表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/52

揚げたては大体美味しい

「さー食べて食べて!」




俺はそう美緒に言った。


今日のメニューは、手作りのクリームシチューとフライドチキンとサラダ、それに美緒はパンで俺はご飯だ。



仕事が忙しくあんまり時間がなかったが、フライドチキンは昨日のうちに骨つきもも肉を下茹でして、特製と言ってもあれもこれもは無理なんで、生姜や醬油と塩やかつお出汁等を混ぜた調味液に付け込んだ。


その骨つきもも肉を、昨日準備したマジックソルト等を混ぜた特製の付け粉に、さっき付けて揚げた、和風味のフライドチキン。



普段家で揚げ物なんかやらないから、ちょっと上手くいったか不安だがどうだろうか…。


シチューはちょくちょく作るから大丈夫だろうけど…。




そして美緒がフライドチキンを箸で取って一口食べた。




「ど、どお?」




と俺が聞くと、




「すっごく美味しいよ? 樫木君も食べてみなよ。今アツアツだし、お店で出せるよ」


「おお! どれどれ」




俺は手でそのまま持って、かぶりついた。



カリッ



もも肉を使ったから、予定通りジュワっと中から肉汁があふれてくる。


衣に混ぜたマジカルスパイスもいい仕事してる。


揚げたてだからすごい熱いけど美味しい。


ただ、俺は知っている。


揚げたての揚げ物は大体美味しいことを…。




「でも、やっぱりちょっと足りないなぁ、なんかもうちょっとスパイス感欲しいね…なんだろ…オレガノとかタイムとかかな…でもそうすると和風な下味と…」




俺が「むーん」と言う感じで考えてると、美緒が、




「ふふふ、私にはそれはわからないけど、わかることはすごく美味しいし、準備してくれた気持ちが嬉しいってことだよ」




と、少しニコッとした感じで言った。


美緒の1つ1つの動作で、どんどん俺のライフが削られていく。


しかも1撃でがっつり削られる…。




「あ、う、うん! よかった!」




そう言ってもう一口食べたが、微妙に味がわからなくなった…。


完全に美緒に翻弄されている。




「このシチューも美味しいね。今日はひたパンにしようかな…」


「美緒ひたパン派だって言ってたもんね!」


「かき揚げは後載せサクサク派だけどね」




そう言いながらアハハと笑った。


その後も2人で話しながら食べていると、自分で作ったものだけど、美緒と一緒に食べてるってだけで何倍も美味しい気がした。


それに他に人もいないから、美緒が気兼ねなく話してくれるのもうれしい。




「ふー食べたねぇ!」


「フライドチキンとか残っちゃったけど…」


「大丈夫大丈夫! 明日とかあっためて食べれるし! あ、持って帰る?」


「いいえ、樫木くん食べて? お仕事忙しくて大変だろうし。あ、いや、いらないってわけじゃないからね?」


「うん、わかってるよ! 美緒ありがとう!」


「うん…でもごめんね、私あんまり量はいっぱい食べれなくて…」


「大丈夫大丈夫! その分俺が食うから!」


「ふふふ、ありがと。後片付けも手伝うね」


「お、ありがと!」




そう言うと美緒は、使ったお皿を何枚か重ねてキッチンに持って行った。


俺もフライドチキンの皿を、保存するように小分けする為ダイニングテーブルに持って行った。




「洗い物私やろうか??」


「あ、いいよいいよ! 油のやつとかもあるし!」


「そ、そう…」


「美緒はコタツに入ってあったまってて!」


「流石に悪いよ…作ってもらったのに…」


「そうかなー? んじゃお皿とかだけお願いしていい? 大きいやつは俺がやるからー」


「わかった」




そうして美緒はお皿を洗い出した。



なんかいいなぁ、こういう感じ。


なんでもないこの一瞬が幸せだ。


美緒も俺を受け入れてくれてるみたいで本当よかった…。




そうして片付けもあらかた終わって、先にコタツに戻った美緒のところへ俺も向かった。


時間はもう21時だ。


美緒と過ごす時間はあっという間だ。




俺が美緒の対面のコタツに入って、




「じゃあそろそろ…」




と言うと、




「ま、待って! まだ、こ、心の準備が……」




と美緒が言った。




え?


