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9. -吊られた男-

エリステーゼが聖の高校へ転校し、ファレーナと戦闘したその晩の事である

緒方仁美は受験のため学習塾へ通っていたがその帰り道に同じ高校の女生徒を見かけた

あまり見かけない顔、最初は気にも止めなかったがどうも彼女の目が血走っていた事が気になった


緒方仁美、聖のクラスメイト

成績も優秀でクラスでも委員を務めるなど人気のある方だ

彼女もまたエリステーゼの姉であるマリアンから《タロット》を授かり《王位継承戦》のことは知っていた

四人の転校生、しかもその一人は以前より聞いていたマリアンの妹だったのだ

もしかしたら何かあるかも知れないくらいの気持ちで後を付ける


ふと路地を曲がったところで永久の姿が見えなくなった

辺りを見渡してもいない、気づかれた様子はなかったのに

様子を伺っていると屋根の上の方から物音がする

そっち?と空を見上げると思わず恐怖に震えてしまう

大きな満月を背景に女の首吊死体が宙に浮いている

ロープはどこから垂れているのかはわからないが、そのロープに吊るされた女はおそらく先程の女生徒だろう

しばらくすると死体が屋根に落ち、《反転》の白い光によって仁美は視界を見失った


周囲はフローリングの何もない部屋だった

所々ランプの様なものが置いてある

横にはクラスメイトの蒼月瑠奈が横たわっている

「蒼月さん?!」

先程の死体は見間違いで女ではなく瑠奈だったのかと焦る

「ふぁ…、あれ緒方さん?私部屋で寝ていたはずなのに…」

瑠奈は寝ていただけだった、しかしなぜ彼女がここに

「どうして…、えぇとここは」

しかし説明をしようにも自身もあまり理解出来てない事に気が付いた

「緒方さんも《タロット》持ってるの?」

「そう、蒼月さんも?!」

「えぇ、私も。エリィさんから貰ったの」

エリィ…、エリステーゼ。やはり動いていた

「それでここはどこ?」

「ここは…」仁美はそう言われてまた返答に詰まった

「あの、私ここに来る前に女の首吊り死体を見たの…。そしたらそれが光りだして」

「首吊り!?それは…」


瑠奈から今日あったという永久とファレーナとの一悶着を説明された

女が首を吊っていたと言うのであれば、相手は十中八九転校生の佐々木永久と《吊られた男》

そして私は《反転》して《吊られた男》の世界にいる事を彼女に伝えた

「この世界のどこかに《主》である《吊られた男》がいるはず、そいつを探す必要があるわ」


「吊られてるのはどちらかと言うと君たちの方だとボクは思うけどね」

天井の方から声がした

「ようこそ、ボクの世界へ」

天井を見ると長い長方形の机とその両脇に数脚の椅子、机の上には幾種類かのお菓子とティーセット、そしてその上席には一人の男が座っていた

長身でバサバサの長髪、紫が基調の奇抜なスーツに頭の上には小さなハットを被った男

「ボクの名前はマッドハッター、お茶でもいかがです?吊られたお嬢様方」

そう言われ逆さなのは自分たちの方だと気がつく

どうやらはじめから全て見られていたようだ

瑠奈がその場でジャンプし向こうへ行けないか確かめる

「あのー!そっちに行けないんですけど」

「そっちのドアから来れるよ」マッドハッターが斜め後ろのドアを指差す

そのドアからを通ると確かに床に重力があり床面に足がついた

「すごい、不思議ー」瑠奈が気の抜けた声でそういう

「どうぞ、かけて。お茶を飲みつつ説明をしよう」

マッドハッターの指を振る仕草に合わせて紅茶の入ったティーカップが出てくる

「すごい、魔法みたい」瑠奈は子供の様に驚く

「そう、面白くてわかりやすくて…、楽しいだろ?」

マッドハッターは久々の来客を本当に楽しそうに笑っていた

しかし仁美からすれば明らかに油断を誘っている様に思えた

いつ仕掛けてくるのかわからないがとりあえず誘導に従う

席に腰掛け瑠奈がお茶を一口啜る

「うわぁ…、なんかオシャレな味」

「お気に入りのロイヤルブレックファーストでね、楽しんでね」

仁美も気を取り直し紅茶のカップに手をかけたところでマッドハッターが言い始めた

