【西条美緒視点】私と同じだけど違う
大学に行くことが当然だと思っていた私とは全然違う。
いったいこの先どうするんだろう。
私はそう思って聞いた。
「でも、これからどうするの?」
私がそう聞くと、
「西条さんと付き合いたい!!」
と、ドンって感じで言いきった。
いや、私の聞き方が悪かったけど…。
なんかもう、ことあるごとに好きだと言われているようで本当に恥ずかしい。
「えっと…そうじゃなくて、将来仕事とか…」
「あぁ、まぁ大変なんだろうけど、もうしょうがないからさ、今の仕事でもなんでも一生懸命頑張るしかないかなって!」
そう言う彼はこぶしを握って、少しな斜め上を見ている。
あぁこの人は、しっかりと認識したうえで前に進もうとしてるんだ。
なんて強い人なんだ。
3歳からふさぎ込んでる私なんかとは大違いだ。
私はそう思いながら言った。
「そう、樫木君は強いね…」
「そうかなー? 自分じゃわからないけど」
「強いよ。私なんかとは大違い」
「そんなことない! 西条さんだってきっといっぱいいいところある! じゃないと好きになったりしない! まだあまり知らないけど……」
「…ふふ、そうだといいな」
本当真っすぐな人だなぁと思うと、自然と笑ってしまった。
なんだか、私まで前に進みたくなる。
そんな樫木君の前のめりな空気に私は感化されたのか、聞いてしまった。
「でも、本当に私なんかと付き合いたいの?」
聞いてすぐに思った。
なんて上から目線なんだ…。
本当私って嫌なやつ。
見た目も幽霊だけど、いつまにか気持ちまで幽霊みたいな悪役になっていたのか…。
そう思いながらチラッと彼を見ると、ニコニコとしながら、
「うん、正直、本当に。今日も朝6時に起きちゃうぐらいには好きだから」
朝6時って。
遠足の小学生ですら、まだ起きないでしょ…。
でも、そんなに今日を楽しみにしてくれてたんだ…。
そう思うと、一気に恥ずかしくなって私は下を向いた。
もう絶対顔が赤い。
人生で初めての経験だ。
でも、なんだかそんな誠実な樫木君に、ちゃんと認識してもらわなくちゃいけない。
私が幽霊女だってことを。
私はそう思うと、耳にかけていた前髪をおろし、彼の方を見た。
「私こんなんだよ」
「長いねー。でも綺麗な髪の毛だねー」
この状態で髪の毛の綺麗さに目線が行くって、何か感覚的にずれているのだろうか…。
というか、そんなに綺麗だったっけ……。
「…樫木君本当変わってるね」
「いやいや、そうかな? でもいつもは耳にかけてるでしょ?」
「流石に本が読めないからね」
私はそう言いながら、いつも本を読む時みたいに、片方の耳に前髪をかけた。
すると彼は驚いたような表情になり、
「え、あ、うん…」
「どうかした?」
「あ、いや、すごい美人だなと…」
もう恥ずかしすぎる。
何をしても何を言っても肯定しかされない。
絶対樫木君の目はおかしい…。
私はそのまま下を向きながら、
「樫木君は、なんでも真っ直ぐなんだね…」
「そうだね、うちの親がなんか困った感じだから、真っ当に生きよう! ってことだけは決めてるんだ」
「そうなんだ…」
「まぁ中卒って時点で真っ当ではないんだけどね…。だから、西条さんのことを好きだってのも本当だし、付き合いたいってのも本当だけど、無視してくれていいからさ」
どういうこと?
罰ゲームじゃないってことはもう流石にわかるんだけど、無視すればいいの?
「どうして?」
「だって中卒だよ?」
「そうみたいだね」
「中卒って絶滅危惧種だよ?」
「私も身近で初めて聞いた」
「だから本当は遠くから見ているだけでもよかったんだ。中卒ってわかっちゃうと遠ざけられるかもしれないから…」
「そういうことね」
「まぁ元々遠くから見てたんだけど(笑)」
なるほど。
樫木君は、中卒であることを卑下しているわけじゃないけど、中卒であることの社会の認識をしっかりわかっているんだ。
だから、そういう風に思うんだ。
その部分は、なんだか私みたい。
私も幽霊女だって認識している。
ただ、私は幽霊女であることを卑下しているし、受け止めて前に進もうともしていない。
その部分は大きく違う。
私も樫木君と話していたらそんな風に思える日が来るのだろうか…。
そんなことを思い、私は話し出した。
「私、樫木君のことは何も知らないわ」
「そ、そうだね」
「小学はお化け女子、中学は貞子、高校は幽霊女で、近所では幽霊娘」
「そうだったんだ…」
「それに付き合うって言うことが何をすることかもわからない」
「それは俺も」
「友達だって今まで1人もいたことない」
「俺も仲いいのは1人だけだなぁ」
「そんな私でも、樫木君は私がいいの?」
「うん! 間違いなく! 俺は西条さんが好きなんだ!」
真っ直ぐ私の目のあたりを見ながら力強く彼は言った。
本当なんだ…。
「いいよ」
「え??」
「付き合ってもいいよ」
「本当?」
「うん」
「まじで??」
「うん、でも私は樫木君のことを今好きとも何とも思ってない。嫌いとも思ってないけど…それでもいいの?」
「全然いい!!!!!! これから好きになってもらうから!」
「じゃぁ、これからよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!!!!!!!!!!!!」
その後少しだけ雑談して、その日は家に帰った。
家に帰る帰り道から、家に帰ってもずっと胸がドキドキしている。
私がまさか、男性とお付き合いするなんていうことになるとは思わなかった。
色々小説を読んでるから、知識だけはある。
付き合うとなると、私もいい年だし、
この後手を繋いで…
キスして……
あんなこともしちゃったり………
そこまで想像して私は枕に顔をうずめた。
別に今から会ったりするわけでもないのに、こんなに浮かれてる。
まさか友達が1人もいないのに、彼氏ができるなんて思ってなかった。
しかもあんなにイケメンの…。
本当に私なんかでいいのだろうか…。
と思うと、さっきの彼の言葉とその顔を思い出してしまい、再び恥ずかしくなった。
今は彼の言葉を信じることにしよう。
私はそう思いベットから出た。
机に置いたスマホを見ると、メッセージが来ている。
『家に着きました! また送り忘れてしまいました…無事に家に着きましたか?』
本当私は夢でも見ているのだろうか。
こんな恋愛小説のようなことがまさか自分に起こるなんて。
『大丈夫です。近いですから』
と返事した。
するとすぐに、
『それでも、少し暗くなってましたし、美人なんですから気を付けてくださいね!』
とメッセージがきた。
こ、この人はメッセージでもそのまんまなんだな…。
私は恥ずかしくなって返事しないまま再びベットにもぐりこんだ。
それからは、今まで通り樫木君からは毎日メッセージが届くが、今までと違い私も返事をするようになった。
今まで小説ばっかり読んでて、家族への連絡用ぐらいにしか思っていなかったスマホが、急に気になる。
小説を読んでる途中なのに、メッセージが来ると読むのを辞めて、スマホをみてしまう。
まさか、自分がこんな状態になるなんて思わなかった。
本と生き、本と死ぬはずだったのに。
急に私1人だった世界に、樫木律君と言う主人公が登場したかのようだ。
私は樫木君に惹かれているのかもしれない…。