帰るのにどんな心の準備が?


あ、もしかしてもっと一緒にいたいとか??


なんて美緒は可愛いんだ…!!




「美緒またすぐ会えるよ?」




と俺が言うと、美緒は俺の方を見て「え?」みたいな顔になって、バッと顔を下に向け両手で覆った。




「そ、そうだよね…」


「う、うん?」


「ご、ごめん…」


「もう21時だしさ! もっと一緒にいたいと思ってくれるのは凄い嬉しいけど、遅くなるとご家族が心配するでしょ?」


「そ、そうなんだけど…違うの……」


「違う?」


「わ、私、今日彼氏の家に行くってことは…そういうことされるのかもなって…思ってて……」


「そういう…」




と俺は途中まで言って、一気に顔が熱くなりバッと後ろを向いた。


そういうことってそういうことだよね。




「だ、だから、勘違いしちゃって…ごめん……」


「え、あ、いや、ほら、俺等まだ付き合って2カ月ほどだしさ?」


「う、うん…ご、ごめんね、私みたいなのにそんなこと思うわけないもんね…」


「そ、そんなことないよ!」




と、俺は後ろを向くのをやめて美緒のほうを見て言った。


顔が絶対赤い気がする。


だってめっちゃ暑いもん!


でも、今はちゃんと言わないといけない気がする!!




「俺だって美緒ともっとくっつきたいし、そ、そういうことだってしたい! ものすごくしたい!!」




と言うと、美緒は今度は俺の方を見て真っ赤になってしまった。




俺は何を言ってるんだぁぁぁぁ!


普通に、美緒を大切にしたいからとかでいいじゃないかぁぁぁ!!!!!




と頭を抱えていると、美緒が、




「えっと、あ、ありがとね? だ、大丈夫だから」


「え、あ、うん…」


「そう思ってくれて嬉しいよ。でも私つい最近まで友達すらいなかったから…」


「うん、でも俺も、誘っちゃった後に同じことすごい考えちゃって…何なら今日の朝とかも…」


「そうだったんだ…」


「一緒だね…」


「そ、そうだね」


「お、俺等は俺等のペースでゆっくりね!」


「ふふふ、そうだね…ありがとう、律君」




そう言って美緒は前髪を片手で分けて、赤い顔で少し傾げながらニコッと笑った。




そして俺の心臓は止まった。




かのような衝撃で、直前のことを忘れてしまったぐらいだ。


まさか名前で呼んでくれるなんて思ってなかった。


別に樫木君て呼ばれることに何ら不満はなかったが、いざ名前で呼ばれると、自分が特別なようで死ぬほどうれしい。




俺が衝撃を受けていると、美緒は下を向いて、




「だ、だめかな…?」




と聞くので、




「い、いいに決まってる! 美緒ありがとう! 最高のクリスマスプレゼントだよ!!」




と、俺は腕を組んでジーンとその言葉をかみしめた。




「じゃ、じゃあ、今日は失礼しようかな…」


「あ、うん! 送ってくよ!」


「お願いしようかな…」


「うん、もちろん!」




そう言って俺も美緒も立ち上がりコートを着た。


そして家を出ようと玄関に向かったら、





後ろから美緒がギュッと抱き着いてきた。





「ご飯美味しかったよ。ありがとね。これはお礼じゃないけど…」




俺は固まったまま動けない。




「律君、本当にありがとう」




美緒はそう言うと俺の背中に頭をトンって当ててきた。





人生最高のクリスマスだ。


間違いない。




その後俺は美緒を家まで送り、美緒の家の近くでバイバイと別れて帰ってきたが、全く興奮が冷めなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです! 今後の展開に期待大です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