7. -首吊り-
蒼月瑠奈はエリィ、ファレーナ、永久の三人を引き連れ都立〇〇高校の紹介をしているところだった。
体育館、理科室、美術室、音楽室などの場所を教えて回った。
学校については創立が1970年であとは校長の名前、校門前の銅像についてしか知らなかったが、誘ったのは元々エリスと話がしたかっただけだった。
しかしエリィに話しかけようにも思わぬ同伴者のファレーナが間に入ってくる。
まるでエリィを輪に入れないようにしているようで意地悪だと思った。
「ええ、そうなの。私カラオケと言うものに行ったことがないのよね」
「今度みんなで行こうよ。ねぇ、エリィさんも一緒に!」
「予定が合えばぜひ行きたいわ」
エリィに何も言わせないようにファレーナが応える
「そう、あそこはなんなのかしら?」
ファレーナが指差した先には旧校舎があった
「あそこは旧校舎だよ。今はまったく使われてないみたいだから行かないつもりだったけど」
「面白そうじゃない!ちょっと行ってみましょうよ。冒険よ冒険、ねぇ佐々木さん?」
「良い案ですね」
瑠奈は彼女の言葉遣いが堅苦しい事が少し気にかかった
「じゃあ行ってみようか…」
あまり乗り気ではなかったが旧校舎に歩を向ける
バタン
急に誰かが倒れる音が聞こえた
「あら!大丈夫?ファンデルさん」
ファレーナが駆け寄る
倒れたのはエリスだった
「大丈夫?どうしたの?急に」瑠奈も心配になり尋ねる
「ちょっと躓いただけよ」
血は出ていない様だがすごく不機嫌そうだった
足でももつれたのかと瑠奈は思った
旧校舎は鍵はかかっていなかったが埃まみれで息苦しかった
ファレーナと永久がぐいぐい先導して行くので二人はついていくので精一杯だった
ファレーナはどうやら屋上が開いているか知りたい様だ
四階についた辺りで永久が口を開いた
「そういえばこの学校って七不思議とかないの?」
「七不思議?」
そういえばいくつか聞いたことがある
でも小学校にも中学校にもあったのでどれがこの高校のものかは覚えていなかった
「それって音楽室の幽霊とかそういうの?」
「そう、そういうの!」
「うーん、夜中に校庭を走る銅像とか飛び降り自殺した生徒の影が見えるとか聞いたことはあるけどね」
「首吊りにまつわるものはないの?」
「首吊り?」
「前の学校にあった噂なんだけど、真夜中に外から三階の教室を見上げるとカーテンに首を吊ってる女生徒の影が見えるの。でもね、私が通ってる時に実際に同じ事件が起きたの。三年生の女の子が教室で首を吊って、明かりをつけてたからシルエットがね見えてね。それを見つけたのが私」
「えぇ、それって本当?」思わず声が上ずってしまう
「首を吊ると楽に死ねるって言うけど嘘だよ。顔が真っ青になって凄く苦しそうな顔をしてた。きっと縄にぶら下がった後、後悔したんだと思う。フフ…、もっと生きたいって思ったんだろうね」
少し聞いたことを後悔するくらいにはその現実味を帯びた怪談に恐怖を覚えていた
人のいない旧校舎がやけに寂しく感じる
ふと横を見るとファレーナがにやにやと笑みを浮かべていた
「ファレーナさん、どうかした?」
「いえ、エリステーゼさんが大丈夫かなと思ったの」
そういえば先程からエリィが一度も言葉を話していない
「ねぇ、エリィさんも…」
思わず絶句してしまいそうになった
エリィの体が宙に浮いている
彼女は手で首のあたりを抑え、まるで見えないロープで吊られ、抵抗しているかのように見えた
「どうしたの?!本当に幽霊!?」
焦って助けようと近寄る
じたばたともがく彼女は手に何かを持ってそれを渡そうとしている
その瞬間視線が横に引っ張られた
足を何かに引っ張られ引きずられるような感覚
「何…これ…」
理解出来ずにいると次は首元に違和感を感じ始めた
「ふふ、瑠奈ちゃんゲット~」
永久はすごく嬉しそうだ
