05 決まり事と不安
今朝、水樹と楓が時間ギリギリに一緒に教室に入り少々面倒な目にあったことを踏まえ、帰宅の際は怪しまれないためにも時間差を付けて帰宅した二人はリビングてわ臨時会議を開いた。
「それで、臨時会議とは何ですか?」
「いや、そのままの意味だけど?今後の方針について話し合う場」
「それは分かりますが…………一体何を話し合うのですか?」
「いや、これから一か月、ここで家事を手伝うわけだろ?だからそれについてある程度どうするべきか話し合っておきたかったんだよ」
お互い制服のまま、丸テーブルを挟んで話し合いを開始した。
「まず、水面さんはもう少し朝早く起きないとな」
「善処します」
でないと毎日変な誤解を招くことになる。
「食事とかは基本全部俺が担当する。だけど買い物とかについては二人で分担しようと思う」
「買い物ですか?でも、私は料理ができませんよ?買い物と言っても何を買えば?」
楓が首を傾げる。まぁ当然の反応だった。料理ができない人間が献立を考えて買い物できるはずがない。
「まぁそこは気にするな。俺が買ってきてほしい材料とかのリストは作っておくから」
リストさえあれば例えどんな人(生粋の生活破綻者)でも買い物は出来るはずだ。何せ『はじめてのおつかい』というテレビ番組があるレベルなのだから。
「それなら問題ありません」
「あとは決まり事だな」
「決まり事ですか」
「うん。例えば下着は自分で片付けるとか」
「…………はい」
「まぁあとは学校での会話」
「そうですね。今日みたいなことは今後起こっても面倒なだけですし」
「ああ、だから学校では極力今まで通りでいこう」
「了解です」
「じゃあ今はこのくらいで」
「たったそれだけですか?」
「今はな?」
「今は、ですか」
「そりゃそうだろ?だって俺がここで家事をするのは一か月だけだろ?だから最終目標はこの一か月俺が家事をやっている期間内に水面さん自身が一人でも生活できるようになることだよ」
これが今後の目標。
ただ家事をこなすだけじゃあ楓の役には立っても今後のためにはならない。水樹が一か月のバイト期間を過ぎて楓が一人で生活できるようになっていないと意味がないのだ。つまりはレベルアップ方式。生活ができるようになっていくにつれて指定する決まり事も増えていく。初めの内はもっと根本的な問題。例えば女のとしての自覚(特に下着の管理)や学校での距離感である。
「なるほど。私が一人で生活できるようにですか」
「ああ、そうだ」
「想像できませんね」
「じゃあ何で一人暮らししようと思った!?」
「…………色々です」
「一時の迷いなら辞めてしまえ!!専属の人の方がよっぽどいいぞ!?」
「気にしないでください。それよりも今日の買い出しはどうしますか?」
「はぐらかしやがって…………買い物は俺が行くよ」
「お願いします」
楓は律義にお辞儀し、水樹は立ち上がった。
「あ、そういえば今日学校でフォローありがとな」
「いえ、私も貴方なんかと付き合っているなんて噂されるのは心底気分が悪いので」
「ああ~そうですか」
水樹は内心感謝の言葉を述べたことを後悔した。そしてそのまま靴を履き替え、最寄りのスーパーへと向かっていったのだった。
「」
水樹が帰宅したのは家を出てから丁度一時間後、楓本人から渡されたスペアキーで扉を開け中に入った。
「…………泥棒でも入ったのかな?」
それが部屋に入った時の第一声だった。
人が一人通れるくらいの狭い廊下には無造作に脱ぎ捨てられた制服。更に視界に入るのは淡いピンクの下着たち。
「言った傍から何してんだよ…………」
水樹は肩を落とした。
「あ、帰ってきましたか」
そして平然と私服姿でリビングから姿を見せる楓。
「あの~水面さん?」
「はい」
「これは一体どういうことですかな?」
水樹は廊下に散らばった服を指差す。
「えっとですね…………汗をかいたのでお風呂に入らせてもらいました」
「いや、そこじゃなくてね。何で脱いだ服がこうも一か所に固まることなく、散乱してるのかってこと!!」
「服にはきっと意思があったんでしょうね」
「お前、こういう時だけ往生際悪くない!?」
さっと目線を逸らす楓に水樹は肩を落とす。
「夕食の前に片付けるか…………」
これから水面楓という人間が本当に生活できるようになるのか。今の水樹には一か月後、生活できている楓の姿は想像できなかった。
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