16 レクチャー
評価ありがとうございます。
今回はおまけみたいなものです。
翌日、水樹の風邪はすっかり良くなっていた。
そして現在、朝の四時。水樹は昨日楓が生み出したキッチンの惨状を片付けながら考え事をしていた。
(あと二週間でバイトの期間は終了か…………最近ようやく、朝早く起きる習慣は付いてきたしご飯だって一応カレーは作れるようになったんだよな)
この三週間での楓の変化はめまぐるしかった。スタート地点が0だったせいもあるかもしれないが正直脱・生活破綻者も夢ではないと水樹は思っていた。
「おはようございます」
噂をしていれば、楓が起きたようだ。
「おはよ」
「これは…………すみません。片づけをしていませんでした」
「別に気にしなくていいよ」
昨日は十分看病してもらったし、楓の成長も見ることができた。
だからこのくらいのことは今回は大目に見ることにしていた。
「あのさ、水面さん」
「はい。なんですか?」
「あと二週間で俺のバイト期間も終わりだけど、それまでに生活できるまでにはなりそうか?」
そんな水樹の問いに楓は少し考え、
「私次第ではありますけど…………手ごたえはあります」
「そ、なら良かった」
「ですので…………」
「ん?」
「残りの期間も色々とお願いします」
「お、おう」
改まって挨拶をされた水樹は一瞬たじろぐ。
「まぁ折角早く起きたんだし、早速なにかやってみるか?」
「なにか、ですか?」
「そうだな…………例えば朝食の一品、今から作ってみるか」
そんな訳で数分後、制服に着替えた二人はエプロンを着用した二人は狭いキッチンに並んで立っていた。
「さ、何か作りたいものとかあるか?」
「そうですね…………強いて言えば卵焼きでしょうか」
「卵焼き?案外、地味なんだな」
「そうでしょうか」
「まぁな。でも少しコツがいるかもな」
こうして水樹の卵焼きレクチャーが始まった。
始めは水樹がゆっくりと手順と動作を説明しながら作る。
流石は家事を得意とする水樹、形・味共に完璧なものが完成した。
その後、楓が卵焼きを作るのに取り掛かる。
そして完成したのはスクランブルエッグだった。
「う~ん。コレってスクランブルエッグだな」
「どうしてでしょうか。丸くなるどころか原型を留めていませんね」
「まぁこんなもんだって思ってった。もう一回やってみるか」
「お願いします」
それから時間いっぱい二人は卵焼きの制作に取り掛かった。
「これはどうでしょう」
「うん、形は大分綺麗になったんじゃないか?」
「では、味見もお願いします」
「分かった」
そう言って楓は箸につまんだ卵焼きを水樹の口に運んだ。
これが悪気があってやっているわけではない。むしろ無意識だから余計質が悪いと水樹は思った。
そして肝心の味は、
「あ、うまい」
「本当ですか?」
「ああ、普通に美味しい」
およそ二時間卵焼きを作り続けた甲斐は十分にあった。
その証拠に、楓は嬉しそうな、それでもって相変わらず控えめの笑みを浮かべていた。
そしてその日の朝食と弁当の中身の九割が卵焼きとなった。