53 お似合いの二人
「えっと…………水面さんや。どうして神田がここに?」
水樹宅の玄関先。水樹は楓はともかく、その場に未来がいることを不思議に感じていた。
そしてその理由を口にしたのは未来だった。
「ごめん。急に押しかけちゃったことは悪いと思ってるんだけど…………その、料理を教えてくれない?」
「はい?あの…………唐突過ぎて話が見えないんだけど」
「すみません。私ももう少し早くに峰崎くんに聞いておくべきでした」
「いや、別にいいけど…………取り合えず中に入るか」
そうして水樹は未来を自宅に招いた。
そして昨日と少しばかり似た状況になる。
水樹と楓が隣に座り、向かい側に未来が座る。そしてここに至るまでの経緯が説明されていった。
「話は大体ハルくんから聞いてるんだよね?」
「ああ、大体な。で、どうしてそれが俺に料理を教えてくれになるんだ?」
「実は私も、その怒り過ぎたことは自覚してる。たかが料理でって。でも後々自分が作った料理を食べてみたら凄く不味くて食べられるものじゃなかった」
「えっと、つまり本心ではとっくに春馬を許してて、本当に許せないのは料理が下手な自分ということか?」
「まあそういうこと」
「なるほど。だから料理を教えてくれって訳ね」
事情は把握した。結局結論は春馬と未来がお互いの気持ちを考えすぎたが故にこじれた喧嘩というわけだ。
「身の回りに料理できるの峰崎ぐらいしかいなくて…………丁度水面さんも声を掛けてくれたから…………その、一日、今日だけでいいから私に料理教えてくれない?」
「いいよ」
「え?あっさり」
「まあ乗りかかった船だし、そもそも断る理由ないし。時間も惜しいし早速始めるか」
こうして春馬と未来の関係をもとに戻すことを目的とした料理教室が始まった。
「で、何を作りたいんだ?」
すると未来は恥ずかしそうに答える。
「フ、フレンチトースト」
「ほほ~」
「何よ」
「いや、意外に可愛いものをご所望だと思いまして」
「うるさい」
水樹と未来はすっかり仲が良くなっていた。出会った当初、互いに堅苦しい敬語を使いあっていたとは到底思えない。
「でもまあ春馬が好きそうだな。あいつ甘党だし」
「作れるの?」
「まあ問題ないと思う。…………それと、水面も参加するのか?」
「ダメなのですか?」
「いや、いいけど…………」
心配なのはどんな惨状が訪れるのかである。水樹は忘れないジャスミンティーが黒い液体とかした悲劇を。
とまあそれはさておき、水樹の料理教室が始まった。
「フレンチトーストは一見簡単そうに見えるけど実は難しい。火加減が強すぎると簡単にパンが焦げたり逆に弱すぎると生焼けであまり美味しくなくなる。火加減の調整が重要で、それがまた難しいんだよ」
「そうなのね」
「勉強になります」
そしていざ実践してみるとやはり最初は未来も楓も火加減のコツが掴めず焦がしたり、生焼けになることが多かった。
しかし暫くして、徐々に二人はコツを掴んでいき、日が暮れたころには上手く焼けるようになっていた。当然味も上出来。
丁度満足のいくフレンチトーストを未来が作ることができたタイミングでインターホンが鳴った。
「お、来たか」
水樹は玄関へ向かう。
そして次にリビングに戻ってきた時には春馬も一緒だった。
「は、ハルくん?」
「未来…………てか水樹。コレってどういうことだよ」
お互い心の準備ができていなかったのか水樹を睨みつける。
だがこれでいいのだ。お互いに心の準備何て待っていたらいつまでたっても仲直りできない。それは親しい中だったらより一層である。
水樹は楓を呼んでリビングの隅に退却し、春馬と未来を見守る。
「よ、よう未来」
「うん」
「で、未来はどうして水樹の家にいたんだ?」
「そ、それは…………コレ」
そう言って未来は春馬についさっき作ったばかりのフレンチトーストを差し出した。
「コレ、未来が作ったのか?」
「う、うん。食べて欲しい…………」
若干春馬の顔が引きつる。しかし彼女の頼み、春馬は一口でフレンチトーストを口に中に放りこんだ。
そして、
「お、美味しい」
「本当?」
「ああ、これは美味しい!!」
どうやら出来は完璧だったらしい。しかし本題はここからである。
真の目的は謝り、元の関係に戻る事なのだから。
「その…………ハルくん。ごめんなさい。私あの時強く言い過ぎた。それに私自身作った料理美味しくなくて、あとになってハルくんが気をつかってくれてたことに気付いたの。でもどうしても美味しいって言ってほしくて…………」
「俺もごめん。流石にあの時はひどいこと言ったと思ってる」
「じゃあこれでチャラだね」
「ああ、そうだな」
二人の間にはいつものような笑顔が戻っていた。
どうやら今回の作戦は成功したようだ。
「よし、これで解決だな」
「ああ、水樹に水面さんも協力してくれてありがとう」
春馬と未来はそろって水樹と楓に感謝を述べた。
それに楓は頬を緩ませる。
「おいおい何終わった空気出してるんだ?」
「ん?水樹?」
「まだ、これ食べきってないだろ?」
そこに並んでいたのは失敗したものからある程度成功したフレンチトーストがずらりと並んでいた。
「お前らコレ食切るまで家に帰さないからな?」
一瞬にして水樹以外の三人の顔が強張った。




