絶滅危惧種
送ったメッセージは暫くすると既読になったが、返事は来ない。
うーーーーーーん…
しつこくするのはダメだって御園さんに言われたし、ここは一旦待つしかないか…。
そんなことを思いつつ、晩御飯の準備を始めた。
今日はクリームシチューを小麦粉から作ろうと思う。
ちなみに俺は、クリームシチューはパン派ではなくご飯派だ。
そうして材料を切ってシチューを作り、出来たら炊飯器に残っているご飯と一緒にダイニングテーブルに持って行った。
そしてご飯を食べ終え、後かたずけをし、風呂に入ると早朝勤務だったからか、一気に眠くなってきたので、俺はすぐに寝てしまった。
そして翌朝、起きるとスマホにメッセージが届いていた。
西条さんからだ。
『カフェではなく、この前の公園ならいいですよ』
最高の寝起きだ。
神様ありがとう!
俺は直ぐに、
『大丈夫です! 時間何時がいいですか?』
と送った。
そしてルンルン気分で朝食を準備し洗濯物を干し、職場に向かう時間になったので、家を出ようとスマホを持つと、
『16時とかでどうですか?』
もう何時でもOK!
いやぁ恋っていいね! なんかこんな小さな1つ1つでこんなに気分が盛り上がるものだとは思わなかった!
直ぐに、
『大丈夫です!』
と返事をし俺は職場に向かった。
そしてついにその日になった。
待ち合わせは16時だというのに、俺は朝の6時には目が覚めた。
圭太に相談したら、せめて少しはおしゃれをしていけということで、いつもはぼさぼさの髪の毛を今日はセットする。
どうやってやるといいのか全くわからなかったが、圭太が家まで来てくれて色々と教えてくれた。
服も俺の部屋の中で物色してこれにしとけと、細身の薄めの色のジーンズに長袖シャツを選んでくれた。
実際デートに行くとかなったらコーディネートしてやるとまで言ってくれて、本当圭太様だ。
そして部屋の中をうろうろしつつ、朝ごはんを食べたりもしたが、全く落ち着かない時間を過ごした。
こんなに1分1分が長いと思ったのは人生で初めてだ。
そして15時半。
30分もかからないけど、遅刻するぐらいなら早く着いていた方がいいだろうと思い俺は家を出た。
もうすぐ冬になろうというタイミングだから、もう暑くなく、涼しくて気持ちいい。
そんな空気の中を、俺は自転車で待ち合わせの公園に向かった。
そして高台からいつもの下り坂を降りていき、ふと公園を見ると、いつものベンチに西条さんが座ってた。
なんだって!
早くいかなければ!!
俺は自転車をこぐスピードを上げて急いで公園に向かた。
少し息を切らせながら、公園に着いたので入口に自転車を止めて、小走りで西条さんが座って本を読んでいるベンチに向かった。
「ご、ごめん! 待たせてしまって!」
と1メートルぐらいの距離で止まり話した。
西条さんはチラッと俺の方を見ると、
「…いえ、久しぶりにここで本を読もうと早く来ただけだから」
「あ、そうだったんだ!」
俺は安堵した。
「というか、こっち座ったら? あまり大きな声で話されるのは嫌なんだけど…」
とベンチの逆端のほう見て言った。
俺は言われた通りに、ベンチの逆端へ座ると、
「ほ、本が好きなんだね!」
と、とりあえず話題話題と思いながら言った。
「えぇ、私には本しかないから」
「そうなんだ」
「樫木君は私を見て何も思わないの?」
と彼女が聞いてくるので、
「えっと、綺麗な髪の毛だなぁって」
そう言うと彼女は少し俺に向けていた目線を下におろした。
でも、こころなしか耳が赤い。
「私がなんて呼ばれているか知らないの?」
「幽霊女ってやつ?」
「知ってるんじゃない」
「つい最近友達に好きな人ができたから、どうしたらいいか相談した時に特徴を話したら教えてくれたんだよ」
「そう…」
「でも綺麗な髪の毛だよねぇ」
「…どうも…。それを知っても樫木君は何も思わないの?」
「そうだね! 特には! 俺が西条さんのこと好きなのは別に変らないし!」
そう言うと彼女は沈黙してしまった…。
暫くすると、
「へ、変な人……」
「そうかなぁ、本を読んでる西条さん凄いなんかこう高貴な感じで、どこぞのお嬢様かと俺は思ってたんだけど?」
「しがないサラリーマンの娘よ」
「そ、そうなんだ…」
そうして再びの沈黙…。
まずい…。
「さ、西条さんは、好きな食べ物とか、ある?」
「…急ね…」
「ご、ごめん」
「これと言って特にこれっていうものはないけど、肉か魚かで言うと魚の方が好きだわ」
「おーそっか! そしたら今度さ、俺のとっておきのレストランみたいなところ一緒に行こうよ!」
と、俺が言うと、しばらくの沈黙の後、
「え、えぇ…機会があったらね……」
よーーし! これで次の予定を仮約束できた!!
