澄義と焔
『桜火国』澄義の家。
「どうぞ。お茶です」
「澄義」
「はい」
「私はおまえと結婚するつもりもない」
「はい」
「付き合うつもりもない」
「はい」
「旅を止めるつもりもない」
「そうでしょうね」
「誰も居ない処で死ぬだろう」
「いいえ。雪ちゃんがあなたを独りでは決して死なせませんよ」
「おまえ。雪那と結婚しろ」
「………はい?」
「おまえは私が好きだ。加えて、雪那の支えになれるのはおまえだけだろう」
「あなたが突拍子もない発言をするのには慣れていたはずなんですけどねえ」
「雪那も好きだろう」
「好きですけど。あなたへの想いと違うと分かっているはずでしょうに」
「だが、雪那に支えが必要だとも分かっている」
「武兵が居ますよ」
「あの坊ちゃんは重荷にしかならん」
「私。お酒をあげましたっけ」
「らしくない。と思っているんだろう」
「ですねえ」
「あいつは『桜火国』に留まって、しかも熒の傍に居ると決めたな」
「はい」
「隊長として表に出る事はない」
「はい」
「ひびの入る跳ね返ししかできん。私と違ってな」
「柔軟性がないんですよね、雪ちゃん。あちこち旅をしていたみたいですし。武兵と紗綾ちゃんと会って、日々を重ねて行けばと思っていたのですが。どうしてでしょうね。昔よりも危うく見えるのは」
「熒を守る。坊ちゃんたちに勝つ。私には負けたくない。あいつは気楽に考えられんのか?瓦解する日が私の死より早いかもしれんぞ」
「苛立ってます?」
「ああ」
「焔様は本当に雪ちゃんがお気に入りですよね」
「妬くな」
「妬きますよ。少しは私の事を考えてくださるのかって期待したのに」
「熒の見合いと仁科の結婚話を聞いたからな。おまえも私を待つのは止めて結婚すれば良いと思ったんだがな。私が変わるなんぞ一切期待してないんだろう」
「結婚と交際は期待していませんけど。お互い独り身で、熒様と雪ちゃんの後に会いに来る間柄は継続できると思っています」
「おまえも莫迦だな」
「溜息つかないでください」
「分かった。結婚しろとの発言は取り下げるが。支えにはなってやれ」
「言われなくても」
「澄義」
「はい」
「おまえが雪那と共に死に際に駆けつけて来たら殺す」
「私は、お待ちしていますよ。『桜火国』で」