第10話 初めての戦闘
講習会の行なわれた会議室を出ると、そこは木々の乱立する森の手前だった。
目の前に見える森の先は、木々が入り組んでいて見えない。
また、上を見上げれば青い空ではなく明るい洞窟の天井だ。
天井まで、おそらく十メートル以上あるだろう。その天井全体が外にいるような明るさで光っていた。
「これがダンジョンなんやな……」
「それで、俺たちはどこへ行けばいいんスか?
グングニルさんは、何も言っていなかったようですけど」
長谷川大輝の質問に、ここにいる全員が困った顔をする。
ただ、俺は『ステータスデバイス』の取扱説明書を読んでいたからこの答えも知っていた。実は、『ステータスデバイス』には地図機能がある。
ただし、一度行った所しか表示しない行動記録のようなものだ。
だが、町など生活圏と呼ばれるところは何故か表示されるのだ。
この機能を使えば……。
「この『ステータスデバイス』に、向かうダンジョン町の方角が分かるぞ」
「え、ホントっスか?!」
「……これ、そんな機能あったの?」
そう言いながら、全員が『ステータスデバイス』を取り出し地図機能を確認する。
画面には、現在位置とダンジョン町の位置以外は真っ黒なままだったが。
「これ、一度行かないと表示しないヤツなんスね」
「まあ、そこまで便利なわけないよな。ここダンジョンだし」
「とりあえず、方向は分かったんやし町に向かうで」
高橋健太が何となくリーダーのようになり、俺たちは森の中へと出発する。
森の中は、茂みがそんなにないので結構歩きやすかった。
ただ、木の根元がむき出しになっていて木の根っこが油断していると引っかかってしまう。そのため俺たちは、足元に注意して進む。
先頭は高橋健太。
続いて、長谷川大輝、中川明日香、伊藤拓也、俺と続き、田辺美咲と小西葵は少し怯えながら手をつないで歩いていた。
「ストップ!」
先頭を歩いていた高橋健太が、焦ったように小声で叫ぶ。
そして、すぐに近くにあった木の陰に隠れた。
「え?なんスか?」
「ん?何かいるの?」
長谷川大輝と中川明日香の両名が、高橋健太の側に近づく。
「ストップや二人とも!…あれ見てみぃ」
そう小声で叫びながら、前方を指さす。
高橋健太の焦った表情が気になり、俺たちも木の陰に隠れながら前方を覗き見る。
覗き見た先に確認したもの、それは醜悪な顔をした子供。
腰布にこん棒や、錆びた小剣を持つファンタジーでおなじみの『ゴブリン』だった。
それが三匹で、何やら言い争いをしているようだった。
「……アレ、何をもめているんスかねぇ」
「そんなのどうでもいいよ」
「気持ち悪いし、別のルート行こ?」
長谷川大輝の質問を無視し、田辺美咲と小西葵はゴブリンの容姿に怯えながら別の道を行くように高橋健太に提案する。
だが、こういう時は倒してしまうのが一番手っ取り早い。
俺が、手に持っていた自動小銃型の魔導銃を構えると、田辺美咲と小西葵以外の全員が同じように構えた。
「中川さん、それ拳銃タイプの魔導銃っスよ?
俺らと同じ小銃タイプの魔導銃の方が、よくないっスか?」
「そうなの?取り扱いやすい方を選んだんだけど?」
中川明日香と長谷川大輝が、話している間に俺たちは狙いを定めて引き金を引いた。
――――パパパパパパパパパッ!!
赤い光が、高橋健太と伊藤拓也と俺の魔導銃の先から勢いよく飛び出すと、短い20センチほどの赤い矢がゴブリンたちに襲い掛かる。
そして、もめているゴブリンたちに襲い掛かった赤い矢は全弾命中した。
「よしっ!命中!!」
「あ、アホ!」
伊藤拓也が命中に喜び、叫んでしまったことを高橋健太が焦ってしまう。
そして、つい罵ってしまった。
だが、それもそのはず、ゴブリンは前方の三匹だけではなかったからだ。
「「きゃああぁぁぁっ!!」」
実は、高橋健太が見たゴブリンの数は四匹。
三匹がもめ始めると、一匹はその場からすぐに離れたのだ。
それを見ていた高橋健太が、前方の三匹のゴブリンを倒した後で油断するなと教えようとしたところ伊藤拓也が叫んでしまったというわけだ。
だから、後方の田辺美咲と小西葵の叫び声は、ゴブリンが襲ってきたからだと高橋健太は焦って悲鳴の方を向く。
案の定、田辺美咲はその場にしゃがみ込み、小西葵は震えながら自動小銃型の魔導銃を構えている。
……あとはもう誰でも思いつく展開となった。
襲い掛かってきたゴブリンに向けて、小西葵が魔導銃の引き金を引き全弾発射!
ゴブリンは全弾命中し、細切れになりながら光の粒子になって消える。
そして、その場にはゴブリンの魔石が一個、ポトリと落ちていた。
ゴブリンが消えれば、危険はなくなったとばかりに小西葵もその場に座り込んでしまう。
「……フルバーストか」
自動小銃型の魔導銃の全弾は確か30発ほど。
弾倉の魔力全部を撃ち尽くして、ゴブリン一匹では採算は合わない。だが、今は彼女たちを心配するべき時だろう。
「大丈夫か?二人とも」
俺が声をかけて近づくと、他のメンバーも近づいてきた。
高橋健太と長谷川大輝は、周りを気にしながら近づいてきたが……。
俺が近づくと、田辺美咲も小西葵も青い顔をしている。
ここは、同じ女性通しの方がいいだろうと中川明日香を二人の側に付けた。
すると、すぐに二人が中川明日香に縋り付き震えている。
泣くことはなかったが、震えが止まらないらしい。
「しばらくここで、休憩した方がいいと思うけど?」
「せやな、二人が落ち着くまでは待っとったほうがええな」
俺と高橋健太の意見を聞き、周りを警戒しながら休憩となった。
しかし、初めての戦闘がトラウマにならなければいいんだけど……。