第1話 私、生誕
突然ですが、友人のやっていた乙女ゲームの世界(たぶん?)に転生しました。
え、なにを言ってるのかわからない?
あはは、私もー。
よくわからないけど、乙女ゲームってあれでしょ?ヒロインとなんかイケメンの男の子がくっつくゲームでしょ?
ちゃちゃっとエンディング目指して、クリアしたら帰れるんよね?いよっしゃー!張り切ってクリアするぞー!
―――と思ってた時期が私にもありました。
「はるかさま、こちら嘉良国で流行りの甘味でございます」
「はるかさま、按摩はいかがですか」
「はるかさま、以前ご所望の書物が届きましたのでこちらに」
にょほほほほ、皆の衆、くるしゅ~ない。
わはは、なんつて。
神宮司晴香、乙女ゲーム攻略よりも今世の生活を、ぞんぶんに謳歌してます!
まあね?私もね?
この世界転生して、記憶取り戻して、よっしゃゲームクリアじゃうおおおおと思ってたよ、最初は。
はたと気づくじゃん。
ヒロイン、だれ?
でもきっと美形=ヒロインの法則は普遍の摂理!
美形あるところにヒロインあり!
張り切ってヒロイン探すぞー!!
張り切って、こぶしを振り上げてさ、気づくじゃん。
どうやって?
目に映るこぶし、ぷにぷに、もみじのかわいいおてて。
「だぁうっ」
あだぷー、わたし、赤ちゃん。
歩けません、話せません。
くじかれたどころじゃない、出鼻ぼきぼきっすわー。
「ふぇええええ」
思考も幼児退行しているのか、すぐ泣くし私ってば感情表現がまるで赤ちゃんよ。
あ、赤ちゃんだったわ。
「あらあらはるか、どうしたの?」
そういって柔らかく笑む美女、私の今世のママン。
隣にはこれまた美しい面のパパン。
まぶしー、パパもママもまぶしー。
ママンのやわらかい腕に抱かれながら、あぶあぶしゃべる。
嬉しそうに笑う両親、ほあ~眼福~~。
「母上様、わたしも!」
「ぼくも!」
傍らには人形みたいに美しい兄ちゃん姉ちゃん。
おおう、美形家族。
―――まって。っていうことは?
にょほほ、これは将来期待しちゃお!
……そう思ってたのにさあ!!!
鏡のなかの女の子は、不満そうなぶすくれ顔でこちらを見ている。
姉さま兄さまたちと違って、全体的につくりの小さめのパーツ。
妹ラブ、娘ラブな家族たちは贔屓目100%でかわいいかわいいと言ってくれるけど、んー
「どこをどうとっても平凡なこのお顔!」
おいおいこういうのは定石通り美形でいいだろ!
なぜここで無駄に遺伝子に反逆したし!
意義あり!責任者でてこい!
髪の毛むしりちぎってやる!
うおおおお!
筆でまだ見ぬ責任者をかきあげ、びりびり破る。
ふんふんと鼻息荒く、特に頭の部分を重点的に破る。
「はるか様、ちせです。入りますよ」
しわがれた声が聞こえ、びくっと肩が震えた。
あっと思う間もなく、ふすまがさっと開かれた。
やっべ、
「はるか様」
室温が何度か下がった気がする。
すっと細められた目が私の足元、破られた紙屑を見る。
それをそそくさと片付け、姿勢を正す。
こほん、
「なにかしら、ちせ」
頬に手を当て、首をかしげる。ちせは眉間に皺を寄せ、声に怒りをにじませる。
「はるか様。はるか様ももう七つ。何度も申し上げておりますが、いい加減に神宮司家のご息女であるという自覚をお持ちになって―――!」
「おおお説教は後で聞くから、ねえねえそれより何か用件があったんじゃない?」
「言葉遣い…、いえ、お話は、ええあとでたっぷりと。旦那様がおよびですよ」
天の助けとばかりに、父様のもとへ馳せ参じる。
ちせの、走ってはいけませんという言葉を背に受けて父様の書斎のドアをたたく。
和洋折衷、私の部屋は畳だが、父様の部屋は洋式だ。