2皇子
第6章
王都に激震が走ったその年
ダクリックの両親が処刑され、ダクリックも王宮に閉じ込められていた。
その時、先王は迷いを断ち切れずにいた。この少年も処刑するべきではないのか?と・・・。
ダクリックの父、ダル侯爵が犯した罪は重く、多くの国民の命を犠牲にした。しかし、彼の言葉を鵜呑みにしていた自分にも、責任が無い訳でもない。
そして、この災害を軽視していたのも確かな事だった。
「国王、ダル侯爵のご子息はいかがなさいますか?」
先王は両親が処刑されても、泣きもしない黒髪の少年を見て考えていた。
王家に伝わる古文書には『黒髪は聖人の証』と記載があるが、その後の角ばった文字はどんな学者さえも解読ができていない。
「まだ、2歳で、何もわからない子供だ。ダル侯爵夫婦の欺瞞は、夫婦一族に責任を取らせ、私財、領地、爵位、すべての物を没収とし、子息ダクリックは3年、王宮にて、幽閉とする」
それから、ダクリックは、先代からずっとダル家に仕えている、家令のがガルモと2人で、王宮の中での生活が始まった。
先王も決して、悪い人間ではなかった、幽閉と言っても王宮から出る事、外部の人間との接触を禁止しただけで、王宮の中は自由に移動することを許していた。
この3年で、家令のガルモは、ダクリックに、ありとあらゆる教育を、授けさせる事が出来たのは、この王宮の生活があっての事だった。さすがに、自分一人では限界があったが、王宮には莫大な書庫と最高の教育機関があった。
そして、ダクリックは知識に対しては貪欲で、朝から晩まで勉強していた。
ダクリック達にとって、予想外なのは王宮の中でキャンベラルと知り合った事だった。
キャンベラルとは王宮の庭園で出会った。迷子だ・・・。
当時、キャンベラルは田舎の領地から王都に出て来たばかりで、王都、王宮、貴族社会にも不慣れで、惨めな存在だった。
「え~~~~ん! 帰りたい。お家に帰る! 」と言って、座り込み泣いていた。
外部の人との接触を禁止されていたので、見ない振りして立ち去ろうとすると、その少年は、ダクリックの足を掴んで離さない。その勢いで、ダクリックも転んで、鼻血が出た。
ダクリックはカンカンに怒って、振り払おうとしたが、意外にキャンベラルの力は強く、苦戦していると、ガルモが急いで駆け付けてきた。
ガルモが、キャンベラルとダクリックの世話をしている時に、2皇子のバードコンに見つかり、3人はバードコンの部屋に呼ばれて、事情を聞かれた。
「2皇子、彼を領土に返してあげて下さい。彼には王都での生活は向いていません」
「君が他人に興味を示すなんて、珍しいね。それに・・鼻血・・ふふふふ・・」
「・・・・・・」
それがきっと決め手となって、キャンベラルと2皇子との交流の許可が下りた。
キャンベラルは王宮幼稚園に登園して、辛くなると、ダクリックを探した。
ダクリックにとっても、初めての友達と言えた。仕方がないので、勉強をみたり、ゲームをしたりして、キャンベラルの相手をしていた。そして、その輪に10歳年上の2皇子が加わったのは自然な事だった。
幽閉されて、2年が過ぎた頃、先王の容態が著しく悪化して行った。
1皇子と2皇子、王女は母親が違う。何故か、王妃たちはすでに死亡していた。王室には二人の皇子と一人の王女、そして、1皇子の王妃と娘の王女しかいなかった。
「国王の命は短いのかね・・・?」と2皇子が窓を見ながらダクリックに聞いた。
「はい、後1ケ月だと思います」
2皇子は振り返り、ダクリックを見ていた。
この子供を信じているようで、そして、質問も続ける。
「その後は兄上が国王に即位し、この国の未来がわかるのなら教えて欲しい」
「・・・・・・」
ダクリックが返答するまでには長い時間がかかった。
