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【西条美緒視点】世界の皆が見ている

自分から大学に来てみるか、誘ってしまった。


誘おうと思ってたわけじゃなくて、単に樫木君は中学校以来学校に行ってないから、なんか新鮮かなって思っただけなんだけど…。


メッセージを送った後に気が付いたが、もう時すでに遅し。


樫木君から行くと返事が来てしまった。



どうしよう。


自分で言っておきながら、大学にか、彼氏を連れて行くなんて恥ずかしい。


あ、いや、樫木君は全然恥ずかしくない。


恥ずかしいどころか自慢すらできる。


その横に立っている私が恥ずかしい…。



そして大学と言うことは、私のことを知っている人がいる。


大丈夫かな…。




でも楽しみにしてくれてるみたいだし、今更やっぱりやめようというのもなんだか心苦しい。


自分で誘っておきながら、悩みに悩んで答えが出ないまま当日になってしまった。



もうここまできたらなるようなるしかないか…。


私はそんなことを思いつつ、図書館で樫木君が来るのを待った。


暫くすると樫木君からメッセージがきた。




『正門につきました!』

『今行くね』




私は返事をすると、席を立って正門に向かった。


正門に向かう道すがら、すれ違う他の女の子達が「正門にめっちゃイケメンいた」とか「芸能人? 知ってる?」みたいに話しているのが聞こえる。


絶対樫木君だ…。


私には関係ないからとそういうことには全然関心がなかったから、あまり自信がなかったのだが、やっぱり樫木君はイケメンということだ。


嫌だなと思う気持ち反面、なんだか嬉しい気持ち反面で正門に向かうと、通りすがる女子学生にチラチラ見られてる樫木君が立ってた。




「お、おまたせ…」




私がそういうと、樫木君はこっちをみて子犬のようにニコニコしながらこっちに向かってくる。


そんな今日の彼は、黒い細めのピタッとしたズボンに、白色のチェック柄のシャツの上に薄い青色のセーターを着て、グレーのロングコートを着ている。


ちょっと待って。


やばい、本当に芸能人みたいだ…。ど、どうしよう…。


と私が思っていると、樫木君はこっちに向かってきながら、




「あ、う、うん、今日も可愛いね!」




と割と大きな声で言ったので、私は驚いてしまった。


待ってぇーー! やめてぇーー!! 本当に恥ずかしすぎる…!!!




「ちょちょっと…大きな声でそんなこと言わないで…」




と前に立った樫木君に私が少し小さい声で言うと、




「どうして! こんなに可愛いのに!」




樫木君はドヤっと言った。


周り皆見てるし…。


もう顔から火を噴きそうだ……。


早くその場から退散すべく、私は樫木君のコートをつまみ、




「も、もう、いいからこっちきて…」




と引っ張った。


もう面と向かっても、メッセージでも、他に人がいても、いなくても、なんもお構いなし。


樫木君は私だけを見ているということが伝わってくる。


大学の敷地を、彼のコートを引っ張りながら歩きつつ、そんなことを思っていた。




「ここが食堂だよ」




と案内すると、樫木君は「へぇー」みたいな感じできょろきょろしだした。




「今は営業時間外だけど、お昼頃とかはすごい人の量だよ」


「そうなんだね!」


「わ、私はあまり使わないけど…」


「そうなんだ…でも結構安くてボリュームがありそうでいいじゃん!」


「うん、でも…」


「あーうん、確かに匂い的にそこまで美味しいってのは期待できないかなぁ」




と言うのを聞いて驚いた。


美味しそうな匂いってのは分かるけど、味には期待できないかなぁって匂いなんてわかるものなの?


私が食堂に行かない理由は、人が多いからなのだけど……。




「匂いでそんなことがわかるの?」




と私が聞くと、




「うん、匂いってか匂いの味と言うか? なんか昔っから味に敏感でさ、味と匂いって連動することが多いから結構わかるようになっちゃった」


「そ、そうなんだ」




わかるような、わからないような…。


昔読んだ料理を題材にした小説にそんなようなことが書いてあったようななかったような…。


あ、考えてないで、提出物出しに行かなくちゃ。


提出するのを忘れたまま図書館に行っちゃって、樫木君を案内するときについでに行こうと思ってたんだった。




「私、提出物を出しに行きたいから、着いてきてもらっていい?」


「うん!」




私は再び樫木君のコートの端をつまみ、学科の建物に向かおうとすると、急にふわっと、そのつまんでる指を握られ、びっくりした私はそのままピタッと止まって下を向いた。



振り向けない。


振り向いて事実を目にすると、恥ずかしくて逃げてしまうかもしれない…。


で、でも、こんなに暖かいんだ。


私が幽霊で冷たいからかな…。



私は下を向いて、指は握られたまま学科の建物に向かった。



は、はずかしい。


世界の全員が私達を見ているのではないかと思える。



そうして学科の建物の前に着いたので、握られていた指をすっと抜いて、




「ここが私の学科なの…ちょっと提出物だけだしてくるから、ここで少し待ってて」


「わかった!」




と、ニコニコしながら手を振る樫木君。


私は握られたその指を自分で握って、小走りで建物中に走っていった。

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