武兵と紗綾
紗綾の家にて。
「ねえ、武兵。雪那に何て言ったの?」
「俺と結婚してくれ」
「濁さなかったんだ」
「色々ぐるぐるぐるぐる考えて、あれこれこねくり回して。けどやっぱ。言いたいなって思ったんだよ。まあ、予想通り振られちまったけど」
「いっぱい泣いて良いよ」
「おう。遠慮なく泣かせてもらって、帰るわ」
「武兵」
「おう」
「雪那ね。私たちが好きだって。いとおしいって言ってくれた」
「おう」
「私たちの家だって。言ってくれた」
「おう」
「死ぬ時は老衰で、私たちが傍に居るって。言ってくれた」
「おう」
「結婚しなくても、ただいまって言える。お帰りって言える」
「おう」
「武兵」
「おう」
「私たち、もう、庇護されるだけの存在じゃなくなったんだよね?」
「………どーだろうな。もしかしたら、雪那にとって俺たちはずっと、その対象なのかもしれねえし」
「………うん」
「まあ、けど。それだけの存在のまま居座るつもりはさらさらない」
「うん」
「でも俺たちがどれだけ一緒に居ようがあいつの意識は変わらないままかもしれない」
「うん」
「でも変わらなくたって。俺たちがどれだけ歯痒い想いをしたって。時々悲しくなったって、怒りたくなったって、寂しくなったって。俺たちは雪那の傍に居る」
「うん」
「俺は雪那と結婚したい」
「うん」
「俺は雪那がほしい。全部まるごと」
「うん」
「諦めない」
「うん。何時でも泣きに来て良いよ」
「おう。んじゃあ、帰るわ。紗綾。ありがとうな。愛している」
「私も。ありがとう。愛しているよ」
(2021.11.3)