半年は戻らない。
第5章
「どういう事だ?」
「父上と母上との話を、少しづつすり合わせて出た結論だ。多分、国王が望まれているのは、俺からのお前の情報だと、母上がおっしゃった。それなのに、父上はちっとも国王の気持ちを察しない。俺に於いては、お前と連絡さえ取っていなかった。だから、理由のわからない罪で、父上は財産、爵位、領地を失った。あの国王の事だ、母上の懐具合も承知で、父上の貴族社会への嫌悪もご存じだったに違いない」
「お前・・・能無しではなかったんだな?」
「勿論、母上の見解だ」
「・・・・・・」
「でも、俺、特Aの授業しか履修していないから、会う事もないな」
「それなら大丈夫だ。毎日、昼にここで待っている。ね!! 君たちも良かったらどうそ~~」
「・・・・・・」
「サブスネ、午後の授業に行きましょう」とサンは声をかけてそそくさと立ち去った。
「じゃ、これで」とダクリックも立ち去り。キャンベラルはその場に残されていた。ひゅう~~。
「ねぇ、サン、サンのご両親は、本当にダル家の使用人なの?先程、ダクリック様がおっしゃっていた通り、この学校の授業料って、本当に高いらしいわよ。貴族学校レベルに・・・」
「うん、そうみたいだけど・・・ダル家の屋敷って結構な広さなのね。でも、現在の使用人は家令と両親だけで・・・だから、10人分の給金を二人は貰っていると思う」
「え~~~~~!! スゴイ、特別な使用人?なの?」
(現代で言ったら、ブラック企業に勤めるスーパー家政婦)
「そうでしょうね。ダクリックはどんどん使用人をクビにして、両親の負担が大きくなる一方よ」
「サブスネのお家は、お医者さんだから、きっとお金持ちでしょう?学費の心配もなくて羨ましい」
「そんな事はないと思うけど、私の家はお父さんと二人だけで、王都でも外れの立地だからそんなには儲からないの・・・通いの使用人が二人で、お父さんがいつもご飯を作ってくれて、本当は私もお手伝いしたいのだけど、勉強が大変で・・・」
「だから、サブスネはお医者さんになりたいんだね」
「うん、でも、サンは本当に薬師になりたいの?」
「そうだけど?」
「お父さんが言っていたけど、この年で数式学のテストで合格点を貰えるなら簡単に医者になれるって、サンの頭の良さが羨ましいよ」
「サブスネ・・お医者さんって、本当に大変な仕事だよ。患者さんから病気を貰ったりするし、気が休めないと思う。私はなりたい職業は薬師だけど、沢山、お金を貰えるのなら、違う職業でもいいの、でもいくら高給でも、医者や看護婦は本当になりたくない」
「そうなんだ・・・薬師になって何かやりたい事がある?」
「うん、両親に家を買ってあげて、楽をさせたい。後、甘い子供用の薬を作りたい。本当に苦いよね。薬って!」
サブスネは真剣に答えるサンを見て、「ふふふふ・・」と笑った。
ダクリックとキャンベラルは幼少期からの友達だと本当にわかる。あのダクリックがお昼の時間になると、キチンと食堂のあの席にやって来る。
その姿を見る為に、サンとサブスネもいつの間にか、食堂に集まるようになった。
サンは特A数式学が合格点だったので、特別に前回まで受けていた他の教科もダクリックと一緒に受けられる。しかし・・・キャンベラルはまだC止まりで、四苦八苦している。貴族学校って、勉強しないのかしら?と、疑問が湧いた。
その時、ダクリックが、
「貴族学校は出席に日数が足りていれば、卒業可能だ。その後は王都と領地でブラブラすればいい」
キャンベラルは立ち上がり、
「自慢じゃなけど、母上は貴族学校でも優秀生で表彰された事だってあるんだからな!」
「ああ、だから、お前は伯爵似だ」
「ダクリック! 」
しかし、この時間、キャンベラルに付き合って、サンとサブスネは、Cクラスの教科書の勉強ができるので、昼食は食べやすい形の物を、お母さんにお願いして作ってもらっている。
