断罪ショー
第9章
サンは町に出ると、一つ一つお店の状況などを調べる。
自分の欲しい物は、確実に手にいれてから、のんびりと町を散策する。きっと、王都では庶民は気軽に店に入る事もままならない。
しかし、この領土は違う、お父さんが初めに挨拶して周り、仕入れの店を決めて食材や色々な物を配達する様に道しるべを作ってくれている。
その時にサンも同行しているので、お店の人達とは顔見知りになった。強い味方だ。
「サン、今日は立派なソリを持って買い物かい?」
「はい、大きな物も買えるようにソリで運ぶつもりです」
「今日はきっと停電になるかもよ。雲があの辺にかかるといつも停電だ。持ち運べるランプが必要になる。持っているかい?」
「いいえ、おじさん、ランプはどこで売っていますか?」
「向かいのあの店だ。今日は繁盛しているだろう?」
「ありがとう」
サンはさっそく携帯のランプを購入した。ソリに箱を付けたのは、屋敷用の為の買い物が汚れないように配慮して、自分用の買い物は、どうにでもなるが、屋敷、ベル家やクリスタル家の物を汚すと、両親が叱られるかも知れないと思い、箱の中に必ず入れる。
王都の屋敷は部屋に厨房がなかった。
いつも、ダクリック達の食事が終わると、お母さんは食事を運んでくれた。子供の頃から小さい部屋で家族3人で少し冷めた食事を取るのが当たり前だったが、このバラン領の部屋は違う。
小さい台所があって、両親の部屋と広いリビング、そしてサンの部屋も用意されていた。2LDKのマンションの様に快適だった。
「今日はアサリがあったから、クラムチャウダーにして、明日の朝はそれをパンにかけて、チーズをのせてオーブンで焼こう。2日前から牛肉は煮込んである。帰ったら少し味見をして、お母さんが卵を使っていいって、言っていたので、シュークリームに今日こそ挑戦だ!
サンは買い物から帰り、手を洗い、部屋の片づけをして、料理に取り掛かる。今日は大急ぎでやらないと停電になるかも知れないから・・・。手慣れた手つきで保存食も作っている。少しでもお母さんの力になりたい為に、ピクルス等も豊富にある。
「貴族の人達・・・1皇子とかは何を召し上がっているのかしら?お母さんはサンが作るの物は飛び切り美味しいと褒めてくれるけど・・・ふっ、お母さんは親ばかだから・・・ふふふ・・・♪♪」
「2日前に、安い牛肉を赤ワインで煮込んだけど、うん!自分で言うのもなんだけど、おいしい・・」
「シュークリームもできあがって、ダクリックの仕事を始めよう」
買って来たランプに油を丁寧に注ぎ、近くにはマッチも用意した。
サンは、紅茶とカスタードを詰めたシュークリームをテーブルに置き、王都への売り上げの集計に入る。
国王からの支援の要請は、まだ入っていない、しかし、ある程度の物資は王都の近くまですでに運んでいる。
本当に非常事態になった場合は、流石のダクリックも援助するつもりなのが、伝票を見ただけでわかる。
ダクリックからは集計だけで良いと言われているが、学校で習った地図に、今、何が王都に移動しているかを付箋を貼ってわかるようにしている。
その付箋には、物量もわかるように単位も記入したある。
シュークリームをパクリと食べる。
(ああ・・、美味しい。。。天国)
糖分をエネルギーに変える為に、外に出て行った。外は、夕方になってより一層、寒くなったので、帰って来てから作ったバケツ氷にロウソクを立てに出た。
お父さんとお母さんは、夕方は忙しいから、もしも停電した場合はこのバケツ氷に火を灯して、屋敷で役立てたいと、思っていた。
鼻と耳が取れそうで、もう限界だと思った時に停電が発生した。
「あのおじさん、スゴイ、天気予報士なのかしら‥本当に停電した。この世界に来て初めてだ!」
