45 らしいこと
評価、感想ありがとうございます。
時刻は午後4時をまわった。
デートもいよいよ終盤で、水樹と千歳にとってはあっというまの時間だった。
「水樹君とショッピングできて楽しかったよ」
「俺も楽しかった、かな」
純粋に2人の時間を楽しんでいた水樹。ゆえに改めて『楽しかった』という言葉を千歳から聞いて少しむず痒がった。
「今から帰れば暗くなる前には家に着くと思うけど、水樹君はどうする?」
「俺は別に門限とかないから。冴枝さんは?」
「私もないかな」
「だったら1箇所、寄りたい場所があるんだけど」
「水樹君の寄りたい場所?いいよ、行こっか!」
心なしか嬉しそうな千歳を後ろに水樹はモールの中を歩き始めた。
そしてたどり着いたのはモールの一角にある大きな書店だった。
「本屋さん?」
「ああ、実はさっき調べたんだけどあの映画って原作が小説なんだってな。だからそっちを見てみたいなって思って」
「え、えっと...水樹君は本にも興味があるの?」
「う〜ん....暇な時にペラペラっと読む程度かな」
「だったらどうして?」
「別に今から興味持ってもいいだろ?それに冴枝さんって昔から本が好きそうだったし、この機会に何かおすすめのとか聞きたいし」
「そ、それなら私が教えてあげる!!」
今日1番の千歳の笑顔だった。
そして千歳は再び水樹の手を取り書店の中へ向かった。
「さっきの映画の原作がこれなんだ!それでねこっちが同じ作者さんが書いたもうひとつのミステリー小説!でねでね.....ごめん」
千歳は顔を赤くして落ち着いた様子で水樹に謝った。
どうやら我を忘れて本の紹介をした自分が相当恥ずかしかったのだろう。
「いやいや、気にしてないから」
「なら、いいんだけど。....相変わらず変わってないね、私も水樹君も」
「どういうことだ?」
「どれだけ見た目を変えて可愛いって言われるようになっても結局性格までは変わらないんだよ。私ももっと女の子らしくなりたい。だけど本が好きな暗い性格までは変えれなかった」
前も言ったが千歳には昔いじめられていたという過去がある。当時は本が好きそうな眼鏡をかけた暗めの女の子だった。しかし今はたったの一週間でクラスの人気者になるほどの可愛い女の子になった。だが性格は何一つ変わってなかったということだ。
「ん〜俺の個人的な意見だと別に変わらなくてもいいと思うけどな」
「それはダメだよ!せっかく....せっかく変われたのに」
「いや、俺も正直分からない。ここで『昔の君も可愛かった!』だとか『本が好きな君もいいと思う!』とか、カッコイイ台詞は言えるたちじゃないし...正直恥ずかしすぎるだろ」
「つまりはどういうこと?」
「ん〜.....好きにすればいい、かな?」
「さっき変わらなくてもいいって言っておいて?」
「あ〜〜ん〜〜」
水樹は頭を抱える。
正直他人の悩みを払拭してあげる技量は水樹には無い。しかしそれでも心配する権利はあるのだ。ゆえに水樹は答えも纏まらずに何か少しでも悩みを解消できる答えを探しているわけで。
そして結局曖昧なまま口にしたのは、
「好きにすればいいよ、やっぱり」
「ふふ....何それ」
そんな水樹の答えに千歳は笑った。
「ん?冴枝さん?」
「そうだよね。私の悩みは私自身のものだし」
「えっと...もしかして俺こじらせた?」
「そんなことないよ。水樹くん、慰めようとしてくれたんでしょ?」
「.....ノーコメントで」
「そっか....じゃあ私の好きなようにするよ。学校では今までみたいに変わった冴枝千歳でいる。でも趣味で読書は楽しむ。自分の嫌いな、根暗な部分も趣味として受け入れる」
どうやら水樹の心配は決して無駄ではなかったようだ。
「そっか」
「うん、そう」
「じゃあ俺、その本買うわ」
「これ?」
水樹が指さしたのは千歳がオススメしていた作家の本だった。
「結構難しいよ?」
「望むところだ」
二人は控えめに本屋で笑いあった。
(互いのことを知る、それがデートか)
いつかの春香の言葉を水樹は思い出し、二人は本屋を後にした。
最後の最後で一番デートらしいことをした。水樹はそう感じた。