40 新学期の幕開け
評価、感想ありがとうございます。
まだ暑さ残る9月1日。
教室の扉を開ければ、また学校が始まったと実感させられる。
かなり肌が焼けた運動部やお土産を配り合う女子生徒と教室の中は賑やかだ。
そんなどこか休み明けの新鮮な雰囲気の教室に入り自分の席に座ったところで、夏休み前と何ら変わらない様子で春馬が話しかけてくる。
「よ、水樹。おはよう」
「おはよう」
「昨日はありがとな。おかげで遅れずに提出できる」
「そう思うなら計画的にやれって…………それよりもあの人だかり何?」
そう言って水樹は教室の隅にある人だかりを見る。
そこは教室の中でも特に人が集まって何やら話しているらしい。
(あれ?あそこって水面の席?)
そしてよくよく考えれば、人だかりができているのは楓の席だった。
「ああ~あれ?それは例のやつだな」
「例のやつ…………ってもしかして写真、か?」
「ああ、それもある」
「ま、まあそうなるか…………」
「一応聞くけど俺だなんて思われてないよな?」
「ああ、その辺は心配ないと思う」
「と言うと?」
「だって真田さんは写真のことは口外しないって言ってたし何より水樹、少ししか映ってないから」
「ん?」
春馬はそう言うと一枚の写真を水樹に渡した。
そしてその写真を見て、何となく春馬の言っていることが理解できた。というのも写真は楓の笑顔のアップ写真。水樹が移っているのは背中だけだった。つまり顔は一切見えていない。
(な、何でだろう…………心配事がなくなったことは嬉しいけど、ワックスまで使ってカッコつけた自分が恥ずかしくなってきた…………)
「でも、安心はできないと思うぞ?」
「え?何で?」
水樹が疑問の眼差しを春馬に向ける。
すると春馬は周りには聞こえないくらいの声で水樹に呟く。
「いや、写真はどうにかなっても夏祭りのはどうするんだよ」
「あ…………え?つまりあの人だかりって…………」
「写真もあるけど、大半は夏祭りについてだな」
つまりはアレだ。夏祭りに一緒に歩いてた男子は誰?ついでにこの写真はどうしたの?ということだろう。
正直水樹が標的になることは無いが、楓には申し訳ない気持ちで水樹はいた。そしてこっそりと視線を楓に向ける。
楓はおどおどしながら対処に追われているようだった。
(マジでごめん)
そして教室にやってくる人も増え会話も盛り上がってきた所で予鈴が鳴り響く。
それと同時に先生が教室に入り、教壇に立つ。
「みんなおはよう〜」
図太い声が教室に響く。水樹たちの担任は30後半の男性教員。そしてその特徴的な声で発せられた第一声もまた生徒たちを大いに驚かせる。
「で、早速だが転校生がいます」
当然だが、唐突に告げられた発言で教室が一気に騒がしくなる。
そして先生の指示と同時に教室の扉が開かれ、一人の女の子が入室した。
茶髪でショートカットの女の子で、ちょっとほ茶目っ気のある雰囲気が漂っている。それは楓とはまた違う可愛さを放っていた。
「どうも!冴枝千歳です!これからよろしくお願いします!」
雰囲気にピッタリな元気な声で活発な自己紹介だった。
動く度に揺れる豊満な胸やらで男子からは歓声が上がる。一方の水樹はそんな自己紹介よりも冴枝という名字にどこか聞き覚えがあった。
(冴枝?どこかで聞いたような…………気のせいか)
「じゃあ冴枝、後ろの空いてる席座ってくれ」
「はい!」
千歳はステップよく教壇から降り、後ろの席へ向かう。その移動の最中に水樹は千歳と目が合った。
そして控えめに手を振られた瞬間、少しドキリとした。
休み時間に突入すれば、注目はやはり千歳へと向く。楓とはまた違うベクトルの可愛さや、性格を持つ千歳は初日にしてクラスでの地位を確立していた。
「あれが人気者ってやつなのかね〜」
隣にいる春馬が呟いた。
「そうなのかもな」
「あの子どう思う?」
「まぁ可愛いんじゃね」
「だよな」
「それ、彼女持ちが言っていい言葉か?」
「あ、今のナシで」
「何がナシなのかな?」
春馬と水樹の会話に入る第三者の声。
最近では聞く機会が増えた声の主は神田未来その人だ。
未来はしっかりと春馬の話を聞いていたのか結構な力で横腹を抓る。水樹はもだえ苦しむ春馬をよそに未来と話す。
「あ、神田さん」
「おはよう、峰崎」
「おはよう」
「あと、私のことさん付けしなくていいよ?堅苦しいのって苦手だし」
「そうか?じゃあ呼び捨てで呼ばせてもらう」
「うん」
そこで春馬がようやく痛みから解放されたのか会話に混ざる。
「で、未来はどうしてこの教室に来たんだよ」
「うん、ちょっと転校生の顔を拝みに来たの。…………で、あの子が転校生?」
「ああ、冴枝千歳さん」
「何だか楓とはまた違う類の可愛さね。…………それよりも峰崎って学校じゃ楓とあんまり話さないの?」
「あ~うん。学校では一定の距離でって決めてるからな」
「ふ~ん。まあアンタたちがそう決めてるならそれでいいけど…………」
「けど?」
「さっきから楓。凄いこっち見てるわよ?」
「え?」
未来の指摘に水樹は楓の座っている席に目を向けた。
そこには確かに頬をむくれさせてこちらを控えめに睨む楓の姿があった。
「ちょっと私行ってくる」
そして気になったのか未来が楓の元へと向かった。
「水樹は行かないのか?」
「お前。事情知ってて言ってる?」
「まあ…………少しくらいは話しても良いんじゃないのか?別に話すぐらいじゃ怪しまれないって」
「そう、かな」
「そうだよ。じゃあ俺も行ってくるわ」
「あ、ああ」
残された水樹は結局その後も自分の席を立とうとはしなかった。




