彫刻家の家庭を見学しに行きました。
さーて、今回はどの家に遊びに行こうかなあー。
○○○
彫刻家の私は結婚して十年。早めの結婚だったが、気がつくと周りの友達も結婚をしていた。
それはいい。問題は子供だ。これほどまでにほしいのにーー他の友達はできているのにーー私にはできなかった。
夫と二人、買い物中に出会ったのは一匹の犬。黒色の小さめ。胴長で短足なところはどことなく自分に似ている。うるうるとした瞳も自分にそっくりなのかもしれない。
こう言ってはなんだが、自分の顔だけには自信があった。
「かわいい! ねえ、あなた。この子飼いましょうよ」
夫は渋々だが了解してくれた。
自分の子供のように育てて一年。自分には子供ができなかったけれども、この子には子供を生ませてあげたかった。だから、避妊の手術は断った。
それから数日、近所の犬と相性が良かったらしくーーついに子犬を授かった。
「ねえ見て。本当に吸ってるね。かわいい」
「ん、ああ」
この頃、夫はなぜかそっけない。前までは不思議なほど優しかったのに。
子犬に手を出した瞬間ーー手を噛まれた。あの子に。私たちが育てたあの子に。歯を剥き出してまるで鬼のようだった。
その瞬間からその子は自分達の子供からただの黒犬になった。
黒犬がこちらを見ながら授乳している。当てつけだーーそういう風に感じた。
ーー子供が欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
どうして私には子供ができないの? 神様。
毎日毎日、繰り返される授乳に辟易した。
ーーお前にはできないだろ。
黒犬がそう言った。確かに言ったのだ。それからはもう記憶がない。
気がつくと暗い部屋でソファに腰かけていた。
どれほどの時間が経っただろう。
ガチャリとドアが開く。
「お帰りなさい」
夫が帰ってきたようだ。
「どうした? 暗いじゃないか」
カチリとスイッチを入れた音。
一瞬の眩しさのあとで、机に並んでいるものに気がついた。
机から彫刻刀が生えていて、持ち手からは子犬が三匹咲いていた。流れる血は褐色で固まっている。
三匹の子犬が一本の彫刻刀で串刺しにされていた。
笑い声が聞こえる。
男の。
「あはははっ、傑作だ。これで君と別れられる。君は異常だよ。顔が良いだけだ。はっきり言ってイカれている。それにね、俺にはもう愛する人がいるんだ。君じゃなくね。しかもーー」
子供ができた。その子犬と同じ日に。
また、記憶がとんだ。
夜が明けると、この世のものとは思えないほど美しい彫刻が置いてあった。
男が血塗れの黒犬を産んでいる。あり得ない性別が、別種の生き物を産んでいた。
ーー美しい……。
思わずため息が出た。
○○○
子供うんぬんじゃないよ。君はどうやったってどうしようもない人間なんだ。歯車をかけ変えても、結局ここにたどり着いていたよ