第74話 報告会
「またですか……」
ここは、日本の地方にあるビルの一室。
例のダンジョンでの借金返済を支援している、『返済会』なる組織の入っているオフィスだ。そのオフィスの会議室で、五人の男女が会議という名の報告会をしていた。
『返済会』とは、異世界のダンジョンと地球を行き来し、さらに異世界と地球とで貿易も行っている謎の組織だ。
もちろん、本来の名は違うがここの様に借金返済を目的とする場合は『返済会』という名を名乗っている。
この会社、結構地球規模で大きいのだがCEOをはじめ、会社のトップが誰なのか知るものは少ない。
そして、ここに集まった五人もまたこの組織のトップを知らないのだ……。
「神崎課長、ここ数年で日本人の犯罪が増えています。
もちろんほかの国の人間の犯罪もありますが、特に日本人が酷いと……」
「日本じゃないなら、特にファンタジー世界なら何しても許されるって勘違いした連中じゃないの?」
「そうかもな……」
ショートの髪型をし、薄い水色のスーツを着た女性が報告書を読み表情を曇らせる。そして、それを横で聞いていた白いスーツの女性が、呆れていた。
「神崎課長、ダンジョンへの人数を減らしてはどうです?
それと、もう少しこちらで認識を改めさせるとか……」
「無理よ、大内君。
来るもの拒まずで興味があるならだれでも送るように言われているのよ。
それに、向こうも人員は多い方がいいとか言ってるしね」
中央に座る神崎という女性の左側に座る紺色のスーツの男性が、案を出すもののすぐに却下されてしまう。
どうやら、ダンジョン側は送り込まれる返済者の素行まで求めてはいないようだ。
「おそらくだけ、素行の悪さも含めて了承しているのよ。
犯罪者になれば、奴隷落ちして強制労働。しかも、その奴隷落ちしている時間は返済義務は発生しない。
奴隷から解放されてから、返済義務が発生する」
「……なるほど、素行の悪さは奴隷落ちしてから矯正しようというわけですか」
「それでも、抗議はくるわけなんですね……」
「それは当然でしょ、自分たちの世界の人々が傷つけられたのよ?
西岡君も、誰かも知らないけど同じ日本人が向こうの世界の人に傷つけられたら抗議するでしょ?それと同じ」
「た、たしかに……」
「西岡君、何当たり前のこと聞いているのよ」
「いや、すみません……」
神崎課長が、素行の悪さも納得していると説明すると大内は納得する。
しかし、向こうの世界の抗議にうんざりしていた西岡はつい愚痴が出てしまった。それを聞いた神崎課長に説明されて何も言えなくなってしまう。
で、向かい側に座る白いスーツの女性に突っ込まれて謝ってしまった……。
「ところで神崎課長、例のダンジョン三十階層問題はどうなりました?」
「三上さん、何ですか?その問題」
「ん?ほら、ダンジョンの三十階層から先に地球人が進めないってやつよ。
向こうから帰ってくる人たちから、結構抗議みたいなのが来ていたの。
こっちでも調べて、報告と質問状を出していたんですけど……」
中央に座る神崎課長に、四人の視線が集中する。
「ん?ああ、それダンジョンマスターと探索ギルドマスターが絡んでいるから答えなんてないわよ?」
「ええ~、それじゃあどう答えておけばいいんですか?」
「う~ん、じゃあ、地球人に開放されているダンジョンの階層が三十階層までですって答えておけばいいわ。
真実なんて、知ってもしょうがないでしょ?」
「分かりました。
で、真実はどうなんですか?」
神崎課長の口から、とんでもない人物が出てきたのだがそれを無視して、白いスーツの三上は興味津々に真実を追い求める。
「……絶対に口外しないこと!いいわね?」
「もちろんです!」
「……まあ、いいわ。
理由は隠しダンジョンと、魔導銃の問題があるからよ。
隠しダンジョンは分かるわよね?各階層にある隠し通路や隠し部屋のこと。
そこに出現する魔物は、通常の階層の魔物の十倍ぐらいの強さをもっていて、簡単に倒せない。
だからこそ、ダンジョン探索は、大人数のパーティーを許可しているのよ。
そして、その魔物を倒した時の報酬がケタ違いなのよね」
つまり、三十階層以降の隠し通路にいる魔物は相当強い魔物が出てくるため危険度と報酬が釣り合わなくなってくるのだ。
そのため、ダンジョンマスターと探索ギルドのマスターが相談して意図的に侵入を拒むようになっているらしい。
「じゃあ、魔導銃の問題とは?」
「限界なのよ。
魔導銃を扱うガンナーという職業は、魔法職なのよ。物理攻撃一切無しの。
そのため、どんなにすごい魔導銃をそろえたとしても、三十階層以降の魔物には歯が立たない。
何せ、魔法耐性を持ち始めるからね、魔物側も。
魔導銃のみの攻撃方法じゃあ、限界なのよね」
「それなら、物理攻撃のできる奴隷を……って無理か」
探索者ギルドで売られている奴隷は、その階層に合わせたレベルで売られている。例えば、第一階層のダンジョン町にある探索ギルドで売られている奴隷は、ほぼレベルは一桁だ。
階層に合わせたレベルにすることで、一緒に成長していこうという考えに基づいている。
先ほども言ったが、隠し通路に出てくる魔物は十倍のレベルの魔物。
物理攻撃の奴隷をそろえたところで、犠牲が増えるだけという結論なのだ。
そのため、現地の探索者とパーティーをという考えもあるが、攻撃力が成長する魔法使いと攻撃力が魔導銃任せの魔法使いでは、組むという考えすらないだろう。
また、魔導銃の限界がそれに追い打ちをかける。
まあ、ネタ不足というのもあるが、成長に合わせようとすると超大型してしまうのだ。ダンジョンに潜るのに、魔導戦艦ヤマトに乗ってとはいかないだろう……。
「とにかく、今まで通りということでいいわね?」
「了解です……」
こうして、意味のない報告会は終わる。
末端の社員である、彼ら彼女らにできることはないのだ。
「そういえば、例の件はどうなったの?」
「例の件?」
「ほら、探索者ギルドから報告が来たじゃない。
外の国から、ダンジョン体験に誰か来るって話……」
神崎課長以外の全員が、自身のタブレットをスクロールさせ報告書を漁る。
そして、ようやくその報告書を三上が見つけた。
「明後日から来るそうです。
人数は六人。現地で護衛を雇うそうですが、その中には日本人も混ざるみたいですね……」
「……大丈夫かしら?」
いろんな意味で、神崎課長から出た言葉に答えられる者はいなかった。




