料理の派閥
そうして迎えたクリスマスイブ当日。
新しく買った下着は、汚れちゃったりすると嫌だから、家を出る前に着替えよう。
まさかあの私が、下着に気を遣うような日が来るなんて思ってもいなかった。
しかもクリスマスイブを彼氏と過ごすなんて…。
本当に私なのだろうか。
もはやそれすら疑いたくなる。
実はどこかで転生したリア充に、中身も外見も入れ替わっていて、乗っ取られた体の周りを彷徨ってる魂になってるのではないだろうか。
そう思いスマホのインカメラで見るが、私だ。
しっかり幽霊女だ。
樫木君と、お、お付き合いしだしてから、外に出る機会も増えた。
相変わらず、近所の人が見るとヒソヒソと何かを言われるのは変わらないけど、なんだか樫木君があまりにも気にしないから、実は別に普通なんじゃないかと思ってしまう。
ただやっぱり私は幽霊女だし、樫木君はイケメンだ。
今は私のことを想ってくれてるみたいだけど…今後どうなるかなんてわからない…。
でも、私は、今後訪れるかもしれないその時まで、精一杯樫木君を信じる。
私に出来ることはそれしかない。
私は樫木君のことが好きだ。
最近それに気が付いた。
でも、もうそれは認める。
だって、樫木君から連絡が来ると直ぐスマホを見てしまうし、樫木君と会うとなるとこんなんでいいのかなと自分の洋服なんかが気になるようになった。
もうそれは樫木君のことが好きってことで間違いないと思う。
私はそんなことを思いながら、時間まで小説を読みながら過ごした。
そして18時ぴったりに、樫木君から連絡がきた。
『もう少ししたら自転車で向かうので、公園に18:30で待ち合わせしましょう!』
『わかりました』
私はそう返信すると、お風呂に入るわけでもないのに部屋で裸になり、下着を変えて、いつも通りの黒いロングスカートに白色のトレーナーを着て、いつものコートとマフラーを装備して家を出た。
公園までは5分ぐらいなのでそんなに時間はかからない。
そして真冬の寒々しい公園の、すごく冷たいベンチに腰掛けた。
流石に長い時間はいれないけど、やっぱりここはいい。
それにもう辺りは真っ暗で、そこに冷たい風が吹きつける。
そんな空気が逆に、私だけの世界という感じを強くする。
そんなことを思いながら、手をはーっとしていると、向こうから樫木君が来るのが見えた。
私はベンチを立ち樫木君の方に向かう。
「お疲れ様」
「いえいえー! 美緒の顔見たら元気になっちゃいました!」
といつも通りの樫木君。
「じゃあ行こうか!」
「う、うん」
いよいよだ。
自転車を押して歩く樫木君の横を歩きながら、今日は「フライドチキン作るよー」なんて声かけられて、普通に雑談しながら向かった。
そして20分ほど歩くと、
「ここだよ!」
と家の脇に自転車を止めた。
平屋の古い一軒家。
公営住宅か何かだろうか。同じような家が4件ほど並んでる。
「あんまりきれいなところじゃないけどー」
と玄関に向かう樫木君の後ろをついていく。
「どうぞー」
そう言って樫木君はドアを開けて中に入っていった。
「おじゃまします」
確かに結構古い作りで、入ってすぐがダイニングキッチンで奥にリビングがある感じだ。
ただ、中は割とキレイに片付けられている。
「結構きれいだね」
「まぁ、掃除したからね(笑)」
と、頭を掻きながら樫木くんは言った。
「そうなんだね、ふふふ」
「あっちにコタツあるから、直ぐ準備するから待っててー」
「私も何か手伝おうか?」
「え? それじゃあ、サラダ盛り付けてくれる?」
「うん」
私はコタツの脇に鞄を置いて、その上から脱いだコートとマフラーを置いてキッチンに戻った。
キッチンでなんだか冷蔵庫からタッパーみたいなものを出して、揚げ油みたいなのを温める樫木君。
なんだかカッコいい。
私はダイニングテーブルの上に置かれた野菜を、出してくれたお皿に盛りつける。
すると樫木君が、
「なんだか新婚みたいだね!」
と言った。
た、確かに…。
そう思うと急激に恥ずかしくなってきた…。
恥ずかしくなって手の止まっている私に、
「美緒は、シチューにはパン派? ご飯派?」
と樫木君が聞いてくれたので、
「パン派かな…」
「そっかー、俺はご飯派! あ、でもパンもあるから!」
「あ、うん、ありがとう」
「パンは焼く?」
「シチューと一緒でしょ?」
「うん」
「そのままで大丈夫」
「オッケー! つけパン派? ひたパン派?」
「いつもはつけパンにしてるんだけど、実はひたパン派…」
「そうなんだね(笑)」
そして2人でふふふと笑って、そのまま食べ物の派閥について2人で話しながら準備した。
ちなみに樫木君も私も、かき揚げ蕎麦のかき揚げは、後載せサクサク派だった。
そして出来上がったものをコタツに並べ、後はフライドチキンだけだからとコタツで待っててと言われたので、コタツに入って待っていると、フライドチキンを盛り付けた少し大きめのお皿を持った樫木君がやってきた。
「さ、食べようか!」
「うん、すごくおいしそう」
「今回のはねー、特別製だから! っていっても初めて作ったんだけどね(笑)」
「そうだったんだ」
「んじゃ、いただきまーす!」
「メリークリスマスじゃないの??」
と私が聞くと、樫木君は驚いた顔をして、
「た、確かに…! 俺こういうの家族でもやったことなかったから!」
「ふふふ、じゃあ改めて、メリークリスマス」
「メリークリスマス! 愛してるよ美緒!」
と、普通のコップについだお茶をカンっと合わせた。
恥ずかしくてすぐ下向いちゃったけど…。
だって急に愛してるとか言うんだもん……。
私もああやって、ハッキリ真っ直ぐ物事言えたらいいのにな…。




