眉目秀麗な中卒男子
新連載です。よろしくお願いいたします。
「おーい、次まで時間ないから急げよー」
「「ういーっす」」
俺は樫木律19歳。
父親は幼いころからおらず、どんな人なのかも知らない。
母親は俺が中学3年の終わりのころに、家に帰ると、「彼氏のところへ行く」と書かれた置手紙と50万円の入った封筒だけ置いて家を出ていった。
母親がなんの仕事をしていたのかも知らない。
ただ、普段から年の割に大胆な服装をしていて、夜にいないことが多く、朝方に帰ってくることもあったことから何か居酒屋とか夜系の仕事でもしているんだろうと思っていた。
中学3年で、残りの長い人生を生きていくために渡された50万円。
流石に中学生ともなれば、これはまずいということはすぐわかった。
しかし、公共の支援とかを調べてみたがよくわからず、とりあえず働くしかないと次の日から俺は、出来そうなアルバイトに片っ端から連絡した。
そうして、どうにか頼み込みみつけたのが今の運送屋の倉庫での仕事だ。
進学予定だった近くの高校には、家庭の都合で入学できなくなったことを伝えた。
「どうして入学できくなったのか」と理由を聞かれたが、「母親の都合で…」というと、「転勤ですかね。わかりました」と、割とあっさり言われた。
必要な書類があるということで、通う予定だった高校に書類を取りに行き、書けそうなことは書いて、明らかに不備になるだろうが書けなそうなところは書かずに、郵送で書類を送って、後はスルーするしかない。
それからは、毎日倉庫で働いた。
結構大きな倉庫で、事務の人も入れて常時15人ぐらいが働いている。
「律もう何年だっけかー」
と、次の積み荷を検品している倉庫長の横山さんが話しかけてきた。
「もう3年っすねー」
「しっかし、今やお前もこの倉庫じゃ中堅かー」
「そっすねー」
「しかし、お前が来てから事務のおばちゃんの定着率が良くなったわ」
「それはよかったっす」
「こんなむさ苦しいところで働いて、そんなにイケメンなら今の時代なら、あの動画配信とかもっとなんか稼ぐ方法あるだろうにー」
「いやー、中学でそんなん思いつかねっすよ。しかも、すぐにお金なくなりそうだったんで時間もなかったですし。それに拾ってくれたここには感謝してますからー」
と、俺は次の出荷の商品を追加で横山さんのところへ持って行く。
中学の頃は、正直結構モテた。
自分で言うのは何だが、今でもそこそこ顔立ちとかは整っている方ではあると思う。
中学では部活に入らなければならず、小学校からの友達と、とりあえずなんでもいいからと言って卓球部に入った。
悩むのが面倒くさく結構すぐに俺達は部活を決め入部した。
当初は、1年生は俺と友達以外に女子がもう1人。二年生が男女2人ずつで、三年生が男女1人ずつ。
まぁ卓球だしこんなもんだろうと思っていたが、俺が卓球部に入部したとわかると、あれよあれよと最終的に吹奏楽部なんじゃないかと思うぐらい女子部員のいる部活動になった。
中学生活では、卓球部員含めて何人もの女子に告白されたりもしたが、とうの俺はその頃は卓球一筋で、友達と一緒に結構ガチ目に頑張っていて、今は考えられないからと全てお断りした。
今思えば、あの頃に彼女の一人ぐらい作りたかった。
あの頃しかそんな余裕はなかった。
しかし、そんなガチ目に頑張った卓球も、最終結果は県大会出場止まり。
そこであっけなく俺の卓球人生は幕を閉じ部活にも行かなくなった。
そしてもうすぐ卒業と言うときに起こった母親の失踪。
生きるということを否応なく考えさせられた。
「そうかよ。ほれこれ終わったぞ」
と、横山さんに言われ、その商品を出荷場所へと運ぶ。
俺がこの3年以上送り続けてきたルーティン。
給料がめちゃくちゃいいとは言えないが、俺の事情も理解してくれているから、かなり多めにシフトをいれてくれる。
入れ替わりの激しい、倉庫作業においてはもう中堅レベルで新人で入ってくる年上の人を教えることもある。
特段趣味なんかもなく、家と倉庫を往復しているだけなので、ここ2年ぐらいは貯金も少しずつできてきている。
「んじゃおれ上がりなんで今日は失礼しやーす」
「おうよー、明日早朝からわりーけどよろしくなー」
「問題ねーっす。おつかれっすー」
そう言うと、俺は作業場所を後にし、事務所に移動した。
すると事務員の御園さんが、
「律君今日これであがりでしょー? はいこれ、おすそ分け―」
とスーパーの袋を渡してきた。
中を見ると、透明のパックに唐揚げが入ってる。
「いつもすんません」
「いいのよいいのよ~! 律君がいてくれるおかげでこのむさ苦しい倉庫に華があるからー(笑)」
「あざっす」
そういうと、俺は事務所に置いてあるタブレット端末で退勤処理をした。
かつての卓球王子も、今では事務所のおばちゃんのアイドルだ。
御園さんは、ずっと古くからこの倉庫で事務員をしてくれている人で、俺のことも入ってすぐから知っており、事情も知っているのでこうやって時々ご飯のおかずを持ってきてくれる。
最近では自分で料理する余裕も出てきたから大丈夫だが、正直当初は死ぬほど助かった。
そうして俺は事務所を出ると、外は夕方だった。




