42 青春の予感は突然に
翌日、学校に行くとやけに水樹のところに視線が飛んできていた。
そして水樹が自分の席に着くと何故か数名の女子がやってきて、
「コレって本当に峰崎君?」
と尋ねる。そして差し出されたのはある一枚の写真。
それは例の海での楓との写真だった。と言っても水樹が移っているのは背中だけ。
(え?何でバレてるの?)
水樹は慌てて視線を春馬に贈る。しかし春馬は両手を挙げてさっぱりといった表情を浮かべている。続けて楓に視線を向けると心配そうな目線で水樹を見ていた。
どうやらどちらも自分から郊外していないらしい。
(だとしたら神田?それとも真田さん?いや二人に限って言いふらすようなことはしないはず)
つまりは考えられる原因は単に他人が気づいてしまったということのなのだろう。だが良くそれだけで分かるものだ。
正直ここで俺だと言ってもただアシスタントを務めたと言えばどうにでもなる話だが妙な噂が立つのも嫌だ。水樹は何としても嘘をつき通すことにした。
「いや、俺じゃないよ?」
「え?そうなの?」
「う、うん。………でもどうして俺だと思ったんだ?」
「あ~昨日皆で千歳ちゃんの歓迎会に行ったとき丁度話題がこの写真になってね、それでこの人よく見たら峰崎君にそっくりじゃないかって話になったの。でも本人が違うって言ってるし違うんだよね。よく考えれば後姿だし」
「お、おう」
「ごめんね迷惑かけて」
こうして何とか無事隠し通すことができた。
春馬も楓もどことなく安心といった表情をしている。当然水樹もホッとする。
「水樹君」
「ん?」
しかしどうやら話はそれだけでは終わらないようだった。
次に声を掛けてきたのは千歳だった。
「ああ、冴枝さん」
「別にそんなに堅苦しくしなくていいのに。私も千歳でいいよ。何だか親しくしてるこっちが恥ずかしくなるでしょ?」
「いや、流石に急には」
「そっかっそっか。…………それよりもどうして否定したの?」
「え?」
「いや、写真の男の子って間違いなく水樹君だよね」
どうやら昨日勘づいたの千歳だったらしい。
その眼は真っすぐに水樹を見つめ、確信しているようだった。
「ど、どうしてそう思うんだ?」
「分かるよ!私だってイメチェンした身だし。何せ水樹君だし」
「で、ばらすのか?」
水樹は否定することも無く肯定の意を千歳に見せた。そして疑いの目つきで千歳を見つめる。
「いやいやそんなことしないよ。ただどうして隠すのかなって。別にカッコいいって学校の皆に知られても良いんじゃないの?まあ後姿だけど」
「いや、そんな大したことじゃないし、何より俺よりも困るやつがいるだろうから」
誰が、とは言わないものの該当する人物は一人しかいない。
「そっか。今も変わらず相変わらず優しいんだね水樹君は」
「今も変わらず?」
「何でもない。でもそれって水樹君って水面ちゃんと付き合ってるからってこと?」
「はい?いやいや無いから」
「な~んだ。心配して損したよ」
「心配って…………」
「それじゃあさ、私とデートしない?」
「ん?」
水樹は突然の千歳の話に目を丸くする。
「だから付き合ってないんでしょ、水樹君」
「いや、まぁそうだけど」
「だったらいいでしょ?」
「え?あ、はい?」
「だから、水樹君。今誰とも付き合ってないんでしょ?だからデートしない?」
「いやいや、どうしてそうなる?」
「ダメ?」
そんな甘えたような目線を向けられてときめかないわけがない。
気付けば水樹は「分かった」と照れながら了承していた。
何が何だか分からないまま結局水樹はデートの約束を引き受けてしまった。
「やったね!じゃあ今週末かな。連絡は…………そういえば連絡先交換して無かったね」
「ああ、うん…………」
二人は互いにスマホを取り出し連絡先を交換した。
「じゃあまた連絡するね」
「わ、分かった」
水樹はすっかり千歳のペースに飲まれ、あれよあれよという間に連絡先を好感しデートの約束までしてしまった。
「何でこうなるんだよ…………」
相変わらず自分が情けないと思う水樹。そして千歳が去っていった後に残るのは途轍もない疲労感と男子からの鋭い視線だった。
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