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第3話 自己紹介




扉を開けて中へ入ると、そこは会議室になっていた。

部屋の真ん中に、Uの字の机がありその周りに座るように椅子が並べられている。

そして、そこにはすでに三人の男女の姿があった。


「講習会へようこそ。空いている席へ座ってくれ」


そう言って俺に、席に着くように声をかけてきたのが前方の壁際に立っていた男性だ。

俺は机に近づき、空いている椅子へと腰を下ろす。


「席が全部埋まるまでもう少しかかるから、その間、楽にしていてくれ」

「あ、はい……」


そう言われ、俺は机の周りの椅子を確認すると後四つ空いている椅子がある。

……もしかして、俺の後にあの店に人が来るまで待つのだろうか?


そう不思議に思いながら周りを見渡すと、この部屋がおかしいことに気づく。


まず第一に、窓がない。

俺の座った席から右側には、壁一面を隠すカーテンが張られている。

だが、明かりが差し込んでいる感じがないため、カーテンの向こうに窓は無いとみていいだろう。


次に、左側の壁には木のドアが壁の中ほどに二つあるだけだ。

そばには『男性用更衣室』『女性用更衣室』と書かれたプレートがあることから、ダンジョンに行くための服とかに着替えるためにあるのだろう。


そしてこの部屋全体は、白で統一された会議室のようで前面にホワイトボードが掲げられてあり、その手前に教壇があった。

これではまるで、会議室というより学校の教室のようだ。


だが、机は教壇に向かってUの字型でその周りに椅子が八つ並べられ、俺を含む四人の男女が座っている。


また、この部屋の後ろには俺が入ってきた扉が一つあるだけで、扉の向こうはあの店につながっているのだろう。

そんなことを考えながら後ろを確認すると、扉が開き、二人の女性が入ってきた。


「あれ?」

「何、ここ……」


不思議なものを見るように、入ってきて周りをキョロキョロしていた二人に俺に声をかけた男性が、席に着くように促した。


「講習会へようこそ。

もう一人来る予定だから、まずは席について待っていてくれ」

「は、はい……」


二人の女性の片方の女性が返事をすると、二人とも恥ずかしそうにいそいそと俺の座った席の左側へ移動する。

俺がUの字の曲がった場所の真ん中に座ったため、自ずとそういう席順になってしまった。


そして、俺から見て左側に女性三人が座り、俺の右側の席を一つ空けて男性たちが座っている。

すでに座っている俺たちにペコペコと頷くような挨拶をしながら女性二人が座ると、後ろの扉から最後の一人になる男性が入ってきた。


「あれ?人がいる?」

「おう、君で最後だな。早く席についてくれ、講習会を始めるからよ」

「あ、は、はい!」


急かされるように言われて、空いている俺の隣の席へ男性は座った。

その時、俺にどうも、と挨拶をしてくれたので、俺もどうもと挨拶を返した。



「それじゃあ、全員揃ったところでダンジョン探査の講習会をはじめよう」


そう言いながら、端にいた男性は教壇の前に立った。

この人が、講師で間違いないようだ。


しかしこの講師、ずいぶんとガタイがいい。

腕や胸の筋肉なんか、ボディービルダー並みに盛り上がっていることからかなり鍛えているのだろう。服の隙間からでもよくわかる。

顔は、日本人というよりアラブ人のように濃い顔だ。

何より、顎のラインの髭がすごい。


「まずは、初めまして。私はグングニルという名前だ。

……まあ、もちろん偽名だがいずれ偽名にしている意味も分かるだろう。

さて、まずはそちらの男性から自己紹介をしてくれるか?」


そう当てられ、男性が立ち上がる。

この人、俺がこの部屋に入ってきたときにすでに座っていた人だ……。


「ほんなら、名前だけでええんか?」

「いや、名前と年齢、職業を頼む」

「分かった。

高橋健太、三十四。前は自分で会社しとったけど今は倒産して無職や。

ここにおるみんなと同じように借金返済のためにここに来たんや。

よろしゅうな」


……関西弁?

俺も地方出身だけど、都会はいろんな出身者がいるんだな……。

男性が座ると、今度はその隣のスーツ姿の男性が立ち上がる。


「えっと、俺は伊藤拓也、三十歳、九州にある県で市役所職員をしていました。

借金返済のために役所をやめて臨んでいます。よろしくお願いします」


……公務員をやめて借金返済か。

すごい覚悟かもしれないな。

でも、九州の元市役所職員?この都会にわざわざ来て返済する?


スーツ姿の男性が座り、次はその隣の同じくスーツを着た男性が立ち上がる。


「長谷川大輝です。二十五歳でコンビニでバイトしてます。

よろしくお願いします」


スラスラと必要事項を言うと、ペコリと頭を下げて座った。

次は俺の番だなと、立ち上がり座っているみんなを見渡す。


「本田誠司です。三十四歳無職です。

……これからよろしくお願いします」


……何も言うことがなかった。

みんなと同じ借金返済はわかっていることだし、借金の経緯を話すのも何か違う気がしたし……。


自分の自己紹介を反省していると、次の女性が立ち上がる。

この女性、左隣の女性と一緒に入ってきた人だ。


「田辺美咲、二十三の大学生です。

隣に座る葵ちゃんと、一緒に借金のことを弁護士に相談してここを紹介されました。何をするか分かりませんがよろしくお願いします」


そう言うと、隣に座っていた葵という女性も立ち上がり自己紹介をする。


「小西葵です、美咲ちゃんと同じ二十三です。

一緒の大学に通っています、よろしくお願いします」


そう言って二人で座る。

……うん、仲がいいことはわかった。


「最後は私ですね。

中川明日香です、三十三歳の専業主婦です。

夫に内緒で作ってしまった借金を、何とかするためにここに来ました。

……よろしくお願いします」


最後の女性が立ち上がり自己紹介をする。

夫に内緒って、ギャンブルか?

自己紹介が終わり、中川さんが座ると講師のグングニルがしゃべりだす。



「よし、ではこの七人で、まずは最初のダンジョン町まで進んでもらうぞ」


……え?

俺たち七人全員が、教壇に立つグングニルに視線を向ける。


今、何を言ったんだ?







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