「さて、ルールの説明に移ろう。ルールは帽子を下に落としたら負け、以上。さぁ好きな帽子を選んで」

マッドハッターがそう言うと机の上のお菓子はいつの間にか帽子に変わっていた

コック帽、麦わら帽子、紳士の被るようなトップハット、ボウラー、ディアストーカー

チロリアン、キャプリーヌ、ベレー、ブルトン、ボンネットはては魔女の帽子までかなりの種類が並んでいる

お茶を飲ませる気はないらしい

テンポを獲られた事に少しイラッとした


仁美は瑠奈が帽子を物色している間、先程のルールについて考えていた


「私、可愛いしこれにしようかな」

彼女はシャーロック・ホームズの被るようなディアストーカーを選んだ様だ

それを被ろうとした時、何か首筋にロープの様な影が見えた

「蒼月さん!」

仁美は《女帝の傀儡》を発動し飛び掛かる

《女帝の傀儡》は文字通り《主》ドールマスターの傀儡となりその加護を得る

身体強化、飛行能力、そして与えられたレイピア

レイピアでロープを切断し彼女を助ける

「ダメだよ、それは男性用のハット。女性用の中から選んでもらわなきゃ、また吊るされる所だったね」

「えっ…!あ、ありがとう緒方さん」

「少しは警戒しないとダメでしょう!」

思わず怒ってしまい反省する

なぜかマッドハッターの方も心なしか表情が暗くなったように思えた


そのまま二人は帽子を選ぶふりをして小声で作戦会議をしていた

おそらく敵の狙いは見えないロープによる絞殺

そのため先程と同じ様に瑠奈を前衛においてマッドハッターと相対し帽子を狙う

そして仁美がロープに対する警戒と後方支援が良いという事になった

またマッドハッターがドアを使って逃げた際は別のドアから移動すべきだと提案した


仁美は落ちない様にと深くまで被れる黒のボンネット、瑠奈は青のベレー帽を選びマッドハッターに合図する

彼は少し退屈そうだったが表情を切り替えてこちらを見る

「二人共とてもお似合いだね…。じゃあ始めようか」

少し気の抜けた雰囲気

瑠奈とアイコンタクトを交わし前に踏み出すーーー


腹に鈍い痛み、一瞬気を失っていたかも知れない

何が起こったかわからない

視界の端で瑠奈がうつ伏せに倒れている…

自分も壁に打ち付けられた様だ

一体…?


「あれ?言わなかったっけ?ボク結構肉体派なんだよね。」

マッドハッターは仁美を見下ろしながら笑みを浮かべた涼しい顔で続ける

「こういう重力無視した部屋とかさ、ロープとか、帽子とか面白いだろ?メルヘンっていうかファンタジーっていうか、折角想像力を使えるんだから楽しいものを作ろうと思ってさ。でも、ボク自身は格闘技が好きでね、鍛えた体で戦いたかった。だからこやって相手を油断させる演出として使ってるって訳…」

見下した眼で最高に楽しそうにそう言う

「油断、しちゃったねぇ」

「緒方さん!」

瑠奈が間に飛び込むように割って入る

「大丈夫?!次は私が守るから」

心が折れかかっていたのか彼女の声にはすごく元気付けられた

やるしかない!

「大丈夫!行けるわ!」

「でもさぁ緒方さん、帽子は?」

そう言ったマッドハッターの手には私のさっきまで被っていた黒のボンネット

自分が帽子を被ってない事に気付く

マッドハッターは帽子をひらりと手から離し足を高く上げた

「やめてぇええええええええええええ!」

「はい、おしまい」

ボンネットが地面に踏みつけられると同時に仁美の体が吊り上がる

瑠奈のロープの時とは全然違う早さ

頚骨のゴキリという音と共に仁美は意識を失った

「緒方さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

瑠奈も悲鳴を上げ地面にへたり込む

「さて、どんな奴が来るんだろうね…」

縄が消え仁美の死体が地面に落下すると同時に姿が変わっていた


《反転》

出てきたのはスラッと身長が高くブロンドの髪をなびかせ目のクリっと大きな美少女の様な人形だった

《ドールマスター》、人形に憧れ人形になった女性

人の魂を人形にし使役する《女帝》


彼女は不機嫌そうな目でマッドハッターの方を見て言った

「私のお人形、壊さないでくれる?」

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