揚げたては大体美味しい
「さー食べて食べて!」
俺はそう美緒に言った。
今日のメニューは、手作りのクリームシチューとフライドチキンとサラダ、それに美緒はパンで俺はご飯だ。
仕事が忙しくあんまり時間がなかったが、フライドチキンは昨日のうちに骨つきもも肉を下茹でして、特製と言ってもあれもこれもは無理なんで、生姜や醬油と塩やかつお出汁等を混ぜた調味液に付け込んだ。
その骨つきもも肉を、昨日準備したマジックソルト等を混ぜた特製の付け粉に、さっき付けて揚げた、和風味のフライドチキン。
普段家で揚げ物なんかやらないから、ちょっと上手くいったか不安だがどうだろうか…。
シチューはちょくちょく作るから大丈夫だろうけど…。
そして美緒がフライドチキンを箸で取って一口食べた。
「ど、どお?」
と俺が聞くと、
「すっごく美味しいよ? 樫木君も食べてみなよ。今アツアツだし、お店で出せるよ」
「おお! どれどれ」
俺は手でそのまま持って、かぶりついた。
カリッ
もも肉を使ったから、予定通りジュワっと中から肉汁があふれてくる。
衣に混ぜたマジカルスパイスもいい仕事してる。
揚げたてだからすごい熱いけど美味しい。
ただ、俺は知っている。
揚げたての揚げ物は大体美味しいことを…。
「でも、やっぱりちょっと足りないなぁ、なんかもうちょっとスパイス感欲しいね…なんだろ…オレガノとかタイムとかかな…でもそうすると和風な下味と…」
俺が「むーん」と言う感じで考えてると、美緒が、
「ふふふ、私にはそれはわからないけど、わかることはすごく美味しいし、準備してくれた気持ちが嬉しいってことだよ」
と、少しニコッとした感じで言った。
美緒の1つ1つの動作で、どんどん俺のライフが削られていく。
しかも1撃でがっつり削られる…。
「あ、う、うん! よかった!」
そう言ってもう一口食べたが、微妙に味がわからなくなった…。
完全に美緒に翻弄されている。
「このシチューも美味しいね。今日はひたパンにしようかな…」
「美緒ひたパン派だって言ってたもんね!」
「かき揚げは後載せサクサク派だけどね」
そう言いながらアハハと笑った。
その後も2人で話しながら食べていると、自分で作ったものだけど、美緒と一緒に食べてるってだけで何倍も美味しい気がした。
それに他に人もいないから、美緒が気兼ねなく話してくれるのもうれしい。
「ふー食べたねぇ!」
「フライドチキンとか残っちゃったけど…」
「大丈夫大丈夫! 明日とかあっためて食べれるし! あ、持って帰る?」
「いいえ、樫木くん食べて? お仕事忙しくて大変だろうし。あ、いや、いらないってわけじゃないからね?」
「うん、わかってるよ! 美緒ありがとう!」
「うん…でもごめんね、私あんまり量はいっぱい食べれなくて…」
「大丈夫大丈夫! その分俺が食うから!」
「ふふふ、ありがと。後片付けも手伝うね」
「お、ありがと!」
そう言うと美緒は、使ったお皿を何枚か重ねてキッチンに持って行った。
俺もフライドチキンの皿を、保存するように小分けする為ダイニングテーブルに持って行った。
「洗い物私やろうか??」
「あ、いいよいいよ! 油のやつとかもあるし!」
「そ、そう…」
「美緒はコタツに入ってあったまってて!」
「流石に悪いよ…作ってもらったのに…」
「そうかなー? んじゃお皿とかだけお願いしていい? 大きいやつは俺がやるからー」
「わかった」
そうして美緒はお皿を洗い出した。
なんかいいなぁ、こういう感じ。
なんでもないこの一瞬が幸せだ。
美緒も俺を受け入れてくれてるみたいで本当よかった…。
そうして片付けもあらかた終わって、先にコタツに戻った美緒のところへ俺も向かった。
時間はもう21時だ。
美緒と過ごす時間はあっという間だ。
俺が美緒の対面のコタツに入って、
「じゃあそろそろ…」
と言うと、
「ま、待って! まだ、こ、心の準備が……」
と美緒が言った。
え?
