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自信

美緒とクリスマスイブを過ごしてから、美緒は俺のことを律君と呼んでくれるようになった。


横山さんが言うような、そういうことまではまだまだ遠いけど、俺と美緒のペースで進んでいけばいいんだと思う。


美緒はお母さんにどうも話していたみたいで、フライドチキンを食べてみたいと言われたと言っていた。


いつでも作りますよ!


でも、なんかお母さんに話してくれたという事実が嬉しい。


俺なんかを、ちゃんと自分の大切な人だと他人に伝えてくれることがこんなに嬉しいことなんだとは思わなかった。



美緒と付き合ってから、新しい発見の連続だ。


今まで感じたことのない感情や、思ったことないことが、2人で進んでいくにつれてどんどん出てくる。


でも、どれも結果的に嬉しいものばかり。



今の俺、幸せだ!!




そんなことを思いつつ、今日も大忙しの仕事にいそしむ。




クリスマス以降も、美緒とは定期的に会っているが、如何せん仕事が忙しくて長い時間あえない。


まぁ公園が寒いっていうのもあるけど…。




年末年始とお正月は、俺はフルで仕事だから会えない上に、美緒も初詣とかはちょっと…と言う感じなので、いつも通り会えるタイミングで、あの公園で会って少しお話しするぐらいだった。


そんな少ない時間でも、俺は美緒に会うとこれでもかってほど癒される。


なんだか美緒の空気が俺を優しく包み込んでくれるみたいで、本当に心が安らぐ。


例えるなら、そうだな、飼い主のことが大好きな子犬と飼い主のお姉さんと言う感じだ!



俺子犬か……。




それに、最近美緒はよく笑ってくれる雰囲気になることが多くなった。


髪の毛で細かい表情までは見えないのだが、以前より下を向く回数も少なくなった気がする。


それが本当にいいことなのかどうかはわからないが、笑ったり喜んだりが増えることはきっといいことだろうと思って、俺は今まで通り美緒に接する。


まぁむしろそれ以外の接し方なんてできそうにないんだけど…。


だってめちゃくちゃ好きだから!