「めっちゃうまいから期待してて! それこそ本で出てくるぐらい美味しいから!」
「…本に出てくるぐらいってのはちょっとわからないけど…」
「あ、ご、ごめん! 俺本とかあんまり読まないから、何となく伝わるかなーと思って」
と言うと、
「まぁなんとなくね」
と西条さんは言った。
「樫木くんはさ、なんで私なの? 見た感じかなりイケメンに見えるし、正直困らなそうだけど」
「んー、まぁそれよく言われんだけど、俺高校行かずにずっと働いてるから正直同年代と出会う機会ないんだよね。あ、後から言うのも嫌だから言っておくと、俺中卒なんだ」
と俺がトホホみたいな感じで言うと、西条さんはチラッとこちらを見ながら、
「そ、そうなんだ…」
「まぁ理由はあるんだけど、どうしても働かなくちゃいけなくなっちゃって」
「なるほど」
「だから、俺みたいな中卒の人間に話しかけられても迷惑しかかけないと思ってたからさ、遠くから見てるだけにしてたんだけど…」
「い、いえ、それはもう大丈夫よ。でも今時中卒なんているのね」
「それは俺も思う(笑)」
と俺は苦笑いしながら言った。
「でも、これからどうするの?」
と、西条さんに聞かれたので、
「西条さんと付き合いたい!!」
と言うと、
「えっと…そうじゃなくて、将来仕事とか…」
「あぁ、まぁ大変なんだろうけど、もうしょうがないからさ、今の仕事でもなんでも一生懸命頑張るしかないかなって!」
そう俺が片手にこぶしを握って言うと、
「そう、樫木君は強いね…」
「そうかなー? 自分じゃわからないけど」
「強いよ。私なんかとは大違い」
「そんなことない! 西条さんだってきっといっぱいいいところある! じゃないと好きになったりしない! まだあまり知らないけど……」
「…ふふ、そうだといいな」
と少し笑いながら西条さんは言った。
下を向いてるから笑い顔が見えなかった。
見たかったぁぁぁ!
「でも、本当に私なんかと付き合いたいの?」
と西条さんがチラッとこっちを見ながら聞いてきた。
「うん、正直、本当に。今日も朝6時に起きちゃうぐらいには好きだから」
と言うと、今度はしっかり耳まで赤くなって下を向いた。
「私こんなんだよ」
と西条さんは初めて顔をあげて、前髪を全て前におろした。
本当だー顎まである。
「長いねー。でも綺麗な髪の毛だねー」
「…樫木君本当変わってるね」
「いやいや、そうかな? でもいつもは耳にかけてるでしょ?」
「流石に本が読めないからね」
そう言うと樫木さんは片方の耳に前髪をかけた。
初めて真正面から西条さんの顔を見た。
まじで、幽霊女なんって言ってたやつらに言ってやりたい。
好き補正があるから、正確には分からないが、めちゃくちゃ美人だった。
「え、あ、うん…」
「どうかした?」
「あ、いや、すごい美人だなと…」
そう言うと、ほっぺたを赤くして、再び下を向いてしまった。
「樫木君は、なんでも真っ直ぐなんだね…」
「そうだね、うちの親がなんか困った感じだから、真っ当に生きよう! ってことだけは決めてるんだ」
「そうなんだ…」
「まぁ中卒って時点で真っ当ではないんだけどね…。だから、西条さんのことを好きだってのも本当だし、付き合いたいってのも本当だけど、無視してくれていいからさ」
「どうして?」
「だって中卒だよ?」
「そうみたいだね」
「中卒って絶滅危惧種だよ?」
「私も身近で初めて聞いた」
「だから本当は遠くから見ているだけでもよかったんだ。中卒ってわかっちゃうと遠ざけられるかもしれないから…」
「そういうことね」
「まぁ元々遠くから見てたんだけど(笑)」
俺がそう言うと、西条さんが、
「私、樫木君のことは何も知らないわ」
「そ、そうだね」
「小学はお化け女子、中学は貞子、高校は幽霊女で、近所では幽霊娘」
「そうだったんだ…」
「それに付き合うって言うことが何をすることかもわからない」
「それは俺も」
「友達だって今まで1人もいたことない」
「俺も仲いいのは1人だけだなぁ」
「そんな私でも、樫木君は私がいいの?」
「うん! 間違いなく! 俺は西条さんが好きなんだ!」
と言うと、しばらく沈黙して、
「いいよ」
「え??」
「付き合ってもいいよ」
「本当?」
「うん」
「まじで??」
「うん、でも私は樫木君のことを今好きとも何とも思ってない。嫌いとも思ってないけど…それでもいいの?」
「全然いい!!!!!! これから好きになってもらうから!」
「じゃぁ、これからよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!!!!!!!!!!!!」
その後少し西条さんと雑談して、その日は家に帰った。
ただ、もう最高の1日だった。
もう俺は明日死ぬのかもしれない…。
そんなことを思いながら、寝ようと思ったがその日は興奮して眠れなかった。




