第11話 発見したもの
女性たち三人が、一緒に座って休憩している。
まだ体の震えが止まらないのだろう。まあ、あのゴブリンを目の前で見て平気な人はいないだろう。
さらに、魔導銃とはいえ弾倉の魔力が切れるまで撃ちまくったのだ。
自動小銃型の魔導銃から発射された『ファイアーアロー』は、標的のゴブリンを削りながら倒していた。
トラウマものの光景だっただろう……。
中川明日香に縋り付きながら震えている、田辺美咲と小西葵をかわいそうにと思いながら見ていると、倒したゴブリンの魔石を拾ってきた長谷川大輝が近づいてきた。
「いや~、倒したゴブリンの死体、ホントに消えたんスね。
魔石以外肉片一つ残ってなかったス」
この世界のダンジョンの魔物は、倒すと光の粒子のようになって消え、魔石を残す。
ゲームのようで楽なのだが、素材を回収できないためお金になりにくい。
「ゲームみたいでよさそうに思えるが、素材が回収できない分お金になりにくいぞ?」
「……せやな、魔石以外取れないっちゅうんやったら下層に進まざるをえんな」
魔石買取だけでは、借金返済は厳しいだろう。
グングニルが、ゴブリンの魔石は10円にしかならないとか言っていたしな。
高橋健太と長谷川大輝と俺とで、女性三人を護衛しながら話していると、伊藤拓也が焦った表情で近づいてきた。
「お、おい、大変だ」
俺たちが最初に倒した、もめているようだったゴブリンの魔石を取りに行った伊藤拓也が原因を見つけたのだろうか?
こういう時、ファンタジー小説なんかだと女性が倒れているのが定番なんだが……。
「伊藤はん、何かあったんか?」
「もしかして、女の子でも倒れていたんスか?」
「女の子?何言ってんだよ、もっとヤバいものを見つけた!」
ヤバイものを見つけた。
こんな時決まって見つけてくるものは、格上の魔物かゴブリンの巣。
「もしかして、ゴブリンの巣を見つけたのか?」
「よく分かったな。この先にゴブリンの村があった」
こんな最初の階層に、ゴブリンの集落だと?
「何匹ぐらいいたんや?」
「隠れて数えただけだが、それでも四十はいたぞ」
確認できただけでも四十匹。
結構大きな集落のようだ。まさにゴキ○○みたいだな。
俺たちは、女性たち三人を加えて全員で話し合うことにした。
このまま進めば、必ずゴブリンの集落で戦う破目になる。しかし、ゴブリンをこのままにしておくわけにもいかないだろう。
こんなダンジョン一層目の、ダンジョン町のある場所に、ゴブリンの集落とは……。
「わ、私は反対だよ!
あんな気持ち悪いものと戦いたくない!」
「わ、私も、パスしていいかな?」
田辺美咲と小西葵は、やはり反対している。
いきなり襲われて、ゴブリンの醜悪な顔を目の前で見たからな。
しかも、自身の魔導銃で削られながら倒されていくところも見たようだし、トラウマになっているのかもな。
「……遠距離から倒すのはどうかな?」
中川明日香が提案してきた。
ゴブリンの容姿が良く見えない位置からの攻撃で、苦手を克服してほしいのだろう。
だが、トラウマがそんなことで克服できるのだろうか?
「今回は、数が多いわ。
それなら、ゴブリンがいるであろう位置に向かって乱射するだけでも倒せるんじゃないかしら?」
「なるほど、それでもある程度倒すことはできるな」
中川明日香の提案に、伊藤拓也は賛成のようだ。
「それなら、中川はんが田辺はんと小西はんのフォローをお願いできるか?
二人が撃ち漏らしたのを、中川はんが攻撃するっちゅうわけや」
「……分かったわ」
高橋健太の指示に、中川明日香は了承する。
さらに、高橋健太は俺たちにも指示を出しゴブリン集落の討伐を計画する。
だが、俺たちにゴブリンの集落の討伐なんてできるのだろうか?
集落を避けて、回り道を取る方法もあったのだが何せ借金返済を目標とした俺たちだ。
ここは魔石を稼いでおくところだろう。
それに、まだダンジョンの一階層だ。
ダンジョン町がある階層に、ゴブリンの集落はまずいと思う。
「俺と長谷川はんが、中川はんら三人の右側。
本田はんと伊藤はんは、左側を頼むわ」
「了解っス!」
「分かった」
俺は黙って頷き、小西葵たちに言葉をかけた。
「小西さん、弾倉は変えた方がいいよ?
あのゴブリンに全弾撃ち尽くしてただろ?」
「あ、ありがとうございます。……忘れてた」
急いで弾倉を交換しようとするが、まだ少し手が震えてうまく交換ができない。
それを見かねて、中川明日香が弾倉の交換をしてくれる。
「大丈夫よ、友達も一緒だし私もそばについているから」
「あ、葵ちゃん……」
「美咲ちゃん……うん」
とにかく借金返済には、ダンジョンの魔物を倒して魔石を集めるしかない。
改めて覚悟を決めた二人は、中川明日香に向かって頷く。
そんな三人を見て、俺も頑張ろうと魔導銃を構えて進み始める。
ゴブリンの集落へ向けて……。