51 一息ついて
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午後5時を回り、夕食時になると春馬、未来、千歳の三人は家へと帰っていった。
水樹は夕食も食べていってもいいと勧めたが三人そろって迷惑だからと言って帰ったのだ。
そして今は比較的静かになったリビングに水樹と楓はいた。
「何とか終わったな」
「はい。本当にありがとうございます」
「それ、また皆に合ったら言っとけよ?」
「分かっています」
「ならいいけど」
そう言って水樹は立ち上がりキッチンへ向かった。
「夕食の準備始めるわ」
その一言に座っていた楓も立ち上がりキッチンに立つ。
「ん?どうした?」
「私も手伝います」
「えっと…………どういう風の吹き回し?」
「いえ、私も頑張る理由ができましたから」
「今更?」
「別にいいでしょう?やる気になったのですから」
「まあやらないよりはマシだけど、大丈夫か?」
「そこら辺の力加減は峰崎くんにお任せします」
「はぁ」
二人は並んでキッチンに立ち調理を始めた。
水樹は楓のできそうな役割を見極めて指示を出す。楓はその指示を真剣に聞き丁寧に取り組む。
(やればできるじゃん)
水樹はふとそう思った。
多少ぎこちなくても、時間がかかっても前向きに取り組む楓の姿はとてもカッコよく水樹には映った。
「…………次は何をやればいいですか?」
「え、あ、うん。それじゃあ盛り付けの方やってくれるか?」
「分かりました」
水樹は真剣に作業に取り組む楓を見て、
「何で急にやる気になったんだ?」
思ったことを素直に口にした。
「それ、気になりますか?」
「まあ個人的に気になるな」
「料理が得意になれば、手伝えますし…………」
「はい?」
「だ、だから料理が得意になれば峰崎くんを手伝えると言ったんです!!」
水樹は明らかに不意を突かれたといった表情で赤面する。
そりゃあ誰だって可愛い女の子から『あなたを手伝うため』なんていわれれば恥ずかしくもなるしドキドキもするだろう。
「何か言ってください!峰崎くんが質問したのですよ?」
水樹の反応に次第に楓の顔も赤く染まっていく。
「そ、そうか」
とは言っても水樹もどう反応すればいいか分からず話はそれ以上続かなかった。
ぎこちないまま調理は進み、気づけば料理は完成していた。
しかし食べ物を口に運んでも、水樹の気はまぎれることなく頭の中にチラつくのは楓の先ほどの言葉だった。そんな様子に楓はしびれを切らしたようだ。
「あの、峰崎くん」
「は、はい!!」
明らかに動揺した返事が返ってくる。
「先ほどの私の言葉、あまり深く考えないでください。あくまで私がいつもお世話になりっぱなしという情況を少し変えたいと思っただけです。おあいにく様それ以上の気持ちはありません」
「そ、そうか…………」
その言葉に水樹は少しホッとした。
しかしその一方で少し気を落とす自分もいた。
「ですから私には今まで通り接してくださいね?料理は頑張りますがそれ以外は頑張れる自信はありませんので」
「いや、頑張れよ!」
「…………」
「…………」
「ふふ…………」
「はは…………」
二人の間にはいつもの空気が戻っていた。
自然と高まっていた感情は落ち着き水樹は普段の状態に戻る。
そんな水樹を見て楓はぼそりと呟いた。
「今はこれで十分です」
「なんか言ったか?」
「いえ、何も」




