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【西条美緒視点】一生懸命

どうしよう。


相談できる人もいない。


こんな時、小説の主人公ならどうするだろう。


でも、私は小説の主人公じゃない。


どちらかと言うとモブキャラだ。




樫木君から来たメッセージ。




『今度の土曜休みなのですが、もしご都合よければどこかカフェにでも行きませんか?』




まだ返信できていない。


とりあえず現実逃避で小説を読みだしたが、なんだか落ち着かず集中できない。



どうして落ち着かないの…。


樫木君からはほぼ毎日なんかしらのメッセージが届く。


その内容からも、なんらかの罰ゲームのような感じは受けない。


むしろしっかりと私に……こ、好意を持ってくれている…気がする。



本人も何故だかわからないとは言っていたが、現実はきっと小説みたいな紆余曲折を経て、好きになるべくして好きになるような感じではないのだろう。



そう思うと急に恥ずかしくなる。


これまで、幽霊女なんて呼ばれても何にも気にならなかったのに、なんだか急に彼に知られたくないと思ってしまう。


もしかしたら知っているのかもしれないけど…。


でも、樫木君から届くメッセージは、本当に一方的だがいつも読んでしまう。


おかげで少しだけ彼のことがわかったような気がして、もう少し知ってみたいと思った。




どうしよう…。




そんな少し話してみてもいいかもしれないと思っている自分が、樫木君からのメッセージを無視させてくれない。



小説を読むことを諦めて、私はスマホを片手にベットでゴロゴロする。



よし、会ってみよう!


いや、幽霊女だって気付かれてないだけで、会って気付いたら引いてしまう…




そんな、2人の私に翻弄されベットでゴロゴロしながら悩む本体の私。



そして2時間ほどその状態で悩み続けた私は、ついにスマホを操作した。




『カフェではなく、この前の公園ならいいですよ』




私は樫木君に会うことに決めた。


ただ、カフェとか人が多いところだと、周りにヒソヒソされて嫌だから、この前の公園にしてもらう。


人が多いところなんかに行ったら、樫木君イケメンだし、きっといつもよりもっとひどくなる…。



ただ、メッセージを返しても、返事が来ない。既読にもならない。


この前返事した時は直ぐ既読になって、直ぐに返事が来たのに…。


その後しばらく待ったが、既読にもならないしもちろん返事もない。



待たせすぎて愛想をつかされてしまっただろうか……。



なんて私はバカなんだ。


別にこれぐらいの文章打つのなんて、10秒もかからないのに…。



私はそんな自分に落胆しながら、やっぱり幽霊女だししょうがないと思って眠った。




そして翌朝起きて、いつも通り大学に行く準備をしていると、スマホが鳴った。


樫木君からだ。




『大丈夫です! 時間何時がいいですか?』




と、何事もなかったかのように、いつもの感じのメッセージだ。


もしかして、昨日は寝ちゃってた? 