その時、屋敷の中は大騒ぎ、王都で暮らしている人達も、初めての停電だった。誰もが狼狽えた瞬間に、窓の外で、小さな灯が灯り始めた。サンが氷のバケツに火を灯して歩いていった。
「キレイ、真っ暗な中に小さな光が・・・うっ!寒い、部屋に戻って、食事をしよう!」
サンはロウソクを頼りに部屋に戻り、ランプに火を灯し、部屋に用意したロウソクにも火を点け、クラムチャウダーを皿に盛りつけ、暖炉でパンをあぶり、ピクルスを頬張りながら暖炉の前で食事をしていると、ダクリックがスゴイ形相でやって来た。
「お前・・・今日の停電、どうやって知った?」
「え??魚介を売っているおじさんが、今日は停電になる雲が出ているから・・と、教えてくれました」
「今すぐ、サロンに来い」
サロンに着くと、すべての人たちが一同に集まっていた。暖房は暖炉があるので寒そうにはしていないが、皆の目がサンの持っている小さいランプに集中しているのがわかった。
「彼らの家には、ロウソクもランプもない。あるのは暖炉の火だけだ。事前に知った情報は共有しないと、駄目な事がわからなかったのか?」
「すいません・・・本当の事か、わからなかったので・・・自分だけが信じて、皆さんにお伝えすることを思いつきませんでした。---ごめんなさい」
サンは大粒の涙を流し、隣には一緒に涙を流して、謝るカバック夫妻がいた。
1皇子が、
「町の魚介店の親父が、今日は停電になると言って、それを私に報告する部下は、きっといないと思う。それでも、もしもの事があるかも知れないと思って、寒い中、外で火を灯してくれたサンを泣かせる程、叱るのはどうだろう・・・・」
「1皇子・・・」
1時間前、停電になり、どの家も大騒ぎになった。
しかし、外を見ると、ダクリックの屋敷の庭だけにはきれいに明かりが揺れていた。
1皇子は、数名の部下とセイサを連れて、屋敷に怒鳴り込んで来た。
「どうして、事前に停電の事を知らせない!セイサがどれ程、怖がったかわかるか! 」
その頃、この屋敷でも停電の事を調べている最中で、ダクリックが外に出て、美しく並べられたその光を見た時に、サンを思いついた。その後、ベル家、クリスタル家も屋敷の明かりを頼りにやって来た。
そして、ダクリックによる断罪ショー・・・。
サブスネ、シルベラル、セイサは泣き出し、エリザは女の子の傍により、ダクリックに話す。
「もう、この話はおしまいにしましょう。まだ食事をしていなから余計に苛立ちます。グ~~」
ベル家のエリザは頭が良くて、腕も立つが、料理に於いては全然ダメだった。バサン領に入ってからは、本当に酷い食事と言っていい、クリスタル家も、今日はまだ食事てしいない、勿論、1皇子の人達もだ。
マリは停電騒ぎと断罪ショーで、今でも震えている。
すべての人達はお腹が空いて、ダクリックを見ていた。ダクリックは憎々しく、サンを見る。
サンは、
「お詫びになるかわかりませんが、私の部屋で皆さんに食事をしていただきたいです」と小さい泣き声で話す。
エリザは一番に反応して、
「じゃ、せっかくなので、サンの申し出を受け入れましょう。そして、この話はお終いにしましょう」
女の子たちは皆で、サンを支え、エリザは、キャンベラルに目配せをして、ダクリックも同行させる。
部屋は予想通りの暖かい雰囲気の部屋で、すでにロウソクが灯され、明るかった。
カバック夫妻は大急ぎで食事の用意をして、サンは仕方がないので、牛肉のワイン煮を男性に、クラムチャウダーを女性に、パンの他にはクレソンのサラダ、とっておきのピクルスをだして、デザートにはシュークリームまで振舞った。
(ダクリック!!覚えてろ~~! )
勿論、貴族は、食事中には話をしない。最後のコーヒーが配られた時に、キャンベラルが、
「この部屋は異世界のレストランかと思った。美味しずぎる。ベル家だからではないよね。父さん?」
「ああ、本当に美味しい。王都でもこんなに美味しい牛肉は、ないのでは?」