しかし例年だと、お正月休みが終わると少しずつ落ち着いて2月にかけて暇になるのに、なかなか仕事が落ち着かない。


もうすでに2月も後半だというのに、年末かのような忙しさだ。




「律、お前、また彼女ちゃんのこと考えてたろ?」




と横山さんが検品しながら、荷物を持ってきた俺に話しかける。




「はい! むしろ考えていない時がないです!」




と、俺が荷物を置いてこぶしを握り締めて言うと、




「はぁ…まぁなんだ、そこまではっきり言われると、頑張れよとしか言えねーな…。でもわりーなー、忙しいのが続いちまって」


「いえいえ大丈夫です! でも今年はなんか異常じゃないですか?」


「あー、今年から最大手の通販サイトの物流の一部を受け持ってるから、もうそこの作業で人員が持ってかれてんだよ」


「あー、確かにAエリアやばそうですもんね…」


「うちは全自動とかでもねーのに、翌日出荷! 下手すりゃ当日出荷! なんて言われるもんだからAエリアはずっとてんやわんやだ」


「そりゃ大変すね」


「というわけで、しばらくしたらCエリアの検品お前に任せるから、Aエリアが落ち着いたら検品教えるな」


「了解っす」


「おーなんだ、全然不安とかねーんだな」


「まぁずっと横山さんの仕事見てますし! 割とすぐにできそうなぐらいには自信がありますね(笑)」


「そうかそうか、そりゃ頼もしい。まぁとりあえずそん時はよろしく頼むぜ」


「うっす!」




そう言って俺は次の荷物を取りに向かった。





しかし、自信か。


そう言われると、美緒が下を向く回数が減ってきたとかは自信がついてきたとか、そういう感じなのかな。


美緒は、実はものすごく美人だし(俺が思うには)、全然自信持ってもいいと思うんだけどな。


どうなんだろうか…。


前髪含めて、極力髪の毛を切らない理由も聞いてはいるが、切っても全然大丈夫だと思う。


まぁ、そういうのは本人がどう思うかだろうし、俺がとやかく言えることではないんだけど。


別に俺も今の髪型で全然大好きだし、可愛いと思ってるから、別に今のままでいいんだけどね。


ただ、一般的にって考えると、美緒が今後もっと生きやすくなるのはいいことだよなーなんて思ってしまう。


今度軽く聞いてみようかな。




そうして数日後、美緒と会った時に俺は美緒に聞いてみた。




「…それでね、その小説に出てくる小さな居酒屋の主人が、あのお店のマスターみたいなの」


「本当に小説に出てくるんだねマスター(笑)」


「また連れて行って欲しいな」


「もっちろん! マスターに言っとかないと!」


「今度はお肉が何なのか食べてみたいかも…」


「いいねぇ、マスターはなんでもうまいから!」


「楽しみだね」




とニコッとした雰囲気で言う美緒。


やっぱり昔に比べると、表情が見えなくても雰囲気で嬉しいって感じが伝わってくる。




「ねー美緒?」


「なーに?」


「美緒さ、髪切れないって言ってたけどさ、一回切ってみない??」




と俺が言うと、美緒はパッと下を向いた。




「あ、いや!」


「や、やっぱり、こんな髪の毛だと、律君もいや…?」


「いやいや! 俺は今のままでも全然大好きだし、めちゃくちゃ可愛いと思ってるし、地球上のすべての何より愛してる!!!」




と、俺が慌てて言うと、




「あ…えっと、ありがとう…。でも恥ずかしいから…もう少し小さな声で言ってくれると…」


「あ、ご、ごめん! 焦ってつい!」


「う、うん、大丈夫」


「お、俺はさ、今のままの美緒で本当に大好きなんだけど、美緒が今後より生活しやすくなったらもっといいんじゃないかなーと思ったんだよね」


「そっか…」


「理由も聞いてるし、無理に切って欲しい! とかそういう話じゃなくて、最近よく笑ってくれる雰囲気あるし、下を向く回数とかもすごい減ってるんだよ?」


「……そうかも…」


「だから、どうかなーと思っただけで、本当に! 今のままで大好きだから! なんなら超美人だから、このまま隠しておいてもらいたいとも少し思ってるぐらい!!」


「そ、そっか……」


「でも、美緒も色んな所に行ったりしやすくなると楽しいんじゃないかなって」




と俺が言うと、しばらくして美緒はボソッと、




「き、切ってみようかな……」




と言った。




「おお!!! いいじゃんいいじゃん!!」


「で、でも、私、どういう風にしたらいいかとか全然わからない…」


「あー、確かに。それは俺もわからないな…。よく見る女の人なんて事務所のおばちゃんぐらいだし…」


「雑誌とかかな…?」


「でもああいうのってさ、結局自分に合うのってわからないよね…」


「そうだよね…」


「よし! 俺ちょっとどうしたらいいか友達に聞いてみる!」


「え、う、うん…ありがと」


「うん、どうにかなりそうだったらまた連絡する!」


「うん…私もネットとかで調べてみるね…」


「オッケー!」





そうしてその後また普通に雑談して、その日は家に帰った。




俺はすぐさま圭太に電話する。




「あいよー俺は課題でしんどいよー」


「圭太! 女の子の髪型ってどうしたらいい!!」


「あぁ? なんだよ急に」


「美緒がさ、髪の毛切るって言ってるんだけど、どうしたらいいかが俺等わからない!」




するとしばらく沈黙して、




「まじで?」


「あ、うん、どうしたの?」


「あ、いや、長い髪切るんだ」


「そうだけど?」


「切れるんだな」


「まぁ初らしいけど、切ってみようかなって思ってるみたい!」


「そ、そうか…多分お前のおかげなんだろうな…」


「どうだろう? わかんないけど! んでどうしたらいい?」


「すまん、それは俺にも難しい」


「えー…」


「いやだって、女の子の髪型なんて男の俺にわかるわけないだろ? しかも顔もわからねーのに」


「た、確かに…」


「すまんがそれは力になれそうにないから、無難に雑誌とか見るしかねーんじゃねーか?」


「やっぱりそうなるよなぁ」


「すまんな」


「いや! いつもありがとう! 今度うまい手料理ご馳走するよ!」


「手料理? お前の?」


「おう! 結構うまいんだぜ?」


「そうなのか? まぁどっかタイミングでよろしく頼むわ」


「おっけー!」


「んじゃなー」




そして電話は切れた。


どうしたもんかなぁ…。

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