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そういうこと

いやー、本当にあのアジフライは絶品だった。


あんなビルにある店で、出てくる品はどれも庶民的なものばかりだけど、そのどれもが美味しい。


自分で再現してみたいけど、あれは流石にあのアジがないと無理そうだ…。




美緒をキッチン三枝に連れて行ってから数日たった。


美緒もすごく驚いて喜んでくれたみたいで本当によかった。



本当昔からの夢だったんだよねー。


ここ俺のいきつけだから! って好きな人を連れて行くの。




それから美緒とは変わらず毎日メッセージのやり取りをしている。



ただ、前と変わって、お互い時間が合うときは、あの公園で少し直接会うようになった。


前と違って、美緒は色々俺のことを聞いてくるようになった。


どうして一人暮らしなのか。


どうして中卒になってしまったのか。



色々とこれまで疑問に思っていたことを解消しにいくように質問してくれる。




俺のことを知ろうとしてくれているということが伝わってきて嬉しい。




この前会ったときに、来週クリスマスだけど何か欲しいものはあるか聞いたら、




「…何もいらないから一緒にいてくれるだけでいい……」




って下を向きながら、小さい声で言った美緒は、もうそれはそれは可愛かった。


俺、その場で心筋梗塞で倒れるんじゃないかと思ったもん。




俺はクリスマスも、世の中の冬休みと言われる期間も、殆ど仕事だから中々そういうイベントごとをやることが難しい。


ただ、美緒は普通の大学生だから何か気にするかもしれないと思って、一応横山さんに無理言って、クリスマスイブは美緒に会える時間にあがらせてもらうことにした。




「しかし、あの律がクリスマスだからって、シフトを調整してほしいなんて言う日が来るとはなぁ」




と検品しながら横山さんが言う。




「俺もう彼女いるんで!」




と、荷物を持ちながら俺は言う。




「次の日休みにしてもいいんだぞー?」


「いやいや、流石にそれは悪いっす。クリスマスだから皆さん予定あるでしょうし」


「まぁそう言ってくれるのはこっちはありがたいんだがなぁ」


「だから大丈夫っす」


「しかし、その時間に会っても、次の日朝から仕事だと泊まることもできねーだろ?」




と横山さんが、検品作業しながら何気なく言った。



そして俺は荷物を落とした。




「あー! おい! 律! 落とすなよ!!!!」


「す、すいません!!!!」


「中大丈夫か??」


「確認します…。一旦見える範囲は外装含め大丈夫そうですが…」


「ったく、後で全部確認するから、その箱あっち置いとけ」


「すいません…」


「落とすなよ!」


「はい…でも横山さんが変なこと言うからびっくりしちゃって、力が抜けちゃって…」


「なんだよ変なことって」


「と、泊まるって……」




と俺が恥ずかしながら言うと、横山さんは少し呆れたように、




「律なー、お前もういくつなんだよ? 19だろー? そんで彼女がいるんだろ?」


「はい…」


「そんで、話聞く感じその彼女ちゃんもまんざらじゃない感じだろー?」


「嫌われてはいないと思います…」


「そしてらそういうことだってあり得るだろうよ」


「そういうこと……」


「あー、子どもは気をつけろよ!!」




と、横山さんが注意するように言うので、




「お、俺にはまだ早いです!!」




そう言って、俺は急いで荷物を置いて出ていった。




そういうこと…。


もちろん興味はあるが……。




あーダメだダメだ!


こんなこと考えてたら美緒に嫌われる!


仕事に集中! 集中集中!!




俺はそう思いなおし、仕事にいそしんだ。


年末年始は、リアルのお店もネット通販も商戦期だから、俺達みたいな運送屋さんは大忙しなのだ。


配送が増えれば、倉庫の仕事も増える。


倉庫の仕事が増えても人は増えるわけではない…。


すると、どう考えても1人当たりの仕事が増えることになるが、この時期はもう頑張るしかない。


そうして俺は22時過ぎまで働いた。




寒いのを堪えて自転車に乗って家に帰り、少しすると、美緒からメッセージが届いた。





『そろそろ家ですか? 今日は22時ぐらいまでと聞いていたので』




と書かれている。


あー、もうなんて可愛いのでしょう。


最近では、お互い時間が合うときは会うようにしているので、大体のお互いのスケジュールがわかってるから、それで連絡して来てくれたのだろう。




『さっき家に着きました!』




と返事すると直ぐに返事が来た。




『遅くまでお疲れ様。体とか大丈夫?』

『はい! 元気ですよ! この時期忙しいのはもう毎年のことなので!』

『そうなんだね…』

『あ、でもクリスマスイブの日は、18時にあがれるようにしてもらったので少し会えない?』

『大丈夫です』

『折角だから一緒にご飯でも食べよう? 気の利いたプレゼントとかは準備できないんだけど』

『プレゼントとかは本当に大丈夫だから…。でもありがとう。じゃあ、クリスマスイブの夜は一緒にご飯食べようね』

『よっしゃー! でもどこがいいかな?』

『あまり人が多いところは…』

『そうだよねー、でもクリスマスなんてどこも人が多いだろうし…』

『そうだよね…』

『あ、俺なんか作ろうか?』

『え?』

『俺も一応料理できるからさ、プレゼントじゃないけど美緒にご馳走する!』

『え、すごい嬉しいけど、どこで?』

『美緒の家は流石に無理だろうから、うちかな?』




と送ると、返事が止まった。


あれ?


トイレかな?





ちょっと待った。


俺、なにも考えてなかったけど、うちに来ないかって誘ってるじゃんこれ!


待った、そう言う意図はない!


やばい、どうしよう!


と思っていると返事が来た。




『じゃあ、お邪魔します』

『わかった! 準備しておくね!』





そう言うと返事が来なくなった。


ただ、俺はそれよりも、まず家に来ないかって誘ってしまったことに大慌て。


そういうつもりじゃないってどう伝えればいいんだ?!


ただ、美緒が楽しめるようにって思っただけだったのに!


いや待て、そういうこともあるかもしれないのか?


いやいや! そういうんじゃないから!!


ってか、そ、そんな事より掃除しなきゃ!!!!!




と俺はまだ日にちはあるのに、仕事で疲れていたはずなのに、次の日も朝から仕事なのに、掃除を始めた。

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