例えば、サンドイッチはクルクル巻いてもらったり、ホットドックスタイル、副菜はすべて小さい形にお願いした。
それでも、一度、フォークでキャンベラルさんの教科書をめくってしまい、ダクリックに叱られた。
「食べるか、勉強するかどちらかにしろ! 」
「はい、すいません」
「こういう時は、本当に主従関係だとわかるな・・・。こんなに可愛らしいサンに、恐ろしく厳しい」
「ウウン(咳)---そういえば、キャンベラルには妹がいただろう?どうした?」
「え?気にしてくれるの?実は2歳下に妹がいるのだけど、・・・・入学の段階で試験に落ちた。きっと、父上に似たんだ・・・・」
「もうすぐ長い冬休みに入るが、ダクリックはどっか旅行にでも行くの?冬休みの間も、皆で勉強したいよな!! 」
「・・・・・・」
「冬休みに入ったら、半年は王都には帰らない、祖母の方の狭い領地を購入した。そちらに向かう」
「領地って、買えるの?」
「ああ、祖母の方は後継ぎに恵まれなかったし、最後に残った男子は僕一人で、その地はひっ迫していたので、多少の現金を注入した」
「国王に告げるなら、密告は許可しよう。それと、サブスネ、出来たら、君とお父様にも同行して欲しい。場所の詳細は、出発が確約が出来た時に、家令が届けさせる」
ダクリックは自分が言いたい事を言って、さっさと席を立ち、残された3人は茫然としたままその場に残った。
3人はドキドキが止まらない。
「ダクリック様は貴族に戻られるの?」
「イヤ、それは無いと思う。今の国王はダクリックに侯爵でも伯爵でも与えるつもりだった。しかし、彼は頑なに断っていた。ダクリックが断り続けるから、貴族たちは、みんな疑心暗鬼に囚われ、父上の様にワケがわからず、爵位を失う。そして、今では、本当は爵位を失った方が今後の為なのではないかと、また疑い出す」
「あ~~~~、母上に相談しないと、今日は早退するので、お先に失礼するよ」
「サン、私もお父様にこの事を話します。お先に失礼します」
二人は鞄を抱え、わき目も触れずに、外に向かって駆けて行った。
「ええ・・・」サンは帰る事は出来なかったので、午後も平常通りに受けて、車に揺られて、不覚にも眠ってしまった。小さい体には本当に限界がある!!
(本当は起きていたいと、いつも思う。)
そして、目が覚めた時には、白銀の世界。
「え?ここ何処?」
「お母さん、お父さん、え~~~ん! 」
「泣くな! うるさい! カバック夫妻はすでに到着している」
その雪の中の屋敷に入り、両親を見た時に、思わず本気で泣いてしまった。本当に失うのが怖かった。抱き着いたまま抗議した。
「え~~ん、もう、会えないのかと思って怖かった。どうして言ってくれなかったの! 起きたら自分の部屋じゃなかったからすっごく不安だった。お父さん、お母さん、おいて行かないで・・」
マリも泣きながら、サンをなだめる。
「ごめんなさい。私たちも今朝、聞いて、急いで用意をして、出発したの。坊ちゃんがあなたを連れて来てくれると思っていたから安心して、本当にごめんね。泣かないで、ほら、温まりましょう」
サンはまだ体をヒクヒクさせて、抗議していた。(甘えていた?)
「サン、今日の夜中には、ベル家、クリスタル家も到着する予定だ。お前のその姿見て、きっと、引くだろうな・・甘えん坊で・・・」
ダクリック!! 私はまだ若干6歳なんだ! 甘えて当然だ!
それにしてもあの二人の家族、決断が速い。
その頃、王宮では、
「国王! ダル家、ベル家、クリスタル家が、夕方、王都門を通過して、どこかに向かわれました」
「何処かって・・・・どこ!! そこまで調べてから、報告するのがあなた達の役目では?」
「しかし、外は今、ものすごい勢いで雪が降り初めまして・・・・。追跡不可能と思われます」
国王は報告を聞いて、立ち上がり、怒りを爆発させて、叫んだ!
「ダクリック!!! 」