早朝勤務とかもあるって言ってたから、そうかもしれない。


そう思うと、あんなに落胆していた昨日の自分に可笑しくなり、ふふふっと笑ってしまった。




『16時とかでどうですか?』




と返事を送ると、




『大丈夫です!』




と直ぐに連絡がきた。





土曜日の16時か。


初めて、同年代の人と外で会う約束なんてした。


本当に私でいいのだろうか…。


やっぱり少しぐらいお洒落したほうがいいのだろうか。


でも、お洒落な服なんて持ってないし、どんな洋服がいいのかもわからない。


そもそも洋服をお洒落にしたところで、着ているのが私じゃ何を着ても一緒か。


いつも通りで行こう。


私はそんなことを考えつつ、学校に向かった。




そして当日、私はいつも通りの黒いロングスカートに特になんでもない白いブラウスを着て、待ち合わせより大分早い15時に公園に向かった。


折角だし、時間まで久しぶりに私の異世界を堪能しようと思ったからだ。


公園に着くと、もうすぐ冬なこともあり、少し肌寒い風が吹くが、日差しが当たってなんだか心地いい。


私は最近座ってなかったいつものベンチに腰掛け本を読みだした。




「ご、ごめん! 待たせてしまって!」




と、私の座るベンチから1メートルほど離れたところから樫木君が言った。


大きな声嫌なのだけれども…。




「…いえ、久しぶりにここで本を読もうと早く来ただけだから」


「あ、そうだったんだ!」


「というか、こっち座ったら? あまり大きな声で話されるのは嫌なんだけど…」




と私が言うと、彼はいそいそと私の座るベンチの逆端に座った。


なんだか子犬みたい…。


すると、




「ほ、本が好きなんだね!」




と、私が手に持つ本を見ながら言うので、




「えぇ、私には本しかないから」


「そうなんだ」




今までヒソヒソされてきたから、なんか変にオブラートに包まれても嫌だと私は思い、




「樫木君は私を見て何も思わないの?」




と聞いた。




「えっと、綺麗な髪の毛だなぁって」




まさかの回答に思わず下を向いてしまった…。


首や耳が少し熱い…。


ただ、私はしっかりと私のことを認識してもらって、早く気付いてもらおうと思い言った。




「私がなんて呼ばれているか知らないの?」


「幽霊女ってやつ?」


「知ってるんじゃない」


「つい最近友達に好きな人ができたから、どうしたらいいか相談した時に特徴を話したら教えてくれたんだよ」


「そう…」


「でも綺麗な髪の毛だよねぇ」


「…どうも…。それを知っても樫木君は何も思わないの?」


「そうだね! 特には! 俺が西条さんのこと好きなのは別に変らないし!」




知っていた。


でもつい最近らしい。


しかも友達に相談したって…。


なんか本当に本気みたいに感じてしまう……。




「へ、変な人……」


「そうかなぁ、本を読んでる西条さん凄いなんかこう高貴な感じで、どこぞのお嬢様かと俺は思ってたんだけど?」


「しがないサラリーマンの娘よ」


「そ、そうなんだ…」




私がお嬢様?


いえ、幽霊様ですよ?


一体樫木君の目には私はどう映ってるの?


目が悪いの?


眼科に行った方がいいんじゃないだろうか…。




私がそんなことを思いながら沈黙していると、




「さ、西条さんは、好きな食べ物とか、ある?」




と聞いてきた。


いきなり食べ物って…なんだか一生懸命で可愛い。




「…急ね…」


「ご、ごめん」


「これと言って特にこれっていうものはないけど、肉か魚かで言うと魚の方が好きだわ」


「おーそっか! そしたら今度さ、俺のとっておきのレストランみたいなところ一緒に行こうよ!」




こ、これは…


私は誘われているの?


こんな私を見ているはずなのにまた誘うの?


でも、こんな同年代の人との会話は初めてだ。


私はそう思うと回答してしまっていた。




「え、えぇ…機会があったらね……」


「めっちゃうまいから期待してて! それこそ本で出てくるぐらい美味しいから!」


「…本に出てくるぐらいってのはちょっとわからないけど…」


「あ、ご、ごめん! 俺本とかあんまり読まないから、何となく伝わるかなーと思って」


「まぁなんとなくね」




なんだか一生懸命で可愛く見てしまうけど、チラッとみるとただのイケメンだ。


なんでこんなに、それこそ芸能人じゃないかと思うぐらい顔立ちが整ってる人が、私にこんな一生懸命話しかけてるの?


私はそう思って、聞いた。




「樫木くんは、なんで私なの? 見た感じかなりイケメンに見えるし、正直困らなそうだけど」


「んー、まぁそれよく言われんだけど、俺高校行かずにずっと働いてるから正直同年代と出会う機会ないんだよね。あ、後から言うのも嫌だから言っておくと、俺中卒なんだ」




そういう樫木君は、頭を搔きながら苦笑いしてトホホーと言う感じだ。


まさか、今時中卒なんて人がいると思わなかった。




「そ、そうなんだ…」


「まぁ理由はあるんだけど、どうしても働かなくちゃいけなくなっちゃって」


「なるほど」


「だから、俺みたいな中卒の人間に話しかけられても迷惑しかかけないと思ってたからさ、遠くから見てるだけにしてたんだけど…」


「い、いえ、それはもう大丈夫よ。でも今時中卒なんているのね」


「それは俺も思う(笑)」




働かなくちゃいけない理由って何だろう。


ご両親が重い病気とかだろうか…。


ただ、樫木君をチラッとみると、なんだか暗いというより、その事実をしっかり受け止めている感じだ。


両親に大学までは行くようにと小さい頃から言われてきた私にとっては、すごく新鮮だった。

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