど……。
でも、律君と一緒なら…………。
「き、切ってみようかな……」
と、私が言うと、律君はパッと笑顔になって、
「おお!!! いいじゃんいいじゃん!!」
と言ってくれた。
でもどうすればいいのか、どんなのがいいのかなんてわからないからどうしようかと2人で悩んだら、律君が友達に聞いてくれると言ってくれた。
私は、友達1人もいないから…
そうして次の日の夜律君から連絡が来た。
『マスターに相談したら、雑誌の編集長さん紹介してくれて、その人が美容室も似合う髪型も洋服も、全部決めてくれるって!』
『え、雑誌の編集長さん?』
『そうそう、wiwiって雑誌だって』
私だって名前ぐらい聞いたことある。
そんな有名な雑誌の編集長さんが、言っちゃなんだけど、都心から少し離れたしかもあんなビルのお店に来るなんて、マスターって本当何者なんだろう…。
『いいのかな?』
『なんかローストビーフをマスターがご馳走するって言ったら、引き受けてくれた』
『えぇ、それはそれでマスターさんに申し訳ない』
『まぁローストビーフはおれも手伝うからさ、ここはお言葉に甘えようよ?』
『うーん…』
『マスターも美緒のこと応援してくれるってことだし!』
『う、うん…わかった』
そうして申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、だからと言って自分でわかるものでもないので、お言葉に甘えることになった。
そして日程調整して、3週間後の土曜日がその日になった。




