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第2話 扉の向こうへ




「……『ダンジョン探査』って、本気で言っているんですか?」


俺は、信じられないことを言った受付嬢を睨んだ。しかし、受付嬢は何も感じていないのか笑顔のままだ。

そこで、ここに連れてきた轟を睨むと苦笑いを浮かべていた。


「セーラ、俺の時と一緒だ。ちゃんと証拠を見せないと、ダンジョンなんてゲームの中の話としか思ってないぞ?」


轟は、俺に睨まれたことで説明不足な受付嬢に注意した。

でも、俺の時?

轟もダンジョン探査などと言われたのか……。


「これは失礼しました。

………では、こちらをご覧ください」


ようやく睨まれたことが分かり少し焦ったように、頭を下げて謝るとカウンターの下から箱を取り出す。

百科事典一冊分の大きさの木箱だ。

その木箱をカウンターの上に置き、ふたを開けると中には三つの宝石が入っていた。


「……宝石、ですか?」

「いいえ、これは魔石です。

赤、緑、紫と色が違いますが、すべて魔石です。

お客様には、ダンジョン探査でこの魔石を手に入れてもらいたいのです」


魔石?この宝石の原石のような歪な形のものが?

大きさは三つとも手のひらサイズ、それぞれ形もちがうし色もちがう。

それに何より、この三つの魔石を見ていると何か得体のしれない感情が俺の中にあった。


恐怖?

好奇心?

……よく分からないが、でも確かに地球にはない物だと確信できていた。


「本田さん、この魔石を見ているとおかしな感情がわいてきませんか?」

「轟さんもですか?」


魔石をじっと見ていた俺に、轟が話しかけてくる。

……そういえば、この轟もダンジョン探査をしたらしいんだったか。


「俺も五年前、この店を利用して借金を返済したんですよ。

俺をここに連れてきてくれた人は、今もいろいろとお世話になっている弁護士の人なんですけどね?

……最初は俺もダンジョンなんてって、騙しているんだろうと警戒したんですけど本当の事なんですよ。

あそこ、あの扉の向こうに行けば、本当にダンジョンへ行けるんですよ……」


そう言って、店の奥の扉を指さす轟。

どこにでもある、団地なんかにありそうな鉄の扉。

あの奥に、本物のダンジョンが……?



俺は扉を見て、少し不気味に思えたもののそれ以上に好奇心がわいていた。

ダンジョンが本当にあるのなら体験してみたい。

ラノベや漫画、アニメなどで描かれた世界があの扉の向こうにあるのなら……。


どうせ、ここまで来た以上俺の覚悟は決まっている。

だから、詳細を受付嬢に質問した。


「ダンジョン探査で、その魔石を集めればいいんですか?」

「はい、その通りなのですが、まずはダンジョンに行くための講習会に参加していただきます。

お客様がそのままの装備で行かれても、何もできませんからね」


……確かにそうだろう。

今の俺の姿は、ジーンズのズボンに黒のTシャツ、その上に薄手の白いジャンパーだ。

下は青のスニーカーと、とてもダンジョン探査の恰好ではない。


「講習会に行けば、装備も武器も用意してくれているからそのままで参加されても大丈夫です」

「そ、そうなんですか……」


今だに戸惑いながらも、少し安心した俺は肝心なことを聞きそびれていたことに気づいた。それは、どうやって立て替えてもらえるかだ。


「そういえば、聞きそびれていたんですが、どうやって俺の借金を立て替えるんですか?」


そう、俺はまだ立て替え方法を聞いていなかった。

俺の借金650万円をどうやって……。


「それは、こちらでお客様の身内の方へ直接お支払いに伺います。

そこで、お客様が私どもの会社で働いて返済をしているとご報告もさせていただき、安心していただこうかと考えております。

いかがでしょうか?

さすがに、お客様の身内の方と言えどもダンジョンのことは、ハイそうですかと信じてもらえるとは思えませんので……」


……直接か。しかも近況報告もしてくれるなら大丈夫、か?

いや、大丈夫だろう。


「……それでお願いします」

「分かりました」


受付嬢はそう言うと、俺が記入した紙の下の方にあった備考欄に返済方法を記入する。

それを確認すると、轟が俺の肩に手を置く。


「もういいか?」


俺はその質問に頷き、扉の前まで行く。

そして、一度二人に振り替える。


すると、二人は笑顔で頷き「頑張れよ」と声をかけてくれる。

……もう後には引けないな。


俺は鉄の扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりとひねり、扉を押し開けながら入っていく……。




▽   ▽    ▽




ガチャンと大きな音で扉が閉まる。

ようやく、本田さんが扉の向こうへ進んでいった。


それを確認して、すぐに受付嬢のセーラがカウンターの上に置かれた木箱を片付けだす。

まあ、いつまでも空気にさらしていいものじゃないからな。


地球には魔力が薄いため、魔石を空気に触れさせたままでいると魔石内部に保存されている魔力が空気中に溶け出してしまい空の魔石になってしまうのだ。

そうなると、使い道のない魔石となり価値も地に落ちてしまう。


「本田さんは、無事に借金を返済できるかな?」

「さぁ~、どうでしょうね。

轟さんは、経験者でしょう?

あなたは、どれぐらいで返済できたんでしたか?」


「俺?俺は額が額だったから、三年かかったよ。

チートも無しに億単位の借金を返すのは、めちゃくちゃ大変だったな……」


五年前、俺もダンジョンを使って借金を返済した。

二億円という借金を、三年で返せたのは運が良かったとしか思えないだろう。

普通に働いていては、もっとかかっていただろう……。


それに何より、ダンジョン探査にチート能力無しなのだ。

本田さん、扉の向こうの講習会で驚くだろうな……。


「……轟さん、顔がにやけてますけど何を考えているんですか?」

「いや、講習会で本田さんたちの驚く顔を想像したらね?」


「たち、ですか?」

「たち、です」



扉の向こうで、どんな講習会が行われているのか俺は知っている。

そして、その講習会の後何が始まるのかも……。








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