6. -蛾-
月曜日になって、エリステーゼは聖の通う都立〇〇高校へ通う事になった
ジョルジュが手続きを早々と済ませ不思議な程早く承認された
恐らくは何らかの忖度があるのだろう
聖は彼女を職員室に案内し教室へ向かった
ジョルジュによると彼女は同じクラスになるらしい
そういう所まで織り込み済みだそうだ
始業のベルを待ちつつエリステーゼの事を考えていると蒼月瑠奈が話しかけてきた
「おはよ、聖。今日転校生が来るらしいよ」
心のなかでニヤつきつつ知らないふりをする
「そうなのか、瑠奈はもう見かけた?」
「まだだよ。ていうかね、この時期に四人も一緒に転校してきたらしいの。同じ日にだよ。兄弟なのかな?」
やはり、という思いと相手の対応の速さへの恐怖が入り交じり少し武者震いをしてしまう
相手も遊んでいて乗ってきたのであればやりようがあると謎の自信が湧いてきた
「四人?多くない?」偶然とは思えない
「でしょ!気になるよね。それとなく聞いてみるから楽しみにしててね」
まさか同じ家に一人いますとは言えず返答に困った
そこに担任教師と共にエリステーゼが入ってくる
「じゃあね」そそくさと席へ戻る瑠奈
エリステーゼは制服の黒のブレザーがよく似合っていた
自信からかスカートは短めに折っている様だ
いつ用意したのか高そうなベージュのカチューシャをつけている
そしてその後ろにはもう一人男がいた
細い体格で高校二年にしては若く見え、栗色のくりくりとした短髪
藍色のふちの大きなメガネをかけて少し自信なさげな雰囲気をしていた
担任が大きな声で紹介を始めた
「本日から君たちと一緒に勉強をしていくことになった二人を紹介します」
「まずこちらがエリス・ファンデルさん」
「どうも皆様、よろしくお願いし致します」
よそ行きの笑顔で堂々としたお辞儀
「もしよろしければ親しみをこめてエリィと呼んで下さい」
「日本には来たばかりなので色々教えて下さい」
嘘だらけの態度、名前も偽名、《タロット》のおかげで使える流暢な日本語
詐欺師でも開業すれば一財産稼げるんじゃないかと暗に思った
「それからその隣がレイ・ムーアくん」
「よろしくお願いします」
名前から言ってアメリカ人だろうか
発言はそれだけだったがクラスを見渡した後俺の方を見てきた
お前だろ、とも言いたげな目をしている
偶然だと思いたいがエリステーゼの席は俺の後ろ、レイは俺の斜め後ろ
授業中も彼女の相手をしなくてはいけないらしく億劫だ
しかしながらその日の休み時間は見ものだった
二人の元に質問攻めに押し寄せるクラスメイト達
外国人で日本語を話せるものだから皆あれこれと聞いている
彼女にはいい薬だ
もっとも授業中は彼女のピリピリとした空気に耐え続けることになるのだが
四限目の最中ふと窓の外を眺めると旧校舎の方に一人の生徒が走っていくのが見えた
見たことのない生徒の様な気がしないでもない
授業が全て終わると瑠奈がエリステーゼの元に寄ってきてこう言った
「ねぇ、ファンデルさん。転校してきて施設とかわからない事も多いでしょ。一緒に見に行かない?」
エリステーゼが一瞬こちらに視線を送る
断る理由が欲しかったのだろう
しかし切り替えて応対した
「エリィでいいのよ、えっと…?お名前を」
「蒼月瑠奈です。私も瑠奈でいいよ。ねぇ聖も行かない?」
話を振られ考える
一緒に行ってもいいがどうも他の転校生が気になった
エリステーゼも知りたいはずだ
「今日は用事があるから…」と言いかけたところでお姫様が被せた
「そういえば私職員室に呼ばれているの」
来いと言うことだ
「それなら途中まで付いていくよ」
「決まり決まり!ほらエリィさん行くよ!」
そういう事になった
職員室でエリステーゼと瑠奈が担任と話している
待っていると入ってきた女生徒が若干高飛車な声でエリステーゼに話しかけた
「あらファンデルさん、お久しぶりね」
ブロンドの髪をカールさせさも//
エリステーゼより少し身長が高い
見下ろしながら挑戦的で見下すような目で彼女を見つめる
「あなたは…」
エリステーゼが動揺している
やはり転校生は彼女の知り合いだったようだ
「忘れていても無理はないわ、大分昔にお会いしたきりでしたものね。ファレーナ・グラスフィールドですわ」
「あぁ…、お久しぶりね」
担任が驚いた様に二人の会話に入る
「二人は知り合いなの?」
「えぇ、親が顔見知りなものでで何度かお会いしましたのよ」
「そうね…」
「私は隣のクラスにいるわ、またお話しましょうね」
エリステーゼがなんとも気まずそうだ
それを察したのか瑠奈が気をきかせた
「先生、もう行ってもいいですか?」
「そうね、暗くなる前にお願いできるかしら」
「それでは失礼します」
ファレーナが目ざとく質問した
「どちらへ、行かれるのかしら?」
「エリィさんに校舎の紹介をしようと思って行くところです」
「私たちもついていってよろしいかしら?」
私”たち”…?
そこで二人の男女が入ってきた
一人はレイ、もう一人は見たことのない女だった
黒髪ショートのボブ、眠そうな目をしていて何かを考えているのかわからない
「家庭の事情で三人で越して来ましたの、折角ですからご一緒させてもらいたいわ」
やはり他の三人は向こうの尖兵のようだ
「いいわね、涼森さん一緒にお願いできるかしら」
「エリィさん、いい?」
「構わないわ」
「決まりね、行きましょう!」
そういう事になりそうだったがレイが口を挟んだ
「僕は先に帰るよ」
なぜかこちらに視線を送ってくる、話があるのかも知れない
「俺も帰ろうと思う」
エリステーゼが不機嫌そうな顔をしているがレイの方が気になった
それに瑠奈の前で何か仕掛けて来るだろうか
「瑠奈、頑張れよ」
瑠奈に悟られない様に言葉に気をつける
ファレーナが冷ややかな笑いを浮かべている
さて、どう動くべきか…




