少しぐらい夢を見たって
まさか本当に付き合えることになるなんて思ってなかった。
だって、俺中卒だよ?
確かに外見は多少はいいかもしれないけど、中卒なんてもはや社会にいないようなもんじゃん。
もはや存在が許されないような人種でしょ?
本当にいいのだろうか…。
確かに本気で嬉しいんだけど、西条さんに迷惑はかからないだろうか?
でも中卒と言う事実は変わらない。
とりあえず俺ができることは、一生懸命彼女に向き合い大切にすることぐらいだ。
その結果、やはり中卒が問題になるなら、その時は潔く身を引こう。
中学卒業してから、ずっと頑張ってきたと思う。
皆がゲーセンやカラオケで遊んでる中、俺はずっと仕事してきた。
皆が家に帰ったらご飯が出てくる中、俺は生きるために必死だった。
短い期間かもしれないけど、少しぐらい俺にだって夢を見せてくれたっていいだろう。
人生でこれがもう最後かもしれない。
どんなに短い期間でも、俺はしっかり西条美緒さんに向き合って、少しでも付き合ってよかったと思ってもらえるようにしよう!
俺はそう心に決め日々を過ごした。
西条さんとはそれ以降毎日ずっとメッセージのやり取りをしている。
付き合うとなってからは、なんと西条さんが返事をくれるようになったのだ!!
もう返事が来るたびに嬉しい。
6時間倉庫で体力仕事をずっと続けてくたくたでも、西条さんからのメッセージが届くと、もう吹っ飛ぶ!
メッセージを見るたびに、西条さんが公園のベンチで本を読んでいる姿を思い出す。
本当俺は幸せだ…。
「律ー、お前最近スマホ見ながらニヤニヤするの気持ち悪いぞ」
と、休憩場所でタバコを吸ってる横山さんが話しかけてきた。
「いや、もう最高なんすよ。これが恋なんですね」
と俺がしみじみしながら言うと、
「いや、まぁ、そうかもしらんが、なんか今どきお前みたいな奴いるんだな…」
「なにがっすか?」
「ほらお前、いざ付き合ったとなったらもういい年なんだし、やることあるだろ」
そう横山さんがニヤニヤしながら言った。
「い、いや!!! まだ早いっす!!! まだ手は繋げないっす!!!!!」
と俺が言うと、横山さんはポカーンとした。
「いや、まぁなんだ…。お前はピュアだな…」
「そうですかね?」
「まぁでも、女の子にとってはいいことだと思うから、そのままでいいんじゃないか」
「そっすか、ならいいです!」
「んじゃ続きやるかー」
「ういっす!」
そう言って俺は横山さんと一緒に休憩場所を出た。
そしてその日仕事が終わりスマホを見ると、西条さんからメッセージが来ていた。
『お仕事お疲れ様です。遅くまで大変だね』
あーもう、はい、全然疲れがなくなりました。
後30時間ぐらい働けそうです。
そんなことを思いながら俺は返事をした。
『いつもですから! でも西条さんのおかげで元気が出ました!』
とメッセージを送り、俺は自転車をこいで家に帰った。
家に帰ると西条さんから返事が来ていた。
『体には気を付けてね。私も樫木君のメッセージを見ると大学に行く元気が出ます』
おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
可愛すぎるぅぅぅぅぅ!!!!
この人は俺を殺しに来てるんだろうか?!
新手の暗殺手法かと思うぐらい、なんかこう胸の奥の方が締め付けられる!!
俺は西条さんの暗殺に耐えて、息を切らしながら返事をした。
『それならよかったです! 大学はどんなところですか?』
と送った。
大学どころか高校にも行っていない俺からすると、もう学校と言うのは遠い記憶だ。
するとすぐに返事が届いた。
『来てみますか?』
『いいんですか?!』
『授業は無理ですけど、構内に入るぐらいはできますよ』
『行きます!』
こ、これは…、西条さんとデートと言うことになるのか?!
初デート…いったいどうしたらいいんだ!!
そう思い俺は慌ててスマホを操作した。
「圭太! 大変だ!」
「どうしたんー?」
「今度西条さんの大学に行ってみることになった」
「あぁ、まぁ行ってくればいいんじゃん」
「これはデートだよな????」
「んーまぁそうともいうんじゃないか」
「この前と同じ服でいいか?」
「いや、あれじゃ流石に寒いだろ…」
「じゃあどうしたらいい!」
「あーもうわかったよ、んじゃ日中外出れるタイミングで、適当に買いに行こうぜ」
「感謝ーー!」
「しっかし、お前本当に好きなんだな幽霊女」
「幽霊じゃない。西条さんだ」
「あー、西条さん」
「うん、正直メッセージが来るだけで死ぬほどうれしい」
「そ、そうか…」
「さっきなんか殺されそうになった」
「はぁ?」
「なんか、俺が送ったメッセージを見ると大学に行く元気が出るって。もう可愛すぎるだろ!!!」
「あぁそういうこと…はいはい、もういいよお前の惚気話は…」
「もっと聞いてくれ!」
「あーもう、とりあえず日中出れる日、後でメッセで送ってくれ」
「了解!」
そうして俺は圭太と日程調整して、西条さんとのデートに来ていく洋服を買いに行った。
冬物の洋服って高いんだな…。
そうして、西条さんの大学に行く日になった。
西条さんの授業終わりに、俺が合流して大学を少し見てみようということになっている。
これは西条さんをお迎えに行く感じだ。
なんだか彼氏っぽくてすごくいいいな。
そんなことを思いながら、俺は電車に乗り、西条さんの通う大学に向かった。
大学が近くなってくると、同じぐらいの年代の人がいっぱい歩いている。
なんだかこんな空間自体が久しぶりだ。
そこは、ファーストフード店やコンビニや定食屋なんかが立ち並び、いかにも学生の街って感じだった。




