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1. -世界を渡る地球儀-

朝、ベットの中で目覚めた星方聖は睡眠中に見た夢の内容を思い出していた

父親と天体観測をしていたら星が遊んで欲しそうに寄って来て戯れてた様な内容だったように思う


家には自分の他は誰もいなかった

母は14才の頃に死別、父は有名な新聞社の特派員として海外を飛び回っている

洗顔、朝食の準備、洗濯を済ませ登校の準備をする


聖の通う高校は都立高校であり周りより少し偏差値が高い

近いからという理由で受けた受験の大変さは今でもよく憶えている


高校は歩いて通える距離にあって駅前の繁華街を通る道だと15分くらいだ

まだ余裕があるな、と思いながら朝食を食べテレビを見る

世界は至って普通

そういう風にしか思えなかった



家の鍵を締め高校への道を歩いていると猫が気だるそうにこちらを見つめていた

猫の恩返しだとかなんとか言って二足歩行で歩きだしたら面白いのに

現実は固めてそのままスフィンクスにしてやりたい気楽な奴ばかりだ


聖は昔から想像で遊ぶのが好きだった

雲を大きな帆船に見立て航海に出たり、木々のざわめきが何かの徴と思ってみたり、星を繋いで物語を紡いだりしていた

日常の小さな不思議は彼にとって些細な趣味だった


教室でクラスメイトの鳥島貴彦が話しかけてきた

「よう、昨日のジャンプ読んだか?」


こいつは今年から仲良くなった奴だ

ワンピースの話題で話すようになった奴だけど「昔はワンピースが嫌いだった、でも今のジャンプはワンピースしか読むものがない」が口癖の変な奴

貴彦と他愛もない会話をしているとチャイムが鳴り社会科の授業が始まった


聖は授業は真面目に受ける方だったが社会科はどうも退屈だった

特に歴史は過去の為政者の名前を義務的に覚えることになんの意味があるのか不思議だった

教師の話す面白いエピソード付きの人物に興味を持つのが限界のように思う


興味がなく暇からかふと斜め前の席に目が行った

緒方仁美、同じ小学校に通っていたがそこまで話したことはなかった

黒の長髪で美人、至って真面目な優等生という印象

だがそこまで友人は多くない


そういえば、彼女と一度だけ遊んだ時の事を思い出す

近くの歴史ある神社に隣接した公園で大きな木に登ろうとする俺たちを止める彼女

その木に登ろうと誘って来たのは小学校の時の親友

少年野球時代のバッテリーで俺がキャッチャー、あいつがピッチャーだった

一生仲良くするんだろうなと思っていた懐かしい名前を思い出した

桜庭良人

京都の方に引っ越したと聞いているが元気にしてるだろうか


いくつかの授業も受け流し昼休みが訪れた

購買にパンでも買いに行こうかとしていると声をかけられた

「すまん、聖助けてくれ!」

仁科勇樹、中学の時に部活が同じでよくつるんでた奴だ

ポジションはサード、ここぞと言う時に活躍してくれる頼りになるやつだ

「この後数学のテストなんだけどさ、ノート取ってなくてよぉ。貸してくれないか」

「いいよ別に」

馬鹿な奴だと心のなかで思う

でもそういう奴ほど不思議と憎めない

「助かる!また返しに来るから!」

まるで嵐のように去っていったので苦笑いを浮かべるのでやっとだった


その後は購買で希望の菓子パン、チョコレートのかかった甘いやつを手に入れ、教室で貴彦と話しながら過ごした

思い返して見ても普通の一日だったように思う


あれを見るまでは



授業も終わり校舎を出たあたりで見慣れた顔と出会った

瑠奈、小学校時代の幼馴染

良人と三人でよく遊んでいた

「おい瑠奈、部活か?」

「おやおやこれはこれは~」

さも嬉しそうににやにやしながらこちらに来る

「今からランニングに行くんだ」

「長距離だっけ?」

「短距離だけどこういうのは皆でやるんだよ。聖はもう帰るの?」

「家のことをやらないといけないから」

中学までは野球部に所属していたけれど母親が亡くなってからは家の事を自分でやらなくちゃいけなくてやめてしまった

「そっか、また遊ぼうね」


最後に遊んだのはもういつだろうと思いを巡らす

中学の卒業式の前だったろうか?

しばらく遊んでいないことは確かだ


そんな事を考えながら学校から駅への坂を降りている最中、ふと空の方を見るとそれはあった

「な、なんだあれは…」

地平線の向こう側から空の奥の方、まるで地球の外側にあるかのような黒い柱

地球儀の内側で外を眺めているような気分になる

まるで誰も気づいていないけど始めから地球はそうだったというかの様にそれはある

そしてよくみるとその柱の先、空の天頂、地球儀の弓の先端から光の柱が降りてるのが見えた

駅前の繁華街の裏、その辺り


なぜそこなのか、なにがあるのか、そんなこと全然わからなかったけれど何かに惹かれるように聖は走りだしていた

妄想だとしても、想像と現実が混じり合い境界が壊れてしまったかのような衝撃



空には一つ、《星》が輝いていた

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