15 立場逆転?
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「だから私は一緒に傘を使えばいいと言いましたよね?」
水樹の寝ている布団の枕元、寝間着姿の楓がしゃがみながら水樹に話しかけていた。
水樹は絶賛風邪にて体調を崩し、学校に行ける状況ではない。
楓は普段、言われてばかりだったせいかこの機を逃さんとばかりに水樹を攻めまくる。
「それはしょうがないことだ。それよりも楓は早く準備した方がいいんじゃないのか?」
「心配はいりません」
「いや、心配しかないからこうして言ってあげてるんですよ?」
「いえ、今日は学校を休みますから」
「は?どうして?」
突然のカミングアウト。確かに水樹が風邪な以上、弁当も朝食も食べることができない。だが朝食ぐらい我慢すればいいし、昼食だって学食や購買だってあるから不便はないはずなのだ。
そして楓から返ってきたのはある意味想定の範囲内の答えで、
「貴方の看病です。以前私が風邪を引いた時に看病してくださったのでそのお礼です」
楓は横たわる水樹の顔を上から覗き込みながら、サラッと述べた。
「いや、別に俺は大丈夫なんだが…………」
確かに水樹は以前、楓の風邪の看病のためにわざわざ学校を休んだ。それは一応、楓の心配もあったが当時の理由の八割は大惨事を未然に防ぐのが理由だった。つまり現在の楓の看病をしてくれるという言葉は水樹の取って素直にうれしい話だが余計な心配事が増えるという危機感も少なからず抱いていた。
「病人は黙ってください」
そう言って楓はその場から立ち上がり、せっせと準備を始めた。
水樹も楓の行動を見張る必要があると頭では考えていたが、風邪ということもあり意識は一瞬にして薄れていった。
そして次に目を覚ました時には既に窓から見える太陽は丁度真上、お昼の時間を指していた。
水樹が体を起こすと、額から濡れタオルが落ち、水樹が寝ていた布団の膝の部分にべちゃりと音を立てた。
「湿らせ過ぎだって…………」
更には部屋のは独特のスパイスの香りが広がっていた。
「起きましたか」
そう言って楓はキッチンから姿を見せる。
そしてお盆の上に皿を乗せ、お盆を持ったまま布団に座る水樹の横に腰を下ろした。
「あの…………これって」
「はい、カレーです」
「お粥ではなく?」
「はい、カレーです。私これしか作れませんし」
部屋に充満するスパイスの香りの正体は楓の作ったカレーが原因だった。皿に盛られたカレーは一応カレーの色と容姿を保っている。
「これ、水面さんが一人で?」
「はい…………」
そう言って楓はカレーを一口スプーンですくい、そっと水樹の口へと運んだ。
「ん?」
「食べてください」
「えっと、これで?」
「早くしてください。腕が疲れます」
まさにこれはカップルがする「あ~ん」である。
水樹が風邪であると言え、美少女に「あ~ん」をされるのは照れ臭かった。しかしそれでも楓は大人しく、カレーを口にした。
(はは…………ルーはしゃばしゃば、具材は大きいし、皮が綺麗にむけてない)
「…………どうですか?」
「美味しいよ。これ全部水面さんが?」
「はい…………私なりに頑張りました」
頬を赤くしてうつむく楓。
「ちょっと左手見せてくれるか?」
「…………」
楓は水樹の指摘を受け、一瞬戸惑う。しかしその後、大人しく左手を水樹に見せた。
左手には親指と人差し指に二、三個ののばんそうこうが貼られ、腕には白い肌の一部が赤く腫れたやけどあとが見行けられる。
流石の水樹もこれほどのものとは想定していなかったため多少驚く。
「だから危なっかしいんだよ…………」
「はい…………」
「でも、ここまでしてくれたことは素直に嬉しかった。…………だから、その…………ありがとう」
「い、いえ。私にできることはこれくらいだったので」
この瞬間、二人はお互いの顔を見ることはなかった。
それでも今日の出来事は二人の関係を大きく進めたのではないか、傍から見ればそう感じざる負えない状況だった。