吊られている、まるで処刑の様に
首元の見えない何かを必死で掴み重力へ逆らう
しかし徐々に徐々に上へと上がっていくため苦しくてたまらない
「さっきの話、本当なの。首を吊った女の子がいるって話。まぁ吊らせたのは私だけどね。あなたも…、同じ目にあってもらうよ」
えっ、と言おうとしたところで声が出せない
助けも呼べない、どうしよう
死への恐怖が体を硬直させる
「私ね、あれから人が死ぬ所を見るのが好きになっちゃって。特に女の子がね、話に出てきた女の子はね私が好きだった子なの。告白とかはしてないけどなんとなく吊っちゃった。あなたも私好みだし好きだよ」
愉悦を顔に貼り付けたような顔が高揚し赤くなっている
「ファレーナ様の事も好きなのか?」
「ファレーナ様は…、誰ッ?!」
反対の教室から出て来たのは聖とニールだった
「ご主人様も吊り上がってるぞ」
気付かなかったが先程まで永久の隣りにいたファレーナも同じ様に宙に浮いている
「壁際にも仕掛けてたろ?ちょっと押してあげたのさ」
「なんでわかった!?見えないのに!」
「俺の《星》で調べたのさ。見えなくても接触はできる。わかったなら《吊られた男》を解除しろ」
永久が聖を憎らしく睨みつけた後私は地面にゆっくり降ろされた
聖はエリィの方に駆け寄る
「大丈夫か?エリステーゼ」
エリィは苦しそうに呼吸を繰り返していた
「顔が青くなってる、危ないところだったな」
エリィは何か言いたそうだが目で聖を睨んでいた
「俺もニールに学校案内してたのさ」
そういい彼女を壁にもたれかけさせると私の元に来てくれた
「平気か?瑠奈」
「私はちょっとだから大丈夫だけどエリィさんは?」
「少し休ませる必要があるかも」
「なら保健室に…」
そう言おうとした時、ファレーナの感情的な叫びに遮られた
「ニール!あなた裏切るのが早すぎるんじゃないかしら?」
「僕はただ彼と話をしていただけですよ」ニールは何が悪いのかというように答える
「そっちだって仕掛けて来るのが早いだろ」聖もニールを庇う様に応戦する
「当然でしょう、動くなら早い方が良いの。エリステーゼが日本の高校に入ると聞いた時は面白かったわ。邪魔してやろうと思って飛んできたのよ」
「転校する必要はなかったろ?」
ファレーナは聖の質問が嬉しくてたまらないとでもいう風に答えた
「遊びよ、遊び。私達はね勝ちを確信しているの。エストリアの設備はこちらが自由に使える、《タロット》の数でも圧倒的。セルビオにも遊ばれたんでしょ?」
聖は少し答えに詰まった様子だった
「勝ちを確信してる割には杜撰な作戦じゃないか?」
「そう、それ。なぜここがわかったのかしら」
「罠を仕掛けに行くところを見たんだ」
聖は鼻で笑いながらそう言った
「あぁ、そういう事ね」
心底憎たらしそうにファレーナは永久を横目で睨みつけた
永久はかなり焦った様子で動揺している
「すみません、グラスフィールド様…。私は」
「ニールとは音楽の話をしてただけだから何もないよ」
「ニールねぇ」そういうところが気に入らないのよとでも言いたげだ
「とりあえず俺たちは帰らせてもらう。瑠奈、エリステーゼ、行こう。」
「行かせないわよ」萎縮していたはずの永久が前に出てくる
「仕掛けた分全部起動してやるから」
「《星》で判別できるよ」
「私を馬鹿にしたこと、許さない!」
「永久、同じ手は通用しないと思いなさい」ファレーナも彼女を責める
「そんな…」
「今日はただの挨拶。明日から楽しみにしておきなさい、エリステーゼ様」
興が削げたとでもいう風に、そう言ってファレーナは階段を降りていった
助かった
安堵感からか思考が帰ってくる
さっきのはなんだったのか
聖は何か知っているようだったがどう訪ねよう
そのまま旧校舎を出て保健室へ向かう
保険医はいなかったのでベットでエリィを休ませ三人で話をした




