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千代の仕事

「いいよ〜、素晴らしい!」

 パシャパシャと写真を撮っているおっさんが、周りの静かな空気を壊すかの如く、ハイテンションでそんなことを言っている。

「いいね〜!じゃあ次のポーズ行ってみよう!」

 白い背景に、直視できないほどの照明が三方向から照っている。

 その真ん中にいるのが、俺の妹の千代だ。

「ハイオッケーい!いやー千代ちゃんの撮影はスムーズに行き過ぎて怖いね〜」

「ありがとうございました〜」

 そう言うと千代はステージから降りてきた。

「お疲れ、千代」

「どう?可愛く写ってた?」

「さあな」

 俺は分かっている。

 千代はそんなこと聞かなくても、自分が可愛く、完璧に撮影されたと知っていることを。

 千代は幼い頃から、他人の目を気にしていた。

 自分の発言、行動、振る舞いで相手がどんなふうに感じるのかをいつも気にしていた。

 だからこそ、誰にもでも好かれ、愛され、可愛がられる見た目と性格を演じられる。

「日向さん、日向京介さん」

 誰かが俺を呼んでいる。

 振り向くと、低身長で小太りのスーツを着たおじさんが、不気味な笑顔でこっちを見ていた。

「はい、なんでしょう?」

「わたくし、斉藤と申します。いま撮影が行われている雑誌のインタビューの方を担当していまして」

「あ、よろしくお願いします。それで・・・」

「今回の表紙を務める千代さんに、いくつか質問がありまして、このアンケート用紙に記入をお願いしたいのですが」

「ええ、わかりました」

「すぐにでなくて結構ですので、記入でき次第、メールかFAXで送ってください」

「承知しました。今後ともよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ」

 そう言っておじさんは小走りで去っていった。

「あの人気雑誌の表紙になるなんて、うちの妹は有名になったもんだな~」

「何一人で話してるの?」

 いつの間にか後ろに千代がいた。

「まったく、俺の妹は優秀だぜ」

 ふわふわの金髪を両手でもしゃもしゃと触ってやったが、全く嫌がるそぶりを見せない千代。

「それはそうと、早く次の現場行かないと」

「あ、ああ、そうだな」

 何か一人ではしゃいでた自分が恥ずかしい。

 二人で駐車場まで歩いていき、黒いワゴン車に乗り込む。

「えーっと、次の現場は~」

 カーナビを左手で操作しながら、右手でスマホ画面を操作する。

 俺は18歳になってすぐ、免許を取った。

 仕事上、免許は必須だったし、こんなにかわいい子たちを電車やバスなんかに乗せられない。

「あ、お姉ちゃんからメッセージだ」

「ん、景が? 何だって?」

「えーと、帰宅途中、ファンの人に見つかって人だかりができちゃったから帰れない、だって」

「全くあいつは・・・」

 景はいつもどこか不安で、抜けている部分がある。

「あれだけ気を付けるように言っているのに。それで、今どこにいるって?」

「ん~、駅の近くのお寿司屋さんのトイレにいるって」

「なぜ」

「面白いね、お姉ちゃん」

 ほんとにな。

「仕方ない、途中で拾っていくか」

「ほーい」

 女優の日向景はあんなにも美しく、クールでかっこいいのに、女子高生としての日向景は・・


 そうして俺と千代は、お寿司屋のトイレに向かうのであった。

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