帰るのにどんな心の準備が?
あ、もしかしてもっと一緒にいたいとか??
なんて美緒は可愛いんだ…!!
「美緒またすぐ会えるよ?」
と俺が言うと、美緒は俺の方を見て「え?」みたいな顔になって、バッと顔を下に向け両手で覆った。
「そ、そうだよね…」
「う、うん?」
「ご、ごめん…」
「もう21時だしさ! もっと一緒にいたいと思ってくれるのは凄い嬉しいけど、遅くなるとご家族が心配するでしょ?」
「そ、そうなんだけど…違うの……」
「違う?」
「わ、私、今日彼氏の家に行くってことは…そういうことされるのかもなって…思ってて……」
「そういう…」
と俺は途中まで言って、一気に顔が熱くなりバッと後ろを向いた。
そういうことってそういうことだよね。
「だ、だから、勘違いしちゃって…ごめん……」
「え、あ、いや、ほら、俺等まだ付き合って2カ月ほどだしさ?」
「う、うん…ご、ごめんね、私みたいなのにそんなこと思うわけないもんね…」
「そ、そんなことないよ!」
と、俺は後ろを向くのをやめて美緒のほうを見て言った。
顔が絶対赤い気がする。
だってめっちゃ暑いもん!
でも、今はちゃんと言わないといけない気がする!!
「俺だって美緒ともっとくっつきたいし、そ、そういうことだってしたい! ものすごくしたい!!」
と言うと、美緒は今度は俺の方を見て真っ赤になってしまった。
俺は何を言ってるんだぁぁぁぁ!
普通に、美緒を大切にしたいからとかでいいじゃないかぁぁぁ!!!!!
と頭を抱えていると、美緒が、
「えっと、あ、ありがとね? だ、大丈夫だから」
「え、あ、うん…」
「そう思ってくれて嬉しいよ。でも私つい最近まで友達すらいなかったから…」
「うん、でも俺も、誘っちゃった後に同じことすごい考えちゃって…何なら今日の朝とかも…」
「そうだったんだ…」
「一緒だね…」
「そ、そうだね」
「お、俺等は俺等のペースでゆっくりね!」
「ふふふ、そうだね…ありがとう、律君」
そう言って美緒は前髪を片手で分けて、赤い顔で少し傾げながらニコッと笑った。
そして俺の心臓は止まった。
かのような衝撃で、直前のことを忘れてしまったぐらいだ。
まさか名前で呼んでくれるなんて思ってなかった。
別に樫木君て呼ばれることに何ら不満はなかったが、いざ名前で呼ばれると、自分が特別なようで死ぬほどうれしい。
俺が衝撃を受けていると、美緒は下を向いて、
「だ、だめかな…?」
と聞くので、
「い、いいに決まってる! 美緒ありがとう! 最高のクリスマスプレゼントだよ!!」
と、俺は腕を組んでジーンとその言葉をかみしめた。
「じゃ、じゃあ、今日は失礼しようかな…」
「あ、うん! 送ってくよ!」
「お願いしようかな…」
「うん、もちろん!」
そう言って俺も美緒も立ち上がりコートを着た。
そして家を出ようと玄関に向かったら、
後ろから美緒がギュッと抱き着いてきた。
「ご飯美味しかったよ。ありがとね。これはお礼じゃないけど…」
俺は固まったまま動けない。
「律君、本当にありがとう」
美緒はそう言うと俺の背中に頭をトンって当ててきた。
人生最高のクリスマスだ。
間違いない。
その後俺は美緒を家まで送り、美緒の家の近くでバイバイと別れて帰ってきたが、全く興奮が冷めなかった。




