第100話 ダンジョン町の雰囲気
新しく加わったメンバーの力量を見るためだけに、ダンジョンの二階層を探索していたのだが、まさかネクロマンサーとの戦いを経験することになろうとは……。
お試しダンジョン探索から、ダンジョン町へ帰還すると町全体があわただしい雰囲気だった。
特に、探索ギルドは人の出入りが激しく普段利用しないであろう職人の人たちが出たり入ったりしている。
「……何かあったのかな?」
「ギルドで何かあったんか聞いてみるわ」
探索者ギルドを眺められる場所で、俺たちが不思議に思っているとリーダーの高橋健太が探索者ギルドへ一人で入っていった。
一体、何が起きているのかと考えていると、慌てた様子で高橋健太がギルドから出てきた。
「大変や、『ニベランチェ』の町が占領されたそうや。
それで、住民の避難は成功したんやけど行くとこが無くてな。
それで今、ここへ向かっとるらしい」
「それじゃあ、この騒ぎは?」
「たぶん、その住民を迎えるための準備やろ。
ここは町とはいえ、住む人が少ないからな……。
人が住めるように、場所を確保するために動いとるようやで」
確かに、ここは町とはいえ探索者のための町だ。
後方支援のための商店や、武器などの店はあっても人が住むこと前提で作られていない。
宿もあるにはあるが、そんなに多くはないしな……。
ならば、仮設とはいえ家を今から用意しているというわけか……。
「ちょっと待って、それなら『オブロフ』の町へ行くんじゃないの?
距離はあるけど、大きな町よ?
避難してきた人たちも、ちゃんと受け入れてくれるはずでしょ」
シャーロットさんは、このダンジョンの周りにある町についてよく知っているらしい。すぐに、避難民が向かえる町が分かるとは……。
「それがな、その『オブロフ』とこのダンジョンとの間に敵の部隊が待ち伏せとるらしいわ。それで、急遽このダンジョンに避難するそうや」
なるほど、別部隊を動かしていて挟み撃ちってことか。
いや『ニベランチェ』を襲ったのは、その待ち伏せしている部隊との合流をする部隊ってことかな?
町の避難民を人質ってわけでもないだろうし……。
「ここに『ニベランチェ』の避難民が来るってことは、応援に行った探索者が戻ってくるってことか?」
「たぶん、そうなりますね……」
俺は、高橋健太たちの会話から『戦乙女の盾』のみんなが帰ってくることを喜んでしまった。隣にいた、小西葵が少し心配している。
本当なら、避難してくる人たちのことを考えないといけないんだろうけど、顔も分からない人たちより一緒に戦った『戦乙女の盾』のことを考えてしまった俺は、少し薄情なのかもしれないな……。
「それで、我々はどうするのだ?
探索ギルドで報酬を山分けするのか、後日に回すのか……」
ジョゼフさんが、俺たちはどうするのか高橋健太に聞いてきた。
この忙しいときに、どうするべきなのか決めあぐねているのかもしれないな。
「……いや、報酬は今日中に山分けしておくで。
パーティー組むんは今回だけっちゅうこともあり得るからなぁ」
「了解だ」
そう言うと、俺たちは人の出入りが忙しい探索者ギルドに入り、会議室を借りる。
この会議室で、いつものように報酬を山分けするためだ。
「さて、ギルドが忙しいときやけど、魔石の換金については任してきた。
専門は専門にや。
後は、この袋三つ分の金貨の山分けやな……」
高橋健太はそう言うと、机の上に布袋を三つ置く。
中身は金貨と分かっているので、これも魔石の換金後、報酬と合わせて山分けすることに。ギルド職員の負担は増すが、俺たちの手で山分けするには数が多すぎるし、誤魔化さないためにもギルドに任せることにした。
「わ、分かりました。少々お待ちください……」
少し涙目になりながらも、ちゃんと仕事はしてくれるようだ。
「ほんなら、これからのことを話し合おうか?」
「これからのこと?」
「せや、避難民がこのダンジョン町に来るっちゅうことは、応援に行っとるパーティーの仲間が戻ってくるっちゅうことや。
そうなれば、この臨時パーティーは解散せなあかん。
いつまでも、組んだままっちゅうわけにもいかんやろ?」
高橋健太の提案に、ここにいる全員が納得する。
特に、臨時で組んだジョゼフさんたち魔法使いの四人だ。
ジョゼフさんたちの仲間も、町の住民の避難誘導の手伝いのため『ニベランチェ』の町へ行ったわけだからな。
このまま解散となる方が自然だよな。
「私とドロシーは、このまま解散でもいいわよ。
このパーティーでの、貴重な経験ができたしね?」
「貴重な……。ああ、ネクロマンサーとの戦いか。
確かに、あれは今までにない経験だったな……。」
シャーロットさんの言葉に、ジョセフさんが反応する。
いや、俺たちだって、あんな戦いは初めてでしたよ。
しかも、ダンジョンマスターと会って、会話までするなんて……。
「それに、ダンジョン探索の新しい可能性も見させてもらったわ」
そう言うのは、メンバーの中で一番の年上のカレンさんだ。
今まで、自分たちがやってきたダンジョン探索とは何だったのかと考えさせられる行動だったようだ。
……もしかして、あんな隠し通路を見つけたりするダンジョン探索ってしてなかったのか?
そんなふうに、会議室で今回の経験したことについて話していると、ギルド職員の女性が会議室に入ってきた。
どうやら、魔石の換金が終わり報酬の山分けができたようだ。
「お待たせしました……」