第35話 借金完済、その後
中川明日香から受け取った、小さな布袋の中を確認すると金貨八十一枚と銀貨五十枚が入っている。
日本円に直して、八百十五万円。
俺の借金は、これですべて返済できる。
「本田さん、ちょっといいっスか?」
「ああ、どうしたんだ?」
長谷川大輝が、困った顔で俺に相談があるらしい。
後ろに高橋健太も一緒ということは、同じ相談か相談相手として俺たちを誘ったか。
「実は、今回の報酬で借金をすべて返済できるんっスが……」
長谷川大輝の相談とは、今回の報酬で借金すべてを返済することができるのだが、パーティーのみんなが返済し終わるまで残るべきなのかどうなのか、ということだ。
長谷川大輝は、コンビニでアルバイトをする青年だったが、趣味のバイクにお金をかけてしまい借金を背負った。
バイトのお金では生活していくだけでやっとのため、返済に回せない。
父親はすでに亡くなっていて、母親に負担を強いるわけにもいかず、悩んでいたところネットで知り合った弁護士に相談しこのダンジョンを紹介されたそうだ。
借金は自分の自業自得なので、自分で返済できるならとコンビニのバイトをやめてこのダンジョンへ来たそうだ。
「……日本にすぐに戻らないといけない用事がないなら、こっちで稼いでいってもいいんじゃないかな?」
「稼ぐっスか?」
「せやな、返済が終わったからって、すぐに帰らなあかんことはないんやし。
こっちで稼いで、儲けるっちゅうのもてやと思うで」
俺もこっちにしばらくは残るつもりだし、完済=帰還という場所じゃないし。
パーティー組んでいるみんなが、完済するまで残ってもいいよな……。
「それで、本田はんは完済できそうなんか?」
「え、ええ。俺もこの報酬で借金を完済できますね」
「え、それじゃあ本田さんは、帰るんスか?」
「俺は、こっちにまだ残るつもりだよ。
借金は返済できても、お金に余裕が無いからね。少しでも稼がないと」
そう、稼がないといけないんだよな。俺、今無職だし。
このまま日本に帰っても、仕事があるかどうか分からないし。
それなら、探索者として稼げるこのダンジョンは、体のいい働き口だよ。
「分かったっス。俺ももっともっと稼ぐっスよ!」
長谷川大輝は、やる気を出してここに残ることを決めたようだ。
そうと決まれば、受付で借金を返済しておこう。
俺たちが立ち上がると、他のメンバーも俺たちと一緒に会議室を出ていく。
▽ ▽ ▽
探索者ギルドの受付に着くと、会議室の件の事と俺たちの借金の返済の件をお願いする。今回、借金の返済をするのは全員だが完済するのは三人だけ。
俺と伊藤拓也に、長谷川大輝の三人だ。
「分かりました。本田誠司様、今回の返済で借金完済となりました。
おめでとうございます。
それで、地球へご帰還されますか?」
「いえ、帰還は先延ばしにしてください。
もう少し、このダンジョンで稼ぎたいので……」
「承りました。では、『ステータスデバイス』には返済額ではなく、ギルドへの預け金を表示するようにいたします。
『ステータスデバイス』を貸してもらえますか?」
そう言われ、俺は『ステータスデバイス』を受付嬢に渡す。
受付嬢は、『ステータスデバイス』を受け取ると、登録時と同じような白い箱に『ステータスデバイス』を差し込むと、白い箱の表面を指でなぞった。
すると、一瞬箱が小さく光り、俺の『ステータスデバイス』が箱から出てきた。
「では、こちらはお返しします。
これで、ステータス表示に返済額から貯金額が表示されるようになりました。
ご確認ください」
俺は返された『ステータスデバイス』で、ステータスを表示する。
名前 本田 誠司
性別 男
年齢 32
職業 ガンナー
レベル 21
体力 1,869
魔力 15(固定)
スキル -
貯金額 0円
確かに、返済額から貯金額へ表示が変わっている。
これで、ギルドにお金を預ければ預けるだけ、自分のものになるわけだ。
「三人とも、おめでとう!」
そう言ってお祝いしてくれたのは、中川明日香だけだった。
高橋健太と田辺美咲に、小西葵は少し困ったような表情をしていた。
「三人とも、無理して残らなくてもいいのに……」
「美咲ちゃん、そんなこと言ったら……」
高橋健太は、長谷川大輝が俺を交えて相談していたからそうでもないけど、田辺美咲と小西葵からは俺たちが無理して残るように思えていたのか。
借金がまだある、パーティーメンバーのためにって……。
「俺、日本に帰っても無職なんだよ。
だから、少しでもここでお金を稼いでおきたいから残ったんだ」
「俺もっス!バイト辞めてここに来たから、戻っても仕事ないっスよ」
俺と長谷川大輝が残る理由を言うと、田辺美咲も小西葵も黙ってしまった。
でも、少し表情が和らいだように思える。
「伊藤はんは、どうして残るんや?」
「俺も仕事がないっていうのもあるけど、こっちで恋人を見つけたいんだよね」
……おいおいおいおい!
まさかの恋人探しのためですか?!
「いくら地球から来る人が多いからといっても……」
「そうじゃなくて、この世界の人の中で恋人を探そうと思うんだよ」
伊藤拓也は、目をキラキラさせながら遠くを見ている。
どうやら、この世界の女性に心を奪われているようだ。
まあ、エルフとか獣人とか出会ってきた女性は美人が多かったけど、それにしても恋人は外国人ならぬ異世界人とは……。