「2皇子、私はこれからの生活は占いで生きて行く予定です。これ以上の未来をお聞きになりたいのであれば、料金が発生します。私にとって、占いは生きる糧です」
先程の驚きよりも、より一層、驚き、怒り、その場での退出を言いつけた。
「出て行け!! 顔も見たくない! 」
それから、半月後、2皇子の部屋に呼ばれたダクリック。
「先日、国王と少し話をすることが出来た。これは、ダリ家の屋敷の権利書だ。敷地の半分はすでに、財部によって、売却されていて、屋敷と少しの庭園、車止めなどを君の名義に戻してあった。勿論、それを行ったのは父上だ。君の将来に投資したとおしゃっていた。これで、この先の予定を父上と私に話して欲しい」
「国王はご病気が・・・、2皇子だけでは駄目でしょうか?」
2皇子は長い間考えて、もう一度、国王の部屋を訪ねた。
そして、2皇子が帰って来て、
「父上は昏睡状態に入った。残念だよ。未来の話を聞けないなんて、僕だけが聞こう」
ダクリックは静かに話し始める。
「今後、国王が病死されても、1皇子はきっと王座に就けないと思います。次期国王はあなたです。バードコン皇子」
「どうして?」
「1皇子は現在、不貞を行っています。その愛人がそれを許さないのです」
「??????」
「---1皇子は性生活に不向きなお人です」
「それって、・・・不能って、こと?」
「はい、それは後天的なもので、あなたのお母様の仕業だと占いでは出ています」
「ちょっと、待って、だって、彼には娘がいるけど・・・?」
「え~~~~~! 」
「その愛人は、世継ぎのいない1皇子が国王になることを忌み嫌います。どういう理由かわかりませんが、世間にその事を話し、現王妃も保身のために涙ながらに事実だと認めます。王女誕生の後から、駄目だったと・・・・」
「・・・・じゃ、あの可愛い姪は??誰の子供なの?」
「・・・世の中にはそういう事は多々あります」
「え!! え!! 君・・・・自分のこと・・・え~~~~!!! 怖い!大人の世界!怖すぎる」
「え!! その後はどうなるの?1皇子が可哀そうすぎるけど・・・?」
「あなたならどうしますか?国中の人々が、自分が不能だと知っていたら?」
「---外国に逃げる?」
ダクリックはただ頷いた。
「その後は、どうなるの?ちょっと、待って、聞くのが怖くなって来た。心を静めるから少し時間をくれ・・・・」
2皇子は部屋の中をクルクル回って、ブツブツ言いながら心を静めている。
「2皇子、これ以上の占いの結果をお知りになりたい場合は、別途、料金が発生します」
2皇子は悪魔を見る様にダクリックを見て、
「ダクリッ~~~~ク!! 」と叫んだ。
二人の間に窒息しそうな時間が流れ、最初に口を開いたのはダクリックだった。
ダクリックは襟を正し、敬意を払い、2皇子に一礼をした。
「2皇子、これまで、この王宮で私たちに親切にして下さって、ありがとうございます。私はあと数か月で、幽閉が終わります。今日、2皇子にお会いして、ご挨拶できたことを、良かったと思っています。この3年、沢山の事をこの王宮で学びました。本当に国王に感謝しています。私を殺さないでくれた事にも感謝しかありません。ここで、一つだけ、国王の為にオフレコで話をさせて頂きます」
「国王はご兄弟3人共、平等に愛しておられました。だから、あなたの母上のした事を、許せなかったのでしょう。いつも、1皇子にはすまない気持ちで一杯でした。その気持ちを汲んであげて下さい」
「国王は知っていたの?」
「はい、ご存じでした。1皇子を外国に追いやる事は私は望みません。これから2週間あります。どうか、どうか、国王のお気持ちを大切にしてあげて下さい。失礼します」
その後、王室の聞き苦しい話は外に出ることは無かった。
即位したのは2皇子で、理由は1皇子の健康上の理由だった。