17 約束
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「あのさ水面さん。ちょっといいか?」
「なんですか?急に」
現在は午後8時。現在二人は食後の、のんびりな時間を過ごしているときのことだった。
水樹は丸テーブルの向かい側に座る楓に声を掛けた。
「あのさ、今週末から期末テストだろ?だから、その分からないところを教えてほしいんだけど」
「別に構いませんよ?」
内容はテスト対策の勉強だった。
普段の日常で水樹が楓に丁寧にお願いをする機会が少ないせいか水樹はやけに緊張した様子だったが楓はそんな様子を気にすることなく、すんなりと水樹の願いを了承した。
「普段生活を支えてもらっていますし、これくらいで良ければいつでも引き受けますよ?」
「そうか。ありがとう」
「いえ。ですが私の知る限り、貴方は勉強ができる方ではありませんか?」
それは恐らく中間テストの結果を見て述べていることなのだろう。
確かに水樹の順位は決して悪くない。むしろ良いともいえるほどだ。
「あ~まぁ、確かに中間テストは良かったな。でもせっかく目の前に学年一位がいるんだったら教えてもらった方がこれからのためにもなるだろ?」
「まぁ…………分かりました。今からでもやりますか?」
「ああ。それじゃあ数学教えてもらっていいか?」
こうして普段とは逆の立場でミニ勉強会が始まった。
「」
「…………ですから、ここは公式Ⅰを使うことで計算が簡単になります」
「ああ、なるほど」
楓の教え方は予想以上に分かりやすいものだった。
どこが分からないかを明確にした後、分からないところを教科書を参照しながら徹底的に解説してくれる。まさに塾講師並みの分かりやすさだった。
「あのさ、ちょっといいか」
「何ですか?」
「失礼だとは思うけど、普段あまり勉強してなかったように見えてたのにどうしてそんなに勉強できるんだ?コツとかあれば是非教えて欲しい」
誰もが思う疑問だった。
頭が良い人間は普段勉強していないように見えるのにどうして勉強ができるのか。
「コツ何てものはありませんよ。私の個人的な意見ではありますが大切なものは予習と復習、それに限ります」
「そうなのか?」
「はい。授業のちょっと前に教科書を読む。授業の後に分からない問題を解き直す。一回解いただけでは自分が分かった気になっているだけです」
とても正論だった。
「そうか…………何事も努力ってことか」
「そういうことです」
「その努力を日常生活に昇華してくれるともっといいんだけどな」
「…………」
突然の水樹の振りに楓が固まった。
「それとこれは別です」
「何だそれ」
そっぽを向く楓の態度に水樹は軽く笑った。
「何ですか?」
「いや…………相変わらず面白いなって」
「失礼では?」
「ごめんごめん」
「貴方は相変わらずですね。私のことを時々からかって楽しいですか?」
少し不満げな楓。
「いや、まぁ正直楽しいな」
「バカ…………」
「でも、こんなやり取りって友達っぽくないか?」
「…………」
「前言ってなかったけ?『私の周りには友達なんていない』みたいなこと」
「言いましたね」
「でも、今の水面さんは俺に勉強を教えてくれってお願いを快く承諾してくれただろ?」
「そ、それは…………普段の感謝もありますし…………」
「そうか?まぁ少なくとも俺は友達にはなれたんじゃないかって思ってる」
周りよりも特殊な関係。それでも他愛のない会話を普通に話せる仲。ちょっとした弱みも知り合う仲。これはもはや友達呼んでいいものではないのだろうか。
「別に水面さんが否定するならそれでいいけど」
「ひ、否定しません」
余り予想していなかった返事に水樹は少し驚く。
「否定しません…………確かに私と貴方はもうただの知り合いではないのだと思います、多分」
「そ、そうか。だったら俺はもう、水面さんに『さん』は付けない。水面もいつまで俺のこと『貴方』なんて呼ぶんだよ」
「そ、それは…………分かりました。み、峰崎くん…………」
何故か水樹の中にぐっとくるものがあった。
そして恥ずかしそうにうつむく楓の姿も水樹の心臓の鼓動を激しくさせるのには十分だった。
「ですが学校では気軽に話しかけないでくださいね?」
「なんじゃそりゃ(まぁ話しかける勇気は俺にも無いけど)」
「お願いしますね?」
「わ、分かった」
果たしてそれは友達と言えるのだろうか。
「勘違いされると困りますし」
そして楓がぼそりと呟いた。
「勘違い?何と?」
「いえ、何でもありません。忘れてください」
結局距離が縮まったのかどうか明確には分からないまま、二人の勉強会は中途半端なままで幕を閉じた。




